モノローグが印象的に使用されているアニメ作品

 
最近、アニメを観ていてよく思うのですが、劇中で登場人物の独白や心の声…「モノローグ」が非常に印象的、効果的に使われている作品が多くなってきている気がします。
今回は、「モノローグが印象的な作品」というので、私の好きなアニメをいくつか挙げつつ、それが劇中でどのように使用され、またどのような効果を与えていたかについて、思うところを書いてみたいと思います。
 
 

■スケッチブック 〜full color's〜

「私は少し人見知りだ。
初めて会う人とは、ちょっと…上手く話せない。
 
絵は、結構好きだ。出かける時は、いつもスケッチブックを持っていく。
それはきっとカメラ代わりなのだろう」
 
 
                    −第1話「スケッチブックの少女」より

 
ノローグが劇中で効果的に使われていた作品というので、自分の中で一番初めに思いついたのが、このアニメです。
 
高校の美術部員たちが過ごす日々を、穏やかで優しい視点から描いた本作の主人公、梶原空ちゃんは、ちょっぴり人見知りが激しい女の子。
自分の気持ちや思ったことを口に出して相手に伝えるのは苦手ですが、そのイノセントな感受性は何気ない日常の中から、大事な思い出や小さな発見を切り取っていきます。
それはまるで、自分が出会った大切な人たちや風景の輝きを、真っ白なスケッチブックの上に描いていくかのように…。
 
原作の漫画でも主人公の空ちゃんは、ほとんど喋らない(フキダシに入った台詞が全くない)キャラクターなのですが、アニメ版でも全編に渡って主人公のモノローグが効果的に使用されています。物語が持つエモーションを台詞(ダイアローグ)ではなく、主人公のモノローグに託すことによって、なんとも瑞々しい情感に満ちた作品に仕上がっています。
 
 

夏目友人帳

夏目友人帳 1 【通常盤】 [DVD]

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「見たもの。感じたもの。それは、ずっと消えない。忘れはしない。
 
様々な出会いと共に…」
 
 
                    −続 夏目友人帳 第5話「約束の樹」より

 
「妖(あやかし)」と呼ばれる妖怪が見えてしまう主人公、夏目のセンシティブな心情と、原作漫画が持つ叙情性に満ちた質感を、主人公の独白や心理描写を印象的に使用することによって丁寧に描いた作品です。優しく繊細な心を持つ主人公の目線は、この物語の中で描かれる、妖や人との出会いと別れを、時に温かく、時にセンチメンタルに描写していきます。
 
劇中で挿入される、妖や人の健気さや儚さ、強さや希望を物語る夏目のモノローグの数々は、作品世界を象徴する言葉であると同時に、その一つ一つが、たった一人で多くのものを背負い込む余り、人との触れ合いを避けてきた、夏目自身の成長の証でもあります。
その成長は、本当にゆっくりで、時に見ていてもどかしくなる程、少しずつではあるのですが、その儚くて温かくて美しい言葉の数々は、強く私たちの心を惹きつけるエモーションに満ちています。
 
 
「スケッチブック 〜full color's〜」や「夏目友人帳」といった作品では、主人公のモノローグが劇中で非常に印象的に挿入されます。話の流れとしても、最初に主人公キャラのモノローグで幕を開け、本編のエピソードがあり、モノローグによってエピソードが締めくくられるという、「モノローグ→本編→モノローグ」という構成になっているんですよね。
 
そこで語られる言葉には、人との出会いや、景色の美しさ、日常に潜んでいる小さな発見といった、非常に情緒的なものが託されています。私は、こうした作品に出会う度に、本当に心の中が温かくなって、言いようもない多幸感に包まれるんです。
これらの言葉に耳を傾ければ、製作者の皆さんがこうした作品の中で、描きたかったことや伝えたかったことも見えてきそうな気がしますよね。
 
一方で、こうした情感に満ちた作品だけではなく、もっとハードな感情を、モノローグを使用して表現する作品もあります。
 
 

RIDEBACK

「銃弾の飛び交う煙の中、私は止まない鼓動に煽られるように、光を感じた。
 
フェーゴの上で見た光、あの感覚…」
 
 
                    −第12話「光の舞台へ」より

 
「スケッチブック 〜full color's〜」や「夏目友人帳」のように、日常に根ざしたドラマが展開されるアニメと同様に、モノローグによる心理描写の手法が頻繁に使用されるのが、SF、ロボットアニメというジャンルです。
エヴァンゲリオン」「ラーゼフォン」「ゼーガペイン」…こういった作品において、モノローグに代表される心理描写が重要視されるのは、「リアルロボット」という、ドラマにおけるリアリティ性を重んじる概念の隆盛が関係しているのではないかと私は思うのですが、どうでしょうか?
 
