「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」 河森正治さんのインタビューから考える、人間と動物の視点

 
あにゃまる探偵 キルミンずぅにものの見事にハマっています。
そんな中、太田出版の「CONTINUE」に、本作の原作者である河森正治さんのインタビューが掲載されているのを発見しました。
 

 
メインは「マクロス」の特集号なので、「キルミンずぅ」のインタビュー自体は全部で3ページと短めなのですが、興味深い発言が色々とあり、「キルミンずぅ」ファンは一読の価値があると思います。
 
今回は、インタビューの一部を抜粋しながら、「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」という不思議なアニメ作品について、自分なりにちょっと考えてみたいと思います。
 
 

■「CONTINUE Vol.48」 河森正治インタビュー


 
元々、「『魔法少女もの』を一度作ってみたいなとは思っていた」という河森さん。そこに、「人間が動物に変身をする」というアイデアを加えて生まれたのが「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」というアニメ作品のようです。
「動物」という要素を加えた理由については、以下のように語られています。
 


地球少女アルジュナ」を作っているときに「生物」や「生態系」について、いろいろと調べたんです。あの作品は「大地」であるとか「植物」であるとか、そういった動かないものを主に題材にしていたんですけど、「動物」もかなり面白い。

 
地球少女アルジュナ」は、環境問題を始めとした、数々の社会的視点を作品内に盛り込んだアニメでしたが、そこでの経験が「キルミンずぅ」のような児童向け作品にも流れていると考えると、非常に興味深く感じます。
確かに、「キルミンずぅ」でも、人間が動物に変身するというファンタジックな要素とは別に、自然遺産や環境保護の整備なんて要素が話の中に出てきたりしますからね。
 
では、その動物という要素をアニメの中に用いることによって、「キルミンずぅ」という作品は、物語の中で何を描こうとしているのか?
 


「動物は感覚器官も生活環境も違うのだから、人間とはまったく違う世界が彼らには見えているはずだ」という考え方もあって。(中略)そうやっていろいろ調べていくうちに、人間としていままで見ていた世界が、動物に変身することで、まったく違う世界として見えるようになる話がいいなと。


動物の目を通して見ることで、「人間社会や動物社会って何だろう」と探っていきたい。それがバックボーンになっています。

 
人間と動物。異なる二つの視点。その二つの視点を物語の中で使い分けることによって、社会という大きなファクターを両方の立場から見つめてみる。
キルミンずぅ」では、そのファンシーな世界観に反して、敵役のキャラクターが主人公たちが住む街の市議会議員を取り込んだりと、キャラクターの絵柄や魔法少女モノのコンセプトには余り似つかわしくない、奇妙な描写が多々あります。
 
■「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」 劇中における「余計なモノ」への描写について」
 
そこで、私が感じた違和感みたいなものを自分なりにまとめてみたのが上記のエントリなのですが、河森監督のインタビューを読んだ後だと、こうしたシーンの数々にも強い説得力を感じることができます。
一見すると、魔法少女アニメには似つかわしくない、市議会や環境保護といった社会的な要素が、動物の視点から見るとどう見えるのか? 河森さんの「動物の目を通して見る」という言葉を頭に入れて物語に接していくと、これから色々とおもしろいものが見えてきそうですね。
 
とはいえ、あくまで「自分は原作までで、テレビシリーズとしての演出はすべて監督に一任しています」とのことで、インタビュアーの「ビジュアルを見ると、すごくかわいらしい世界観ですよね。河森さんのお話を聞いていると、シリアスな話としてやれそうな気がしますけど。」という言葉に対しては、
 


「自分だったら汚い路地を舞台にしてしまうかもしれませんね。でも、キャラクターデザインの相澤澄江さんのとてもチャーミングな絵が上がった時に、「こういう作品が素敵だよね」と明確になりました。それをさらに増井監督がカラフルで楽しい方向に振っていって、より多くの人に楽しめる作品に作品になっていると思います。」

 
と答えられていて、「キルミンずぅ」というアニメのの本分は、あくまで子どもが楽しめる魔法少女アニメであることを強調されています。
 
河森正治というアニメ製作者の個性や思想と、可愛らしい魔法少女アニメのぶつかり合い。その辺りのバランス感覚を楽しむのも、本作の楽しみ方の一つといえるかもしれませんね。
 
