「バカとテストと召喚獣」で、島田美波が左腕でヘッドロックをかけた理由

 

 
アニメ版バカとテストと召喚獣が面白くて、毎週楽しく観ています。
大沼心監督による独特な演出術の数々も観ていて楽しいのですが、何よりも自分の心を鷲掴みにしたのが劇中でのこだわりのプロレス技の描写です。
このアニメには、プロレス技を使って主人公を折檻する島田美波という美少女キャラクターが登場するのですが、この娘が使うプロレス技の数々が、何と言うかプロレスファンである自分の琴線をビンビンと刺激して止みません。
そこで今回は、プロレスファン目線から「バカとテストと召喚獣」についてアレやコレやと書いてみたいと思います。
 
 

■島田美波が左腕でヘッドロックをかけた理由

アニメ版の「バカとテストと召還獣」には、第1話からプロレスファンを「おぉっ!」と唸らせる描写が出てきます。
 

 
上の画像は、島田美波が主人公の吉井明久にヘッドロックをかけるシーンなのですが、ここで島田はキチンと左腕で明久にヘッドロックをかけているのが分かります。
一見すると何て事のない描写に見えますが、ここには非常に重要な意味とこだわりが存在しています。何故ならば、プロレスには「基本的には技は左でかける」という暗黙のルールがあるからです。
 
人間には右利きと左利きの人が存在していますが、プロレスの試合で戦う相手同士の利き腕がバラバラではお互いに技がかけにくく、攻防が噛み合わなくなってしまいます。
そこで、プロレスの試合では必ず相手の左側を攻めるというルール(マナー)が設けられているのです。
こうすることで、試合の展開がスムーズになり、また左手に技をかけられても(多くの人にとっての利き腕である)右手で反撃ができるので、エキサイティングな試合運びが可能となります。
 

参考画像:対戦相手にヘッドロックをかける岡林裕二選手(大日本プロレス
 
ヘッドロック」はシンプルかつ奥深いプロレス技の基本中の基本なわけですが、このヘッドロックも左でかけるのがルールです。そして、「バカテス」における島田のヘッドロックの描写も、このルールを忠実に守っているわけで、作り手がプロレスの何たるかをキチンと理解した上で描かれている、そんな印象を受けます。
 
 

アントニオ猪木 vs. グレート・アントニオ

「攻撃する時は、相手の左側を攻める」というのは、プロレスの基本的なルールであると同時に、左利きのプロレスラーはデビュー前に右利きに矯正をされると言われる程に絶対的な掟でもあります*1
それを理解してないプロレスラーは、プロレスラーとは言えません。
 
例えば、昭和の時代にはグレート・アントニオというプロレスラーがいたのですが、このレスラーはこのルールが分かっていませんでした。
古くは日本のプロレスの創世記である力道山の時代に来日をし、その怪力でバスを引っ張るというパフォーマンスを行い有名になったプロレスラーで、怪物的なインパクトのみを重視した、いわば「イロモノ」的なレスラーだった為にプロレスの基礎が全くできていなかったのです。
そんなグレート・アントニオはバス引っ張りパフォーマンスから十数年後、偶然にも同じ「アントニオ」の名前を持つプロレスラー、燃える闘魂ことアントニオ猪木率いる新日本プロレスに来日をし、猪木と戦うことになります。
 
<アントニオ猪木 vs. グレート・アントニオ>

 
上記がその時の試合の動画なのですが試合中にグレート・アントニオが何度も右脇でヘッドロックをかけているのが分かります。
この試合は終盤、明らかにプロレスの範疇を越えた猪木の蹴りがグレート・アントニオの顔面に命中し、唐突に終了をしますが、一説によると猪木が本気の蹴りを入れたのは「右脇でのヘッドロック」に見られるようにグレート・アントニオが素人同然のレスリング技術しか持たず、全くプロレスが出来なかったために試合中にキレて制裁を行ったためだと言われています。
 
「バカテス」の島田ならば、こんな根本的なミステイクは行わないでしょう。彼女なら、試合中には相手の左側を攻め、エネルギッシュに試合をスウィングさせるハズです。勿論ヘッドロックも左脇でかけて。
アニメーションの中で活き活きとプロレスを行う彼女の姿は、観る者に確実に「プロレスLOVE」(by 武藤敬司を感じさせてくれます。
 
 

■まとめ

他にも「バカテス」における島田美波のプロレス技の数々には、プロレスファンの心にグッとくる確かなソウルが存在しています。
第2話「ユリとバラと保健体育」で島田が使った足四の字固めや、第3話「食費とデートとスタンガン」に登場したサソリ固めのようなプロレス技に「入る」動きを描いたアニメーションの再現度はプロレスファンから見ても納得の出来ですし、
 

 
第6話「僕とプールと水着の楽園――と、」では、グラウンド式卍固めのような数あるプロレス技の中でもマニアックな部類に入る技を島田に使わせるなど、プロレスが好きな人を惹き付ける確かなサムシングが「バカテス」には存在しているように思います。
 

 
これが、スタッフの中に熱心なプロレスファンがいるためなのか、それともプロレスの暗黙の了解には無自覚なまま、アニメ製作の参考に用いた写真や動画などをアニメで忠実に再現した結果なのかは分かりませんが、「バカテス」の島田美波は、そしてアニメーションの中の彼女に命を吹き込む製作スタッフの皆さんは、少なくともグレート・アントニオよりは的確に「プロレス」をアニメの中で行っています。
この先、アニメの中で島田が一体どんな技を使うのか? アニメファン、プロレスファンとして非常に楽しみです!
 
あ、ちなみに本エントリでは「プロレスには暗黙の了解が…」とか色々と書いていますが、念のために最後に一言。プロレスは全部真剣勝負です。
最初から勝ち負けが決まっているとか、そういうのは全部都市伝説か何かだと思います。多分。
 
 

■おまけ

「バカテス」の第3話。映画館に皆で映画を観に行くシーンで、コッポラの地獄の黙示録が登場をしていましたが、
 

 
地獄の黙示録」といえば、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」。そして、「ワルキューレの騎行」といえば、プロレスファンにとってはプロレスラーの「藤原組長」こと藤原喜明入場曲なわけで…。
この辺りもプロレスを意識して…作られてはいないですよね、いくらなんでも…。
 

*1:ちなみに、メキシコのプロレスである「ルチャリブレ」では、何故かこのルールが逆転され、選手は相手の右側を攻め、ヘッドロックも右脇に相手の頭を抱えます。