RIDEBACK」では、主人公の少女が、人型の自動二輪「フェーゴ」と出会ったことから生まれる、高揚感や葛藤といった感情がモノローグによってストレートに表現されます。
主人公が、過去に大きな挫折を経験しており、「フェーゴ」と出会うことで新しい希望を見出すものの、そのことが自分にとって大切な人を失う結果になってしまい…という「挫折」と「再生」の物語において、主人公のモノローグの数々はストーリーに…特に、軍事主義が物語に暗い影を落とし始める中盤〜ラストにかけて、非常に重厚な奥行きを与えることに成功していたように思います。基本的に、少年が主人公の作品が多い、SF、ロボットアニメの中で、少女を主人公にし、物語の語り手に持ってきていたのも印象深いです。
 
 

■魁!! クロマティ高校

魁!!クロマティ高校(1) [DVD]

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それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?」
 
 
                    −第2話より

 
ノローグを情緒的な描写や、ハードなドラマ展開の演出として使用するのではなく、ギャグの文脈で使用しているアニメもあります。私の中で「魁!! クロマティ高校」は、そうした作品の代表格です。
登場人物たちの心の声を執拗に描くことで、そこから話の文脈や会話のやり取りにズレを生じさせ、笑いに昇華させていく、という手法に関しては、ほぼ原作漫画に準拠した内容になっているのですが、桜井弘明監督の手によって追加された、数々のナンセンスなアニメーションとアナーキーなギャグの数々によって、アニメ版ではその破壊力が更に増しているように思います。
 
特に、ギャグ漫画、ギャグアニメに不可欠な「ツッコミ」を口に出すのではなく、心の声として描写するという手法は、舞台の上でやる「お笑い」とはまた違ったおもしろさに満ちていて、非常に効果的に劇中でも用いられていたように思います。
毎回、物語の導入部に挿入される、主人公神山役の櫻井孝宏さんによる「前略、お袋さま…」という独白の数々も、アニメ版ではナンセンスさに磨きがかかっていておもしろかったですよね。
 
 
と、ここまでの作品は全て漫画が原作のアニメですが、これが小説、ライトノベルを原作としたアニメだと、モノローグが持つ質感や表現方法も、また趣が異なってきます。
 
 

涼宮ハルヒの憂鬱

涼宮ハルヒの憂鬱 1 通常版 [DVD]

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「サンタクロースをいつまで信じていたか? なんてことは他愛もない世間話にもならない位のどーでもいい話だが、それでも俺が、いつまでサンタなどという想像上の赤服爺さんを信じていたかというと、これは確信を持って言えるが、最初から信じてなどいなかった」
 
 
                    −第2話「涼宮ハルヒの憂鬱I」より

 
原作小説が、主人公キョンの一人称視点から書かれた作品であるため、アニメ版でも全編に渡って、語って、語って、語りまくります。
このアニメにおけるキョンの役割は、劇中の登場人物であると同時に、話の進行を進めるナレーターであり、ハルヒと彼女が作りだした世界、という強烈なボケに対してのツッコミ役でもあります。
CV担当の杉田智和さんによる、長台詞を独特の抑揚を付けながらまくしたてる名調子も相まって、ハルヒの奇天烈な言動に振り回されるキョンの言葉の数々が、観る者に強い印象と共感を与える作品となっています。
 
涼宮ハルヒの憂鬱」に限らず、一人称視点から書かれたライトノベルは、アニメ化に際してこうした主人公の視点によるモノローグが重要視されることが多いように思います。
ラノベ原作のアニメが増えたのも、私の中で「劇中でモノローグが多いアニメが増えた」という印象に繋がっているのかもしれないです。
 
