よゐこ・有野晋哉と声優・杉田智和に見る「オタク的笑い」の差異

tunderealrovski2009-07-03

 
最近、一番のお気に入りのアニラジが、文化放送地上デジタルラジオ「超!A&G+」で放送されている杉田智和のアニゲラ!ディドゥーーン」です。
声優界の中でも、特にマニアックなオタク系の知識に秀でている杉田智和さんがパーソナリティーを務めていらっしゃる番組なのですが、番組中に出てくる豊富なオタク系キーワードの数々と、杉田さんの喋り口の巧みさがツボ過ぎて毎回大笑いをしてしまいます。
 
ちょっとおもしろいのがこの番組ゲームをネタにした番組なんですね。
番組中には、杉田さんがスタッフと共にプレイしたゲームを実況中継するコーナーなんかもあり、自分なんかは聞いていて、よゐこ有野晋哉さんが出演されているゲームセンターCXを連想してしまい比較をしてしまいます。
で、そうやって考えた時に、杉田智和さんと有野晋哉さん。
同じく「ゲーム」をネタにした番組をやりつつも、オタク文化に対する立ち振る舞いが非常に対照的で、とても興味深く思うのです。
 
今回のエントリでは、お二方の「オタク」を「笑い」にする手法について、自分なりにちょっと比較をしてみたいと思います。
 
 

有野晋哉が持つ一般人の視点

先ずは、よゐこ有野晋哉さんの「オタク的な笑い」について考えてみます。
ゲームセンターCX」を始め、オタク系のバラエティー番組に頻繁に出演をされている有野さんですが、その根底には常に「一般人の視点」が存在しているように思うのです。
 
ゲームセンターCX」で有野さんが頻繁に用いる「笑い」の手法の一つに、「テレビゲームのキャラクターやゲームのストーリー展開を、日常的なものに例える」というものがあります。例えば、アクションゲームをやっている時に、身体の色が変わって再登場した敵キャラクターに対して有野さんは「Tシャツを着替えてきたのか!?」とツッコミを入れます。
 

 
有野さんの言葉のチョイスや、「ボヤキ」調の独特な言い回しも相まって、テレビゲームというファンタジーの世界が生活臭のする現実的な話に落とし込まれる様が妙に笑いを誘うこれらのツッコミの数々ですが、この辺りの言葉のチョイスを見ていて強く感じるのが、有野さんの一般人の視点からゲームを語ろうとする意識です。
 
テレビゲームというオタク的なアイテムをゲームに興味がない人でも分かるレベルに落すために、上記のような日常的な例えや一般人視点からのツッコミを有野さんは番組中で行っているように思うのです。
有野さんは、オタク的アイテムに囲まれながらも、むしろそれらを客観視して、ある程度の距離を保とうとしているように見えます。
 
オタク的な文化に接しつつも、常に一定の距離を保つという有野さんの姿勢、芸風を強く感じたのが、かつてラジオ日本で放送されていたラジオ番組「よゐこのアキパラ」内における以下のような発言です。
有野さんが東京ゲームショウでテレビゲームのベスト5を選んだニュース(■参考URL)が番組内で紹介された時に、「バイオハザード」や「スーパーマリオブラザーズ」といった「ベタ」なチョイスに対して、濱口さんが「お前、随分ベタなもの選んだな〜」ってツッコンだんですね。その時に有野さんが、
 

「できれば『リンダキューブ』とか本当に好きなモノ入れたいねんけど、知らんやん。『ちょっとゲームが好き』ぐらいの人やと。そこで『リンダキューブって何?』ってなるのもサブいし、みんな知ってて名作ってなると、やっぱこの辺かなって」

 
といった内容の発言をしていて、要は一般の人が知らないオタク的な知識を全面に出すこともできるけど、それをやってしまうとコアな層以外の笑いをとれなくなってしまうからやらない。この辺のバランス感覚というか空気を読む上手さこそ、有野さんがオタク的アイテムを扱いつつもコア層だけに止まらない人気を得ている理由なんじゃないかな、と思ったんです。
 
 

有野晋哉のオタクに対して「引いた」態度

こうした有野さんのスタイルは、例えば「ゲームセンターCX」と同じくフジテレビの衛星放送でやっていた「よゐこキン消し〜濱口が有野に全418体を紹介する企画〜」といった他のオタク系の番組においても徹底されています。
 

 
この番組はタイトルの通り「キンケシ」を、よゐこの相方である濱口さんが紹介していくという企画なのですが、この中で有野さんは「キン肉マンを知らない人」というキャラクターを貫くんですね。
有野さんが本当はキン肉マンの知識があることはラジオ番組なんかの発言を聞けば分かるし、よゐこが舞台でやっているアニメ、漫画ネタのコントを観ている人なら誰だって知ってる。年齢的にも直撃世代で知らないハズないのに、番組上は「知らない」という態度を貫き通す。そしてキン肉マンの薀蓄や熱い思い入れを語る濱口さんとの間に温度差やギャップを作って笑いをとろうとするのです。
キン肉マンに異常に詳しい濱口優」(=オタク)キン肉マンをほとんど知らない有野晋哉」(=一般人)というキャラクターで番組を進行しつつ、有野さんはオタク的な語り口をする濱口さんに対して「引いた」態度で「気持ち悪い」とか、悪く言えば突き放した態度をとります。
 
