「夏のあらし!春夏冬中」第12話「レーダーマン」 細かすぎて伝わらないテクノポップ愛
ここやここで触れたように、「夏のあらし!春夏冬中」では新房昭之監督のテクノポップ・ミュージックへの愛情に溢れた小ネタがいくつか登場しているのですが、第12話の「レーダーマン」は、シリーズの中でもその傾向が最も色濃く出たエピソードだったと思います。備忘録として、元ネタとの比較を絡めつつ、簡単な感想文を書いておきたいと思います。
■戸川純「レーダーマン」へのこだわり
先ず第12話でサブタイトルに引用されている「レーダーマン」ですが、これは戸川純の同名曲から拝借をしています。<戸川純 / レーダーマン>
戸川純といえば、80年台のアンダーグラウンド・ミュージック、テクノポップシーンの中心人物であったミュージシャンの一人です。勿論、戸川純は凄くメジャーなミュージシャンですし、ビッグネームではあります。ただ、その音楽の特殊性や、特異なキャラクターから、歌謡曲とかJ-POPとかそういった一般の音楽シーンがちょっとアプローチしづらい、目が行き届かないミュージシャンだと思うんですよね。
90年代に入ってから、宮村優子さんのアルバムに曲を提供していたりもしたので、アニメ界隈とのリンクもまるっきりゼロというわけではありませんが、それでも「戸川純」という名前をアニメに出してしまう新房監督のセンス。もう、この辺に新房監督の作風の特殊性と音楽嗜好が見え隠れするわけです。
しかも、それを歌っているのが、小林ゆうさん!
ランドセルを背負い、学童帽を被って甲高い歌声を披露している、上記の動画を見ていただいても分かる通り、戸川純は所謂「不思議ちゃん」のキャラクターで認知をされていたミュージシャンです。そして、新房監督は小林さんのエキセントリックなキャラクターを、戸川純のイメージにそのまま重ね合わせていたのではないかと思うのです。
小林さんは「レーダーマン」の中で、ゲストキャラの「穴守好実」役として登場をしているのですが、劇中で戸川の歌をあのパワフルかつアナーキーな歌唱法でもって歌いこなす小林さんの歌声を聞いていると、ゲストキャラにも関わらず劇中でキャラソンを歌っている理由も何となく見えてきます。
もう、戸川純の歌を小林さんにカヴァーさせるためだけにゲストキャラとしてキャスティングをし、このエピソードを作ったんじゃないかと勘繰ってしまうくらい、そこには新房監督のテクノポップに対する愛情とこだわりが見えます。
■イモ欽トリオ「ハイスクールララバイ」へのこだわり
他にもテクノポップに対する愛情ゆえの細かなこだわりが「レーダーマン」の中では見られます。このエピソードの中では、戸川純の他にも、YMOの細野晴臣作曲によるテクノポップの名曲、イモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」が杉田智和さんによってカヴァーをされているんですが、EDのクレジットを見てみると「塩谷 feat.山代武士&十五流一夫」と表記をされています。
「塩谷」と「山代武士」と「十五流一夫」。いずれのキャラクターも、「夏のあらし!」の劇中で声をあてているのは全て杉田智和さんです。杉田さんがサブキャラ、モブキャラの声の多くを、一人で担当されているというのが、アニメ版の「夏のあらし!」ではシリーズを通して「ネタ」になっているんですが、そこに合わせてオリジナルの「イモ欽トリオ」同様に、トリオ名義でクレジットを行っているわけです。
杉田さんの歌う「ハイスクールララバイ」を聞いてみれば分かるんですが、実質杉田さんのソロ曲にも関わらず、そこは本家へのリスペクトを込めて「イモ欽トリオ」と同じく三人で歌っているということになっている。
こういう細かくマニアックなこだわりを持って描かれるテクノポップネタこそが、新房監督にとっての80年代歌謡曲ということなんでしょう。
■まとめ
「夏のあらし!」では、昭和の歌謡曲の引用が数多く行われていますが、それらの一つ一つがこうした細かいこだわりでもって劇中で描かれているように思います。特に、「春夏冬中」になって頻出してきたテクノポップネタには関しては、新房監督の音楽嗜好からか、そのこだわりもより一層強まっている印象を受けます。ちなみに、最終話のサブタイトルは、中原めいこの「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」からの引用。原曲は、若い男女の恋をフルーツに託して歌ったチアフルなポップソングでしたが、はてさて「夏のあらし!」は一体どのような最終回を迎えるのでしょうか?