「アメトーーク」における蛍原徹の「オタク」への接し方を考える

tunderealrovski2009-07-19

 
雨上がり決死隊さんのトーク番組「アメトーーク」が好きでよく観ているんですが、毎回「ホトちゃん」こと蛍原徹さんの司会ぶりに感心させられます。
 

 
アメトーーク」の最大の魅力は、そのマニアックなトーク内容にあると思っているのですが、そういう「オタク」っぽいテーマやゲストに対しての蛍原さんの立ち振る舞いっていうのが非常に真摯というか、非オタクの人がオタク的な人物やアイテムに接する時の理想的な姿に思えるのです。
 
今回のエントリでは、そんな蛍原徹さんの「アメトーーク」における仕事ぶりについて、自分が感じた「スゴさ」を書いてみたいと思います。
 
 

■「アメトーーク」における蛍原徹の基本的な立ち位置


 
前述したように、「アメトーーク」のおもしろさは、そのマニアックでオタク的なトーク内容だと思っています。
そんな中で蛍原さんは、ほとんどの企画においてそのテーマに関する知識を持たない「門外漢の人」「部外者」という立ち位置で番組に参加をしているように感じます。
あらゆる物事を知らない人というキャラクターを演じきることで、ゲストのマニアックなトークに対してフラットな立場からリアクションを行い、番組をつつがなく進行させる。
それこそが「アメトーーク」における蛍原さんの役割であり、キャラクターだと私は思うのです。
 
アメトーーク! DVD 5

アメトーーク! DVD 5

 
例えば、現在発売中の「アメトーーク」DVDの5巻に収録されているエヴァンゲリオン芸人」は、雨上がり決死隊の二人による、こんなオープニングトークで幕を開けます。
 

(オープニングで観客の前に登場して、エヴァンゲリオンのグッズに囲まれたセットを見渡し)
 
蛍原「これ、僕は分からん回やなぁ…
 
宮迫「だから、蛍原さんは第28使徒ですからね」
 
(観客笑い)
 
宮迫「分かります? 分かりません?」
 
蛍原「(ウンザリした表情で)今週オモロない…

 
まだゲストも登場していないオープニングの時点で、自分の知識や興味の外にあるテーマに対して困惑した表情を見せる蛍原さん。
トークゲストである、くりぃむしちゅーの有田さんやオリエンタルラジオの中田さん、世界のナベアツさん、バッファロー吾郎さんに加藤夏希さん…といったゲストの「エヴァ芸人」が登場すると話題は更にディープになっていきます。
 

蛍原「えぇ、もう意味が分からん。意味が分からへん」
 
ナベアツ「意味が分からないんスか? 蛍原さん、あんたバカァ〜?
 
(この後、ゲストと宮迫さんの間でエヴァのキーワードや名台詞の言い合いがしばらく続く)
 
蛍原「また、この一時間やぁ。こんなんずっと言われんねやぁ…」
 
中田「蛍原さん! 逃げちゃ駄目だ!
 
(観客笑い)
 
バッファロー吾郎・竹若「逆に『チャ〜ンス』なんですから」
 
有田「全てはシナリオ通りですよ
 
(観客笑い)
 
蛍原「…(首を傾げる)」

 
劇中のキーワードや台詞を多用した、如何にも「オタク」っぽいゲストと宮迫さんのトーク。作品に対する知識がない蛍原さんは、番組の序盤からゲストとゲスト側についている相方の発言に翻弄されウンザリとした表情を見せます。
アニメや漫画なんかのオタクっぽいテーマに対しては乗っかることの多い宮迫さんに対して、その辺の文化に疎い(ということに「アメトーーク」ではなっている)「非オタク」の蛍原さんは、あからさまに「楽しくない」様子で序盤は虚無的な態度を取り続けるのです。
 
しかし、ここからゲストとのトークが進んでいく中で、蛍原さんは徐々にその態度を変化させていきます。
 
 

蛍原徹の「オタク」への歩み寄りの仕方


 
私が「アメトーーク」の蛍原さんを観ていて「スゴイ!」と思うのが、この蛍原さんのオタク側への歩み寄り、シフトの仕方です。あらゆるテーマに対して「興味が無い」「知らない」という態度を取る蛍原さんなのですが番組が進行し、ゲストの熱のこもったトークを聞いている内に、彼らの話に聞き入り次第に距離を詰め始めるのです。
 
前述の「エヴァンゲリオン芸人」における蛍原さんの態度の変化をちょっと追ってみます。
オープニングトークの後、蛍原さんの「エヴァ」に対する無知っぷりを一通り笑いにした後で、今度は「エヴァンゲリオンの基礎知識」と題して、エヴァ芸人が作品をレクチャーするトークコーナーが始まるのですが、そこでのやり取りが秀逸なのです。
 

蛍原「先ず、基本的なことから説明してもらってもいいですか?」
 
有田「例えば、今までのロボットアニメって色々知ってるでしょ? 『マジンガーZ』でも何でもいいし。それは、悪が来るのよ、地球に滅ぼすために。それを、正義の味方が倒します。それが従来のロボットアニメ。これを進歩させたのがガンダムですよ」
 
蛍原「ほうほう
 
有田「何故なら、ガンダムは人と人の戦いだから。人間同志の考え方のぶつかり合い。そして、エヴァンゲリオンは何と戦っているか? …これが分からないんです」
 
蛍原「えぇ〜!!
 
