「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」 劇中における「余計なモノ」への描写について

 
今期から始まった新番組あにゃまる探偵 キルミンずぅ
 

 
パッと見は完全な女児向けアニメにも関わらず、いざ見てみるとあちこちにヘンテコなところがあって、自分の中で要注目作になっています。OPやEDが何故かタイポップスだったり、これまた何故か一部地域では「あにゃまる探偵 キルミンずぅ+」として深夜にリピート放送を行っていたり…。
 
中でも、個人的にとてもおもしろく感じているのが、作品内のポップでファンシーな雰囲気にそぐわない「余計なモノ」の描写です。
 
 

■「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」で描かれた市議会議員

例えば、第2話「わたしがイヌって……ホント!?」では、そんな「余計なモノ」が度々エピソードの中に登場をします。
 
第2話では、御子神リコリムに続いて彼女達の姉であるナギサが、不思議なコンパクト「キルミン」の力によって犬に変身をできるようになり、皆でその特殊能力を使いこなせるように練習をする姿が描かれていたのですが、それに並行をして物語の中で動いていたのが、恐らくは今後の物語において敵役となるであろう不穏な空気を出しまくりの羽鳥カノン(演じるは、丹下桜さん!)とミサの親子。
カノンはリコとリムのいるクラスに転入をし、母親であるミサは何らかの目的を持って神浜市の市議会に接触を行う。主人公たちが暮らす街に二人がジワジワと侵食を開始する様が描かれ、物語は御子神姉妹と羽鳥親子との対立が今後のメインフレームとなるであろうことを視聴者に暗示します。
 
そこで、私が強く興味を惹かれたのがミサが接触を行う市議会議員たちの描かれ方です。明らかに裏がありそうな「神浜市を世界遺産に指定する」というお題目を唱えるミサに対して、友好的に話を進めていく神浜市の議員たち。
 

 
ご覧になっていただければお分かりの通りその姿は、タラコ唇、肥満体、禿頭と、見る側に余り良い印象を与えない…ハッキリ言ってしまえば醜悪な姿として描写をされています。そこには、主人公の父親や母親、或いは学校の先生といった身近な大人たちの姿や作品の雰囲気とは異なる、明らかなタッチの差異が存在します。
 

 
まるで、新聞の風刺漫画のように「権力者」としてのデフォルメをされたその姿には、反射的に政治や為政者に対してのネガティヴなイメージ…有り体に言って、怠惰であるとか、腐敗であるとか…を連想させるのに十分なインパクトがあります。
 
子ども向けの、しかも女の子向けのアニメ作品において、こうした為政者の描き方をするのは明らかに「余計」だと思うのです。
ましてや、このアニメの中でメインに描かれているのは、女の子がキグルミ姿のヒロインに変身をし、その力を使って動物を助けたり、火事と間違えて焼き芋をしていた焚き火を消してしまい怒られたり…といった、微笑ましくて可愛らしいエピソードの数々です。
それに比べると、この第2話に登場をした為政者の姿というのは、そうした作品の方向性に余りにもそぐわない気がするのです。
 
 

■「ジュエルペット」との比較

勿論、子ども向けのアニメ作品にだって、政治や大企業など、一見すると子ども向けのモチーフとは思えないモチーフが登場することはままあります。
 
例えば、最近の作品だと「ジュエルペット」が、非常におもしろい形で政治を物語の中に取り込んでいました。
このアニメ作品では、ファンシーなぬいぐるみのようなジュエルペットが暮らす魔法の国「ジュエルランド」と首相官邸がホットラインで繋がっており、ジュエルランドやジュエルペットの存在は一部の政府高官しか知り得ない国家機密となっています。
 

 
ただし、「ジュエルペット」における政治の描かれ方にシリアスな雰囲気はほとんどなく、あくまでコメディの一要素として描かれています。
本来はファンタジーな存在であるハズの魔法の国やその住人たちが、文明の利器であるノートパソコンを通して人間界と、それも政界と連絡を秘密裏に取り合っているというナンセンスさ、正統派魔法少女アニメとしての方向性を逸脱した脱臼感覚こそが「ジュエルペット」の持ち味であり、おもしろさです。
(その反動のように、最近のエピソードでは主人公のリンコが魔法のステッキを手に入れ、魔法の修行をしながら様々なトラブルを解決していくという正統派魔法少女アニメへの回帰傾向にあります)
 
あくまでギャグのギミックとして政治や大人の姿を用いている「ジュエルペット」対して、「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」で描かれた政治や議員の姿というのは、余りにもストレートでガチンコであるように思うのです。
そもそも、敵役が街を掌握するのに先ず議会に働きかけ、為政者を見方に付けるというアプローチが生々し過ぎます。
その生々しさと、メインで描かれているキグルミ少女たちとのギャップときたら…。
 
 

■余計なモノを描きまくる「あにゃまる探偵 キルミンずぅ

他にも、「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」では、上記のようにその作品イメージにそぐわない「余計なモノ」が頻繁に登場をします。
 
EDではカラフルな色彩の中を主人公の少女と様々な動物たちを動き回るアニメーションが使用されていますが、その中で、蛇に捕食されるネズミの姿などは正にその典型と言えると思います。
 

 
或いは、生殖器を強調されてデザインされている猫なんかもそうです。
 

 
また、第2話のラストでは、犬の能力を得て嗅覚が鋭敏になったナギサが、動物の研究者である父親の身体に染み付いた糞の匂いを指摘するシーンなんかもあります。
 
劇中のポップなカラーに合わせてあるので決してグロテスクな感じはないのですが、弱肉強食や生殖といった自然界の摂理や不快な匂いなども、やはり「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」のイメージとは相反するもので、決して劇中で積極的に描くべきものではないように思うのです。
ものすごくシンプルに感想を言わせてもらえるならば「何で、そんなことするのん?」です。
勿論、無菌化されてただただクリーンなものだけを与えても子どもは喜ばないのでしょうが、「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」に登場をするこうしたファンシーな雰囲気にそぐわない「余計なモノ」の描写は、劇中で楽しそうに駆け回るキグルミ少女たちとのギャップから、とにかく眼を引きます。
 
 

■まとめ

まだ始まったばかりの番組なので、これから物語がどういう方向に進むのかは分かりませんが、こうした「余計なモノ」の描写が今後物語に対してどのような作用を行うのか、個人的に非常に興味があります。
 「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」のファンシーな女児向けアニメという範疇を越えた、余計なモノへの、もっと強い言葉を使わせてもらえるならば政治や自然の摂理や不快な感覚なんかの禁忌への踏み込み具合は見ていておもしろいですし、新しい何かを見せてくれるのではないかという期待もあります。
 
前述の為政者を抱えた羽鳥親子との対立を通して重苦しくてシリアスな雰囲気になったりしたら、個人的には大興奮なんですけどね。
 
 
 
<関連エントリ>
■効果音や音楽が凝っているアニメ作品「あにゃまる探偵キルミンずぅ」