 

■動物と人間、二つの視点が強調された第5話

このインタビューを読んだ後に、現在の最新話である「追跡! まろちゃんを探せ!?」を見てみると、そこには動物と人間という二つの視点が巧みに盛り込まれていたことに気付かされます。
というのも、第5話で脚本を手掛けられている「黒河影次」は河森さんの別名義なので、本エピソードでは原作者が直々にシナリオを書かれているわけです。当然、インタビューで触れられていたような河森さんのテーマ性が色濃く出た脚本となっています。
 
物語のメインは、キルミンの力を借りて動物の能力が使えるようになった御子神姉妹が、迷子の子猫を探し出すという非常に微笑ましい話でしたが、例えば、動物の視点から見える草むらの中からの美しい景色を描いた中盤の印象的なシークエンスや、
 

 
猫の気持ちになり、猫と同じ行動をすることによって、最終的に主人公が迷子の子猫を発見するというシナリオは、可愛らしい物語の中に、動物と人間の違いを非常に上手く盛り込んでいると言えます。
 

 
人間の視点からは見えなかった世界と、動物の立場になることで見えてくるもの。この二つの視点の違いが、本エピソードでの重要な要素であり、それを河森さん自身が物語の中で描いているという点で、このアニメ作品の本質みたいなものが強く感じられます。
 
また、動物の視点で話を進めていく御子神姉妹とは別に、川の水質を調査するケンやタマオ、ミサ親子の姿も並行して描かれていましたが、ここでの描き方もなかなか象徴的です。
 

 
川の環境保全の方法に対して、タマオは浄化設備の普及を提案しますが、ケンは河川を自然や動物で一杯にすることを提案します。
ここでは、頭が良く生真面目なタマオと、ヤンチャで活発なケンのキャラクターの対比に加えて、「キルミン」を使っても動物に変身できないタマオと、ネズミに変身ができるケンの視点の違いも強調されているのではないかと思います。
 
これまでのエピソードでは、動物に変身できる不思議なアイテム「キルミン」の機能や、キャラクターや状況の説明にシナリオの大部分が割かれていましたが、「キルミンずぅ」という物語がいよいよ本格的に動き出した感のある第5話において、その作品のテーマ性が見えてきたこと、そしてその脚本を原作者の河森さん自身が手掛けられたということで、この「追跡! まろちゃんを探せ!?」というエピソードは重要な回に成り得るかもしれませんね。
 
 

■まとめ

あにゃまる探偵 キルミンずぅ」という作品は、一見すると児童向けの可愛らしいアニメに見えますが、その実、何とも不思議で奇妙な魅力に溢れたアニメ作品です。そしてそれは、原作者である河森正治さんの作家性に起因する部分が大きいように思います。
河森さんが、このアニメの中で描こうとしている、人間と動物、二つの視点から見た社会の違い。このテーマがこのの中で今後どのように描かれていくのか、そしてそれらが可愛らしくファンシーな魔法少女アニメというに注目をして、本作を楽しんでいきたいと思います。
 
 

■おまけ

インタビューの中で、個人的に凄く興味深かった発言。「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」という不思議な響きのタイトルは誰のアイデアなのか? という質問に対して、
 


「あにゃまる探偵」の部分は、相澤さん。「キルミン」は僕で、「ずぅ」は増井監督です。キルミンっていうのは、「着ぐるみ」と楽器の「テルミン」にひっかけて。「テルミン」は手でふれずに音が鳴る楽器ですね。最初は「テルミン」の音で変身するのはどうだろうと思っていたんです(笑)。

 
と答えられてて、やっぱりおもしろい人だな〜っと。
「『テルミン』の音で変身する」とか、どこまで本気なのかは分かりませんが、私は河森作品の音楽にずっと惹かれていて(というか、河森作品に関わりの深い、菅野よう子さんが好きなだけなのかもしれませんが…)、「キルミンずぅ」も川島可能さんの手掛ける音楽が大好きなので、河森さんの口から音楽的なキーワードが出てくる何だか嬉しくなってしまうんですよね。それにしても、「テルミン」とは意外なところから持ってきてますね。
 
 
 
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