有田「コレ、謎なんです。(ボードに貼ってある使徒の写真を使って説明しながら)コレ、敵なんですけど、いきなり最初が先ず第3使徒からなの」
 
蛍原「(椅子から立ち上がり身を乗り出して)第2と第1は?
 
有田「分かんない。どっから来てるかも分からない。何が目的で来てるかってのも全く分からない」
 
蛍原「謎だらけなんが面白いの? いきなり第3からなんや。ナベ、何からって?
 
ナベアツ「え? (アホになって)だいさんっ! さきえるぅっ!
 
(観客笑い)

 
番組冒頭では門外漢のテーマ「新世紀エヴァンゲリオン」に対してあれだけ戸惑いを見せていた蛍原さんですが、相手の話を聞いている内に徐々に興味を持ち、驚嘆の声を上げたり、話に食いつきを見せ始めます。
また、その流れの中でゲストのナベアツに「3の倍数と3の付く数字でアホになるネタ」を振ったりと、番組のMCらしい器用さをフイに見せるのも見逃せません。
(ナベアツが振られた直後に「え?」と反応していることから、恐らくこのフリは台本にない、蛍原さんのアドリブではないかと思います。)
 
続く「衝撃の名シーン」というコーナーでは、各ゲストがエヴァのお気に入りのシーンを紹介する、という流れになります。ここで、オリエンタルラジオの中田さんが、使徒ゼルエル」との戦闘シーンを紹介するのですが、この話の中で蛍原さんのエヴァに対する態度は急変するのです。
 

(ぜルエル戦のVTRが流れる)
 
中田「この後がまたスゴイですからね。ここから暴走して。アレどうやって倒すと思います?」
 
蛍原「え? どうなんのん?」
 
中田「ガブガブ喰うんスよ!」
 
(観客笑い)
 
蛍原「喰うの!?」
 
中田「喰って、雄たけびで終りですよ、あの回!」
 
有田「観てた人みんな、『うわぁ〜、何コレ!? 何コレ!?』って」
 
蛍原「いや〜でも…俺、そこまで観たい!

 
遂にエヴァを「観たい!」と言い出す蛍原さん。
中田さんはエヴァンゲリオンの大ファンらしく、このプレゼンの最中に熱が入りすぎて、それこそゼルエル戦のエヴァ初号機の如く大暴走をしてしまうのですが、何と言うかそのオタクの愛ある故の大暴走を蛍原さんがキチンと受け入れてくれたようで、ちょっとこの辺の件は見ていて面白いです。
 
また、話題に対して知識がない故に、テーマに対して天然ボケの発言をしたり、相手の話に対して新鮮なリアクションをとったり、という姿もオタクから見ると非常に好感が持てるのではないか、と思うのです。
 
もちろん、蛍原さんのこうした言動は、トークを盛り上げるため、ゲストの話に弾みを付けるためのテクニック的な側面が大きいと思いますし、番組で振り当てられたキャラクターという面も強いと思います。
しかしながら、蛍原さんが今まで興味がなかったものに対して、番組中に徐々に興味を持ち始め、オタクに歩み寄っていく「聞き上手」ぶりは、見ていて単純に楽しいです。
 
アメトーーク」の一番素晴らしいところって実はこの部分で、例えば土田晃之さんや品川さんより「機動戦士ガンダム」に詳しい人は沢山いるだろうし、話せる人は確かにいるんです。でも、その話を蛍原さんより聞いてくれる、あるいはおもしろく料理してくれる人って、あんまりいない気がするんですよね。
あんまりスポットが当たることがない気がしますが、私は蛍原徹さん。スゴイ人だと思ってます。
 
 

■まとめみたいなもの

本人はオタクじゃないのに、何故か周囲にオタク趣味を持つ人がやたら集まる、という人がいます。
私の周囲にも、自身はアニメや漫画、アイドルやパソコンといったオタク関連の趣味に対して余り積極的ではないにも関わらず、やたら「濃い」友人に囲まれているという人がいます。
そういう人っていうのは、こっちの趣味の話を、ある程度興味を持って聞いてくれて、頭ごなしに否定したりせずに、こっちに歩み寄って来てくれたりする。やっぱり蛍原さん同様「聞き上手」なんですよね。
 
こういう人とオタクの付き合いって、自分の中では結構理想的に思えたりするんですが、どうでしょうか?
 
 
 
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