ウディ・アレンの「人生万歳!」を観たった!

 

 

天才的な頭脳を持つ物理学者ボリスは、その類稀なる知性と偏狭で悲観主義的な性格から、妻とも別れニューヨークの片隅で孤独な生活を送っていた。
そんなボリスのアパートに、ある日南部から家出をしてきたメロディという少女がやって来る。知的レベルも思想も生まれ育った地域も違うメロディに手を焼き、当初は彼女を疎んじていたボリスだったが、やがて徐々に彼女に惹かれ始め、二人の出会いは周囲の人間をも巻き込んだ大きな変化を彼らの人生に巻き起こしていく。
果たして、「天才」であるボリスは、この出会いの先に何を見つけ出すのだろうか…?

 
こちらは、もうすぐその歴史に幕を下ろしてしまう恵比寿ガーデン・シネマにて。
 
「マッチポイント」「タロットカード殺人事件」そして「ウディ・アレンの夢と犯罪」というロンドンを舞台にした三部作、スペインを舞台にした「それでも恋するバルセロナ」と、映画作りに対するイマジネーションの源泉であり、永遠の舞台でもあり続けるニューヨークから離れ、近年はヨーロッパでの映画作りに主軸を置いていたウディ・アレンが久々にニューヨークに舞い戻り、かつ監督作品40作目の映画となったのが、この「人生万歳!」。
 
もう、ウディ・アレンのファンとしては、この「帰還劇」だけでもスクリーンに向けて拍手を送りたくなるというものですが、肝心の本編はまさに「ニューヨークを舞台にしたウディ・アレンのラブ・コメディー」の王道を行くストーリー展開といった趣で、これまた拍手喝采を送りたくなる内容。
軽快なジャズをバックにクレジットが流れるオープニングからして、まさにウディ・アレン節全開で、もうこの時点で期待と高揚感からハートを鷲掴みにされてしまいました。
また、エヴァン・レイチェル・ウッド演じるヒロインのメロディが、もう圧倒的にチャーミングで素晴らしいんですよ! 「HEROMAN」のリナもそうなんですけど、こういうキュートなアメリカ娘に異常に弱いんです、私…。
 
金の為に殺人を犯す兄弟の悲劇的な末路を描いた「夢と犯罪」、愛に対してひたすらにエゴイスティックな男女の恋の狂騒劇をニヒリスティックなまでに滑稽に描いた「それでも恋するバルセロナ」と、ややシビアでシリアスなストーリーだった前二作に比べると、本作はまさにコメディー作家としてのウディ・アレンの本領発揮といったところでしょうか。とにかく笑えて笑えて、そして最後に人生や恋愛について考えさせられる、そんな作品に仕上がっています。
年齢はおろか、政治的信念も宗教観も180度異なるボリスとメロディの奇跡的な出会い。シニカルなユーモアやナンセンスなギャグ、神経症や音楽といったウディ・アレン定番のモチーフを盛大に盛り込んだシナリオの中で進展していくのは、登場人物たちのラブ・ストーリーと、そしてそこから始まる彼、彼女たちの人生そのものです。
 
そして、ボリスとメロディの「恋」から始まる一連の物語と登場人物たちの行く末は、ボリスが提唱していたペシミスティックな人生観とは相反する、それぞれのハッピーエンドへと向かっていきます。そして、そこには「人はいつだって、人との出会いによって新しい人生を歩むことができるのだ」という非常にポジティヴなメッセージが描かれている。
 
うん、凄くポジティヴな映画なんですよね、本作は。
 
とはいえ、そのハッピーエンドに行きつくまでを、真っ直ぐな一本道で示すのではなく、思いっきり皮肉めいた言い回しや、アナーキーな表現を使ってスクリーンに描くのがウディ・アレンの流儀。
なかでも、冒頭のメタフィクションなギャグはセンス抜群で、もうコレを観るだけでも映画館のチケット代1,800円也を払う価値があるんじゃないかな、なんて。やっぱり、この人の映画は一筋縄ではいかないわ〜と、もう何十度目かの再確認。
あの年齢で…40作目の作品にして、こういう笑いや人生に対するメッセージをタップリと盛り込んだ娯楽作品を作っちゃうウディ・アレンの絶倫っぷりに最敬礼。ウディ・アレン万歳! なんて思わず叫びたくなってしまうような快作でした!