「怪談レストラン」 古いモノと新しいモノとが混在する町の風景について

 

 
テレビアニメ「怪談レストラン」が好きで毎週見ているですが、余りこのアニメについて書かれたエントリや記事を見ないので、エントリを一本書いてみました。
 
「怪談レストラン」というアニメ作品の中で、個人的に非常におもしろく感じているのが、劇中での町の描写です。
このアニメで描かれる町の風景に注目をして見てみると、そこには、ある種の時代性であるとか、人間の怪異に対する意識の変化が見えてくるように思うのです。
 
 

■「怪談レストラン」で描かれる町の風景

「怪談レストラン」は、怪談話をオムニバス形式で描いた作品なわけですが、そこでは伝統的な幽霊話に加えて、民話的な恐怖譚や、都市伝説のような比較的新しい怪談話まで、ありとあらゆるタイプの「怖い話」が語られています。
 
当然、オールドスクールな幽霊話には、古い洋館や人気のいない神社など、閑散としていてなおかつ不気味な雰囲気のあるロケーションが必要になりますし、都市伝説のような新しい怪異を用いたエピソードではそれを伝承する人や都市の存在が必要になってくる、といった具合に、怪談のタイプが異なれば怪談話が成立する地理的条件も、それぞれ異なってきます。
 
そうしたことを踏まえて「怪談レストラン」というアニメ作品を見てみると、実に多様なロケーションが劇中では用いられており、主人公たちが暮らす「山桜町」の様々な側面が描かれています。
 

 
例えば、町外れには、如何にも不気味な洋館があり、子どもたちの恐怖に対する想像力を大いに刺激しますし、
 

 
町の中には、子どもたちのコミュニティとなるような広い境内がある神社があったり、「死神病院」と呼ばれる不気味な病院が存在したりします。
 

 
また、少し車で遠出をすれば、そこには鬱蒼とした森と大きな池がある理想的な日本の田舎の風景があり、町の中にも古井戸が残っている空き地など、古いモノが残っていたりもします。
 

 
そして、一方では、都市伝説的な口承による「恐怖」が成立するための条件として、整理された住宅地や、交通量の多い道路、高層マンションといった現代的な風景もアニメの中では同時に描かれています。
 
田舎と都市の光景が混在した山桜町の景観は、そのまま民話に見られる古いタイプの恐怖と都市伝説のような新しいタイプの恐怖が混在した光景と同一であるように私には感じられます。
 
90年代の「学校の怪談」ブームの際には、そうした怪談話が描かれるロケーションは、子どもたちの生活に一番密着している「学校」という場所に限定されていましたが、インターネットや携帯電話が普及し、子どもたちの情報に対する認知範囲の拡大も手伝ってか、2000年代に児童書の分野で「学校の怪談」と同じ役割を果たしている「怪談レストラン」では、恐怖が描かれるロケーションは学校を飛び出し、町レベルへと更なる広りを見せています。
また、近年では、怪談話そのものの形態も微妙に変化し、ネットコミュニティや、テレビのバラエティ番組などで語られる怪談話を見てみても、そこではオールドスクールな恐怖譚と、ニュースクールな恐怖譚が一緒くたにされ、渾然一体となっている印象を受けます。
 
そうした中で生まれた「怪談レストラン」というアニメ作品において描かれる、神社や古井戸のような古いモノと、高層ビルや住宅街のような都市の新しい光景が同時に存在している町の風景は、子どもたちの恐怖に対する意識の変遷を反映していると言えるかもしれません。
 
 

■巨大なアトラクションとして機能する町

「怪談レストラン」を巡る言説の中で、頻繁に目にするのが本作のシナリオ面での欠陥を指摘する声です。
これには、オムニバス形式というアニメの構造と、その中でロケーションや怪談のタイプが次々に変化をしていく一貫性のなさに因る所が大きいように思います。
 
怪談話を単なる怖い話で終わらせず、エンターテインメントとして描くためには、東宝映画の「学校の怪談」シリーズのように、ジュブナイル的な要素を盛り込むとか、アニメ版の「学校の怪談」や「地獄先生ぬ〜べ〜」のように怪異とのバトル描写を用いるといった工夫が必要です。物語的なカタルシスを期待していると、確かに「怪談レストラン」を魅力的な作品と評価するのは難しいでしょう。
 
ただし、もっと単純に、もっと直感的なアトラクションの一種としてこのアニメを考えてみるのはどうでしょうか?
 
「怪談レストラン」での町の描き方というのは、町のインフラであるとか、劇中での整合性といった、一般的なアニメ作品における町の描き方に基づいたソレではなく、様々な怪談話を語るのに都合のよい、作劇に適したロケーションの集合体によって構築された風景であるように思います。
 

 
第一話で、転校生のショウに町を紹介する際、本作の主人公であるアコはこんな台詞を言います。
 

「そこから見える森っぽい所は、山桜神社。余計なお世話かもしれないけど、町の紹介をするね。
その後ろにあるのが御婆山で、あっちの高台には死神病院。で、こっち側の川を遡っていくと、車の墓場に幽霊団地。
…そして、怪談レストラン。
 
この山桜町には変な場所が一杯あって、口が悪い人は呪われた町なんて言ってるのよ」

 
曰くありげなスポットに囲まれ、様々な怪異や噂話が語られる山桜町の風景。それは、そのまま町全体が巨大なオバケ屋敷のような、一つの大きなアトラクションとして機能していると考えることができます。
扱っているテーマが怪談、しかもオムニバス形式ということもあり、舞台となる町の描き方はかなり歪ですが、故に人を惹きつける力がある。
 
時代と共に恐怖や怪異はこの世から姿を消していますが、まるで巨大なオバケ屋敷にように、子どもたちの恐怖に対する好奇心を受け入れる山桜町。決して「呪われた町」なんかではなく、凄くおもしろい町だと思うんですよね。 
 
 

■まとめ

「怪談レストラン」では、古いタイプと新しいタイプの怪談が混在していて、それによって劇中で描かれる町の風景も、古いモノと新しいモノとが混在している、それっていうのはシナリオを書く上で非常に恣意的に描かれているために、決して整合性があるとは言えないけれど、あたかも町全体が一つの大きなアトラクションみたいでおもしろいよね、というのが、今回のエントリで私が言いたかったことです。
 
自分には、専門的な知識がなく、幾度かの引越しによって移り住んできた町の風景しか知らないので、今回のエントリに関しても、こういう素朴な感想しか書けないんですが、大きな山があって、神社があって、町のあちこちに古いモノも残っていて、でも高層マンションや住宅地も同時にある、という「怪談レストラン」のような民話と都市伝説が同居できる町の風景って、今の日本の地方や郊外都市なんかではよく見られる光景だったりするんでしょうか?
その辺りの時代性と併せて考えてみるのも、ちょっとおもしろそうですね。
 
 

■おまけ

「怪談レストラン」は、怪談話を集めた児童書を原作したアニメ作品なので、いい大人でしかもホラー映画ファンの自分から見ると、確かに食い足りない部分も多々あるのですが、出演されている声優さんが豪華でついついチェックしてしまうんですよね。本当にチョイ役で、中田譲二さんや小山力也さんが出演されていたりとか。この辺は、アニメファンにとっても見所かな〜なんて思います。