テレビアニメ「コードギアス」の特別番組に有野さんが出演した際に、番組中の言動が元でご本人のブログが炎上するなんて事件が過去にありましたが、時にオタクの側にいる人たちとの間でこのような軋轢が起こるくらい、有野さんは「オタク」に対してちょっと引いた位置から行動をとろうとします。
 
それができるからコア層だけじゃなくて、一般の人にもゲームやアニメをネタにした「笑い」を届けることができる「オタク」を笑いにしようとした時に、この有野さんの態度は絶対正しいと思うし、とても賢い方法論だと思うんです。
 
 

杉田智和のディープなオタク語り

こうした有野さんのオタク文化に対する立ち振る舞いに対して、杉田智和さんは真逆の方向から「笑い」をとりにいきます。つまり、一般人の視点を取っ払い、徹底してオタクの立場から語るディープな「オタク語り」を用います。
 
例えば、「アニゲラ!ディドゥーーン」に送られてきた「自分の地元では当たり前だと思っていたことが、実はそうでもなかったことってありますか?」というリスナーからの質問メールに対して、「家の近所に蜜の出る樹があり、それを蹴るとカブトムシが落ちてくる」というトークをした後に、杉田さんはこう続けます。
 

ある日、カブトムシを捕りに行こうと思って蜜の出る樹の所に行ったらね、スズメバチが大量発生しててね…もう無理だった。
もうリアルに「ひぐらしのなく頃に」の世界だよホントに。ねぇ。
「あそこに行くとカブトムシがいるよ」って案内されて行ってみたら、スズメバチ一杯いるんだよ。
 
「手前! この謀りやがったな!」
「嘘だッ!」って言ってね。
 
(スタッフ笑)
 
「ふざけんな、お前!」「この鉈、何でできてるの?」「葛」みたいなね。平野耕太先生の漫画で読んでるんですけどね。

 
「この鉈、何でできてるの?」「葛」っていうくだりは、平野耕太先生の漫画「以下略」に出てきたやり取りですよね。

以下略

以下略

普通の質問メールに対しても、「ひぐらしのなく頃に」というゲーム(アニメ)作品の名称や劇中での台詞を用い、挙句にその作品がパロディのネタになっている漫画作品も引用して返答をする。
オタク的キーワードの数々を次々にリンクさせながら、過剰といえる迄に詰め込んで言葉にするスタイルこそが、杉田智和さんのオタク的語り口の魅力です。
 
勿論、アニメ、漫画、テレビゲーム、映画、海外ドラマ、家電製品…と多岐の分野に渡る杉田さんの豊富なオタク的興味と知識、ボキャブラリーについていける人なんて極々限られるでしょうが、知らない人にもそれらをおもしろく語ることができるセンスがあります。リスナーは、その知識量やテンションの高い語り口に若干呆れつつも、その濃密さ加減に思わず笑ってしまうのです。
 
杉田さんが語っている作品の名称や内容を知っている人はそこに共感を覚え、知らない人はその語り口の「濃さ」に笑ってしまう。そして、そのような語り口を可能にしているのは、他でない杉田さんのオタク文化への愛だと思います。
 
 

■まとめみたいなもの

「オタク」と「笑い」に対して、対象的な方法論でアプローチをするお二方について長々と書かせていただきましたが、ゲームやアニメなど「オタク的な笑い」に重要なのは、有野さんのように客観性を持ってある程度引いた位置に立つか、杉田さんのように膨大な量の知識を溜め込んだ上で、その引き出しの多さとキーワードを選ぶセンスを磨くとかいう、どちらかの方法論ではないかと思うのです。
 
それはつまり、オタク文化に対して「外から語るか」「中から語るか」の差だと言えます。
 
昨今のお笑いブームの中で「オタク」をネタにする芸人さんやバラエティー番組を目にするようになりました。
そんな中で、私が見ていて気になるのが、ご本人のキャラクターであれ、コントの設定であれ、エキセントリックな言動や気持ち悪さみたいな部分のみを過剰に演出することで、「オタク」を笑いにしようとしている芸人さんや番組が非常に多いということです。
こういった安易な「オタク的な笑い」というのは、「客観性」と「オタク的な語彙やセンスを磨く努力」両方を放棄してしまっているように私には見えてしまいます。
 
本来「オタク」や「オタク的もの」を「笑い」にするには、相当なテクニックとセンスが必要なのだと思います。そんな中で、オタク的なアイテムや知識を用いながら、それらを笑いにできる有野さんや杉田さんの語り口というのはやはり魅力的ですし、本当におもしろいと思いますね。
 
 
 
<関連URL>
よゐこのポテンシャルと戦術的なキャラ出し(昨日の風はどんなのだっけ?様)