ゾンビ映画好きとして「ゾンビが出てくるエロ漫画」を猛烈にプッシュしてみる

tunderealrovski2010-03-31

 


 
最近読んでおもしろかったエロ漫画のお話を。
いや、もう〜今月号の「COMIC阿口云に掲載をされた山下クロヲ先生の「ゾンビと」という漫画が、とにかく素晴らしかったわけですよ!
「ゾンビと」はタイトル通りゾンビが出てくるエロ漫画なのですが、そのシチュエーションの描き方っていうのが、ゾンビ映画ファンである自分の琴線にビッシビシ触れてきたんです。
 
 

■エロ漫画の中のゾンビ - 山下クロヲ「ゾンビと」

死人が突如甦って、人を襲っては増殖を繰り返している。
「ゾンビと」の世界では、そんなホラーな世界が描かれています。
死人が甦った理由? いやいや、そんな細かいことはどうでもいいじゃないですか。倫理や常識を取っ払ったショッキングなシチュエーションが、突然観る者の前に映し出されるっていうのがホラーの王道の展開であり、醍醐味なんですから。
 


 
大量のゾンビが群がり、追い詰められた数名の男達が倉庫の中に逃げ込んで篭城を開始しようとします。
もう、これなんてゾンビ映画ファンには答えられないものがありますよね。世の中に星の数ほどあるであろうゾンビ映画の出発点であるジョージ・A・ロメロの傑作「ゾンビ(DAWN OF THE DEAD)」まんまの展開です。
 


 
そして、そこには拘束された少女のゾンビが…。
「生と死」が混濁する極限状態の中で、男たちはどうするのか? ゾンビになってしまった少女の運命は?
この先は、是非本誌を購入して確認をしていただきたいと思うのですが、ロメロのオリジナルゾンビのシチュエーションをオマージュしつつ、本家同様に「人間の業や愚かさ」を描いた素晴らしいエロ漫画だと思います。
 
 

■「ゾンビが出てくるエロ漫画」を猛烈にプッシュしてみる

「ゾンビと」に限らず、ゾンビが出てくるエロ漫画っておもしろい作品が多いように思うんですよね。
例えば、睦月のぞみ先生「医務室のゾンビ先生」(単行本「らでぃかる同好会」収録)は、主人公の女子生徒が好きになった相手がゾンビだった、というラブコメ作品。
 

<睦月のぞみ 「らでぃかる同好会」(蒼竜社) P.145>
 
人外・異形の存在との恋愛模様がチアフルに描かれた素敵な作品です。
 
また、最近のゾンビもののエロ漫画の中で最大のヒット作といえばやっぱりコレでしょう! な田倉まひろ先生の「カスタムゾンビちゃん」シリーズ(単行本「たくらまかん動物園」収録)。
 

<田倉まひろ 「たくらまかん動物園」(ヒット出版) P.87>
 
かなりマッドなサイエンティストによって造られた(なので、正確には「ゾンビ」というより「フランケンシュタイン」みたいな人造人間に近いのかな?)ゾンビ少女、アシュリンを主人公に「ゾンビ」というキャラクター性を最大限に活かした奇想天外、ハチャメチャなエロ描写が繰り広げられるゾンビエロ漫画の傑作です。
 
また、変わったところでは、フタナリ専門アンソロジー上連雀三平先生がロメロの「ゾンビ」をパロディにしたフタナリ漫画「おちんちん オブ ザ ジャスティス」を描かれています。
 

<ふたなりっ娘LOVE10 (茜新社) P.13>
 


「2008年突如宇宙から ふりそそいだ謎の放射能のため」
「人々はふたなりっ娘になった」

 
って、書かれても読んでるコッチはサッパリ状況が分かりませんけどね(笑)。アタマ悪いな!(←注:誉め言葉です!)
ちなみに、この娘たちは、生前の記憶と食欲によってスーパーマーケットに群がり、人間の肉を求めて人を襲ったロメロのゾンビよろしく、本能に突き動かされ女の娘を犯します。
 

<ふたなりっ娘LOVE10 P.16>
 
で、この娘たちに犯されると、犯された側もフタナリになります。本ッ当に、アタマ悪いな!(←注:繰り返しますが、誉め言葉です!)
そもそも、何で全員裸なんだとか、ゾンビパロならせめてタイトルは「○○○ オブ ザ デッド」で統一しようよ! とかツッコミどころは山ほどありますが、漫画自体はロメロへのリスペクトがタップリ詰まっており、ゾンビ映画ファンなら絶対に楽しめる怪作に仕上がっています。
 
他にも、もうちょっと色々あるのですが、同じ人外ものでも幽霊とか悪魔に比べると圧倒的に数が少ないのがソンビエロ漫画の現状です。
肉体のない幽霊やファンタジックな悪魔といった他のモチーフに比べると、一度死んで甦った「ゾンビ」だと読み手がネクロフィリアを連想してしまいレベルが上がってしまうからなのかもしれませんが…。うぅ、もっと、ゾンビプリーズ…。
 
 

■ゾンビエロ漫画の魅力とは?

