テレビアニメ「ささめきこと」 劇中での、ささめかない音楽について

 

 
原作漫画をずっと読んでいて、倉田英之さんのファンでもある私が、今期のアニメ作品群の中でも特に楽しみにしていたささめきこと。シナリオや演出は勿論のこと、音楽面でも本当に情緒豊かで美しいアニメ作品に仕上がっていて、毎週放送を楽しみにしています。
 
BGMにはかなりの数の楽曲が用意されているのか、劇中では常にかしましく音楽が流れており、繊細で、だけどどこかコミカルで…という「ささめきこと」の世界観を盛り上げると共に、音を使った心理描写なんかも効果的に行われていて、アニメ楽曲大好きな自分は、その辺りにも注目をして見ています。
そんな「ささめきこと」のささめかない音楽について、今回は徒然とエントリを書かせていただきます。
 
 

■「ささめきこと」と「アカルイミライ

ピアノや弦楽器の音が美しくエモーショナルなメロディを奏でている「ささめきこと」のBGM。この音楽を担当されているのが、蓮実重臣さん。
蓮実さんは、これまで主に映画のサウンドトラックの製作をされていた作曲家で、アニメの楽曲を手掛けるのは恐らく今回が初だと思います。
 
蓮実さんが音楽を手掛けた作品の中でも私が特に大好きなのが、黒沢清監督、オダギリジョー主演による映画アカルイミライです。
 

<黒沢清アカルイミライ」 (メディアファクトリー)>
 
心の奥底に秘めた暴力性のために度々無軌道な行動を起こしてしまい、周囲とのコミュニケーション不全に陥っている若者の日常と、その先にある未来を、黒沢監督らしい映像感覚とブラックな感性で痛烈に描き出した作品です。
 
この映画の中で、蓮実さんは自身の音楽ユニットPACIFIC 231サウンドトラックを担当されています。
PACIFIC 231」は三宅剛正さんとのユニットで、この時点では蓮実さんが作曲面でどの程度のイニシアチヴをとられていたのかは分からないのですが、この映画の中で聴くことができる音は所謂「エレクトロニカ」や「ポストロック」といった音楽ジャンルに分類できる、そしてその影響下にあると思われる空間を活かした浮遊感のあるサウンドです。
 
ささめきこと」では、生楽器を効果的に使用した、メロディの密度が高い楽曲を作られていますが、そこに内在しているエモーショナルな音の質感には、蓮実さんの作曲家としての才に加えて、こうした映画音楽での経験も大きく影響をしているように思います。
 
アカルイミライ」は、リアルタイムで劇場で観て強いインパクトを受けた、本当に大好きな映画なのですが、まさか黒沢清と「ささめきこと」がリンクするとは思いませんでした…。
 
 

■「ささめきこと」音楽を使ったおもしろい演出

ささめきこと」では、蓮実さんの作曲によるBGMがふんだんに使用されており、その時々で物語の情感を高め作品の雰囲気を形作っていますが、中でも特におもしろく感じたのが第2話「かわいいひとたち」での以下のシーン。
 

 
純夏に気に入られるために女装をしていたハズが、どういうわけだか女性ファッション誌のモデルになってしまった朱宮。
このシーンでは、アニメ作品のBGMとしては珍しく「カンッ! カンッ!」という機械音を思わせるインダストリアルミュージックが使用されています。
その荒涼とした人口的な音には、「ささめきこと」で使われているピアノや弦楽器による他のBGMに比べてると余りにも異質な響きがあり、華やかなファッション雑誌の撮影現場に似つかわしくない違和感が観る者に伝わります。
 
そこから浮かびあがってくるのは、女性だらけの撮影現場にいる女装した男子という朱宮の存在の異質さと、彼の緊張感や覚悟といったエモーションです。
 
インダストリアルミュージックは、その音の特殊性から余りアニメでは耳にしない類の音楽ジャンルであるように思います。この辺の音の使い方なんかは、如何にも映画音楽を作られてきた方の仕事だな〜という印象を受けます。
 
ささめきこと」の世界観で使われているBGMや主題歌とも相容れない、決して映像作品との親和性が高いとも言えない特異な音楽ですらも、効果的に演出に使用して、見せる、聴かせることができるアニメスタッフのセンスと、そうした幅広い音楽性を持っている作曲者の才が端的に現れているようで、何気ない一場面なのですが自分の中で非常にインパクトのあるシーンでした。
 
 

■まとめ

他にも、OPとEDを清浦夏美さんの歌で統一することによって作品の個性と世界観を確固なものにしていたりと、音楽面でも非常にこだわりを持って作られている作品なのかな、という印象を受けます。
主題歌を歌っているのが清浦夏美さんで、音楽の提供がflying DOG、そしてピアノ曲のBGMというと、私の大好きな「スケッチブック〜full color's〜」が連想されますが、「ささめきこと」の音楽によって生み出される叙情性もやはり素晴らしく、作品に引き込まれてしまいます。
 
ささめきこと」は、その作品性と同様に、BGMや音楽の使い方も非常に優れた作品だと私は思います。
蓮実重臣さんによって作られたサウンドが、少女たちの物語と世界観にどのように影響を与えていくのかに注目しつつ、彼女たちの「明るい未来」を信じて見守っていきたいと思います。
 
 

■おまけ

関わっている音楽家が同じだからというわけではありませんが「ささめきこと」と「アカルイミライ」って、何か自分の中で関連付けて見ちゃうんですよね。両者共に、見ていてもどかしい、切なくなる程のコミュニケーションの行き違いを描いているトコロとか。
あと、おもしろいのがタイトルの見せ方。
 

 
ささめきこと」では、各話のラスト、エンディング曲とスタッフロールが流れ始めたあたりでサブタイトルが出てきますが、「アカルイミライ」でも物語のラスト、高校生たちが段ボールを蹴りながら街の中を歩くシーンでようやくタイトルが出現するという演出がとられています。
観る側の勝手なこじつけですし、ただの偶然の一致なんでしょうが、両者共にこういう見せ方ができるセンス、その辺りに目が行き届く作り手のこだわりですよね。実写映画とアニメという違いこそあれど、そういう共通項があるのが、おもしろいな〜と。
 
 
 
<関連エントリ>
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ささめきこと」とは対照的なのですが、アニメ、ゲーム楽曲のプロフェッショナルによる「にゃんこい!」のシンセを多用した音の多様性とメロディの豊潤さっていうのも、今期のアニメの中ではおもしろいと思うんですよね。
 
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■175cmの見せ方―『ささめきこと』と長身少女(EPISODE ZERO)
ささめきこと」演出の解説について。自分にはセンスがないので、こういうエントリは、ホントに勉強になります。
■THE BACK HORN / 未来(Youtube)
映画「アカルイミライ」の主題歌になったTHE BACK HORN「未来」のPV。映画の重要なシーンが、映像の各所に挟み込まれています。