 
そして、こうしたモノローグを印象的に使用する作品が増えてくると、その「見せ方」に関しても、工夫が凝らされていくわけで…。
 
 

WHITE ALBUM

WHITE ALBUM VOL.1 [DVD]

WHITE ALBUM VOL.1 [DVD]

ノローグを「語る」のではなく、テロップにして「見せる」ことによって、ストーリーに非常に印象的な効果を与えていたのが「WHITE ALBUM」です。
 

 
台詞とテロップを同時に用いて相反する感情を表現することで、登場人物の心の矛盾や葛藤を描くという手法は、物語後半のドロドロした人間関係において、かなり効果的に作用していたように思います。
 
WHITE ALBUM」で行われたモノローグの演出自体は、ウディ・アレンが「アニー・ホール」で、主人公カップルの恋愛における本音と建て前を、それぞれテロップと台詞を使って同時に表現したように、映画では割かし古くからある心理描写の方法論だと思うのですが、アニメで見るとまた独自の質感があって、とても新鮮に感じました。 
 

■自分なりの「まとめ」みたいなもの

こうやって見てみると日常劇だと、いわゆる「空気系」(私自身は、あんまり好きな言葉じゃないんですが…)っていうのがあって、SF、ロボットアニメだと「リアルロボット系」、ギャグアニメだと、ストレートなボケとツッコミじゃなくて、会話ややり取りのズレから笑いを生み出すタイプのギャグ作品(「みなみけ」とかも、そうですよね。アレも、ギャグアニメとしては、モノローグが非常に多い作品だと思います)なんかが出てきて、近年のアニメの流れ自体が、心理描写に力が入れる方向に向かっているのかなぁ、という印象を受けるんですが、どうでしょうか?
 
他に、モノローグがよく使われるアニメ作品の傾向として、やっぱり恋愛ものの作品も多い気がします。萌え系のラブコメでも、ツンデレだったり、ウブだったりで、ストレートに主人公への好意を伝えられない女の子の心情や妄想を、モノローグを使って表現するっていうのも様式美の一つとして確立されてますよね。「ハヤテのごとく!」のナギお嬢様とか、「我が家のお稲荷さま。」の佐倉さんとか。
 
一方で、「あさっての方向。」みたいに、叙情性に満ちた作品でも、モノローグをほとんど使用せずに、キャラクターのちょっとした所作や、劇中の「間」で心理描写を行う作品もありますし、現在、私がドッパマり中の「獣の奏者 エリン」では、主人公の心理や運命が、モノローグの代わりに、自然や風景の描写に託されて表現されていきます。描き方も様々になってきていると思うんですよね。
 
私は、アニメ作品におけるこうした表現の数々を見る度に、その作品が持つ情緒に深く心を打たれたり、その巧みさに感心させられたりします。
 
アニメが持つ、こうした細かさや奥深さに出会うことも、私にとってはアニメを見る楽しみの一つだったりします。こういう感動に出会う度に、アニメを見るのを止められなくなっちゃうんですよ。
 
 
 
自分の余り豊富とは言えない知識の中からでも、パッとこういったアニメ作品が出てきて、しかも、モノローグの使い方や見せ方もなかなかにバラエティーに富んでいたので、自分自身、今回のエントリを書いていて本当に楽しかったです。
 
こうやって並べて見てみると、漫画やラノベの原作がある作品ばかりなので、「モノローグが印象的なアニメ」というよりは、「心理描写が巧みな漫画、ラノベ作品」と言った方が正しいのかもしれないです。
ただ、アニメだとそこに声優さんの声が付くっていう大きな魅力が加わるんですよね。それも、自分の中では、大きく印象に残る理由だったりします。
 
「モノローグが印象的な作品」というので、自分の中で思い出深いのは、やっぱり「彼氏彼女の事情」です。
彼氏彼女の事情 VOL.1 [DVD]

彼氏彼女の事情 VOL.1 [DVD]

男の子と女の子の「恋愛」が、モノローグで綴られていく様が、とにかく甘酸っぱくて、時に痛々しくて、俯瞰で見ている私たちには、その様が時にもどかしくすらあるんだけど、そのもどかしさが何ともたまらないんですよね。