では、ゾンビエロ漫画の魅力とは何でしょうか?
単純にシチュエーションやキャラクターのビジュアルに反映される奇抜さ。うん、勿論、それはあるでしょう。
ただ、それ以上におもしろいのが「ゾンビ」という「死」と「生」の中間地点にいる曖昧な存在を描くことによって、どのようなストーリーが紡がれるか? という部分だと思うのです。
 

<らでぃかる同好会 P.150>
 
例えば、前述の睦月のぞみ先生の「医務室のゾンビ先生」では好きな人がゾンビであるために、相手への恋愛感情と恐怖心の間で葛藤する主人公の姿が(あくまで、明るい雰囲気の中で)描かれていますし、「ゾンビっ娘」というキャラクターを用いて独創的なエロを描いていた田倉まひろ先生の「カスタムゾンビちゃん」はストーリーが進むにつれ「家族愛」や「生と死」といった重厚なテーマがフォーカスされていき、ラストでは感動的な結末が描かれます。
 
ピーター・ジャクソンブレインデッドではブラックジョーク的にゾンビ同士のセックスシーン(その後、赤ちゃんも生まれる)が、「ゾンビーノ」ショーン・オブ・ザ・デッドといったゾンビ映画ではゾンビと結婚する一般女性が出てきましたが、「甦った死人」「生きている死体」という矛盾に満ちた異形の存在であるゾンビとの「愛」をどう考え、そして肉体同士の結びつきを描くエロ漫画の中でどう描くかというのは非常に考え甲斐のあるテーマだと思うのです。
 

<たくらまかん動物園 P.181>
 
勿論、愛のような綺麗な部分だけではなく、ジョージ・A・ロメロが本家「ゾンビ」で描いたように、人間の業を焙り出すモチーフとしてもゾンビは漫画の中に登場します。
「本能」つまり、エロ漫画の中では「性欲」のみに突き動かされるゾンビ像というのもアリですし(終始ギャグタッチで描かれてはいますが、上連雀先生のフタナリ漫画なんかは正しくこのゾンビ観によって物語が動かされています)、ゾンビに囲まれたその絶望的な極限状態の中で人間がどのように動くのか? という部分にスポットライトをあてるのもアリです。で、冒頭で紹介した山下クロヲ先生の漫画が物語の中で描いているのは、そうしたテーマだったりします。
 
この辺は、今後如何様にも物語の中で発展・分散しようがある部分であり、ゾンビはエロ漫画の中でフレッシュなモチーフ(一回、死んでますけど)に成り得ると思いますので、もっともっと沢山のエロ漫画家さんがゾンビエロ漫画を描いてくれればいいなぁ、とイチエロ漫画ファン、ゾンビ映画ファンは強く願う次第です。
 
 

■最後に一言だけ - ホラー映画とエロ漫画

最後に、ちょっとだけ堅い話になってしまうのですが、現在でも、ソンビものを始めとするホラー映画はネガティヴなイメージのレッテルを貼られ、かなり理不尽な扱いを受けています。
私が子どもの頃は、まだゴールデンタイムにテレビ映画で13日の金曜日バタリアンといったホラー映画を夏になると必ず放送していて、ショッキングなスプラッターシーンや恐怖描写に幼心を凍りつかせながらも強く惹かれていました。
 
現在では、それらの映画は「不健全なもの」と見なされ、一般の人の目の届かないところ所に追いやられています。
おもしろい作品や素晴らしい作品はあるのに、また、ホラー映画を出発点としてパンクロックやファッションといった他のカルチャーへと繋がっていく可能性を持ちえているのに、ファン心理や探究心なしにはそれらの映画の存在すら知ることもできない、という状況です。
現に自分も今ではパンクロックを愛聴している人間ですが、その嗜好の原点にあるのは幼少期に震えながら観た「バタリアン」のサウンドトラック(45 GRAVEやThe DAMNED、The Cramps、TSOLといった豪華メンバーが参加)や、登場人物たちのパンクファッションだったりします。
 
<45 GRAVE / Party Time (Zombie Version)>

 
そうした作品を知る機会を、背景にあるカルチャーを知る機会を第三者の価値基準によって奪ってしまうというのは、「良い」「悪い」といった二元論は取り合えず置いておいて、自分は非常に「勿体無い」ことだと思うのです。
 
どうか、これからも素晴らしいエロ漫画が世に生み出される機会を、そして、そこから色々な背景について知りうるチャンスを握りつぶして欲しくはない。私はイチファンとして強く願います。
 
 

■おまけ

「ゾンビ」で「エロ漫画」といえば、この人は外せないでしょ! なのが、ジョン・K・ペー太先生。
ペンネーム案として、敬愛するルチオ・フルチ(「サンゲリア」や「地獄の門」など、汚くてひたすらシッチャカメッチャカなゾンビ映画を撮ったイタリアの映画監督)をオマージュした「古地ルチヲ」という名前を自身につけるアイデアもあったという程のホラー映画ファンなので、漫画の中にもその辺のホラー映画のパロディや、その辺りの映画に影響を受けたパンクバンド(MISFITSとか)のアイテムなんかが頻繁に登場をします。
 

<ジョン・K・ペー太の世界 (桃園書房) P.112>
 
直接的ゾンビもののエロ漫画はないんですが、ファンムックであるジョン・K・ペー太の世界」(絶版)では、ゾンビもののホラーギャグ漫画が掲載されていたりするので、興味のある方は是非一読をオススメいたします。
 
 
 
<関連エントリ>
■パンク、映画好きにオススメしたいエロ漫画−「ジョン・K・ペー太」大百科
 
<関連URL>
■田倉まひろ『たくらまかん動物園』(ヘドバンしながらエロ漫画!)
■人にあらざるものを、なぜ愛するのですか?「たくらまかん動物園」(たまごまごごはん)
■お気に入りゾンビと少女の甘い関係 〜ゾンビ少女は恋愛の夢を見るか〜(Togetter)
自分は、単なるゾンビ映画好きなんで、エロ漫画でそのテのネタが出てきても単純な反応しかできないんですが、ずっとずっと奥に踏み込んで、「少女とゾンビ」についてまとめられたtwitter上でのやり取り。凄くおもしろいです。