"萌え"アニメならぬ"エモ"アニメ - エモーショナルなアニメ作品アレコレ

 

 
エモーショナルなアニメが大好きです
 
エモーショナル…つまり、切なく、情緒的で、胸にグッと迫ってくるような…そんなテイストのある作品に私は強く惹かれます。
そこで、今回のエントリでは、思いっきり主観と趣味に走って、自分なりに「エモとは何か?」をまとめつつ、エモーショナルに溢れたアニメ作品、「萌えアニメ」ならぬ「エモアニメ」とでも呼ぶべき愛しのアニメ作品についてアレやコレやと書いてみたいと思います!
 
 

■エモーショナルとは何か? 私的「エモ」観を簡潔にまとめてみる

先ず、話の前提として自分にとってエモとは何なのか? エモの定義とは? 個人的な意見をちょっと簡単にまとめてみます。
映画でも音楽でも、勿論アニメでも、観る者や聴く者の涙腺を刺激するような「泣ける」作品って存在していますよね? この「泣ける」という形容詞がつく作品も、その中で更に細分化が出来るように思うのです。
 
例えば、悲劇的な出来事を作品のテーマに用いて、観る者の感情を揺さぶる作品というのがあります。暴力的かつ簡潔に一言でまとめるならば「トラジェディー(=悲劇)」に満ちた作品ということになるでしょうか?
例えば、登場人物の死。例えば、心や身体への痛々しい描写。ショッキングな事件。観る者の胸に痛烈に突き刺さるような、そういったファクターを取り入れた作品は、昔からあらゆる表現媒体において常に一定の人気と需要があるように思います。
 
アニメや漫画、ゲームといった文化圏においても、泣きゲー」であるとか、あるいは近年のアニメ界において、特別な意味とセールスを持ちえた魔法少女まどか☆マギカのようなアニメ作品なんかは、そういった作品群にカテゴライズ可能ではないでしょうか。
 
ただ、自分の考える「エモーショナルな作品」というのは、そんな悲劇性のある「泣ける」要素とはニュアンスを異にしているのです。
悲劇や心理的な緊張感のある描写とはまた違うポジションから、観る者の胸に迫ってくる、抒情性や情感こそが「エモ」の本質だと思うのです。そこに、暗さや辛辣さは必要ない。
 
では、具体的にどのような作品に私がエモーションを感じるかといえば、自分がそういった作品の代表格として常にその名前を挙げる(そして、拙BLOGの名前にもタイトルを拝借している)ジム・ジャームッシュストレンジャー・ザン・パラダイスのような映画作品です。
 

 
ジャームッシュ長編映画2作目であり、映画学校の卒業作品として一部が、そして卒業後に劇場公開用の作品として残りの映像が作られた、この真の意味でのインディーズ・ムーヴィーには自分の理想となるエモの要素が詰まっています。
ストレンジャー・ザン・パラダイス」は、三人の男女が出会い、一緒に旅に出て、そして最後にバラバラに別れるまでを描いた映画です。内容としては、本当にそれだけの映画。何か悲劇的な大事件であるとか、特別なことが起きるわけでもなければ、観る者のトラウマを刺激するような登場人物の痛切な描写が行われるわけでもない
 
でも、自分はこの映画を初めて観た時、そのラストシーンの圧倒的に切なく、でもどこか軽やかな印象をも残す抒情性にボロボロと涙をこぼしました
 
悲劇ではない。だけど、切なさと抒情に満ちた…そんな作品を「エモ」と自分は呼んでいますし、そういった作品に自分は強烈に惹きつけられ、そして泣かされるのです。
コレは完全に個人個人の好みの問題ですが、自分は悲劇というものに対して、泣くことってほとんどないです。むしろ、ちょっと敬遠をしてしまうことが多いです。代わりに、自分の涙(と作品への愛と情熱)はエモーショナルな作品へと向けられています。
 
 

■音楽におけるエモ - そして、エモーショナルなアニメを考える

またまた果てしなく個人的な話になりますが(というか、なかなかアニメの話にならない!)、自分がどうしてそこまでエモーショナルなものに惹かれるかというと、やはり10代の頃からずっと聴き続けていてる音楽におけるとびっきりのエモーション…エモーショナル・ハードコアエモコアの影響が大きいです。
 
エモコアは、80年代にアメリカで起こったハードコア・ムーヴメントの流れを受けて誕生した音楽。今では、エモやエモコアという言葉も、ロック・ミュージックの世界において一般的な知名度を得、そこにカテゴライズされるバンドがビルボードオリコンにチャートインするようなヒット曲を飛ばしたりと、一つのジャンルとして完全に定着をしたように思いますが、元々はハードコア・パンクが進化、深化をする途上で派生した音楽なので、その出自は非常にインディペンデントなシーンを基盤としています。
 
そんなエモーショナルなハードコア、エモコアの代表格であり先駆者的なバンドと言えば、やはりFUGAZIでしょう。
 


 
ワシントンDCの伝説的なハードコア・バンドであるMinor Threatのメンバーが解散後に結成したバンドがこのFUGAZI。Minor Threatでは、非常にアグレッションに溢れたファストなハードコアサウンドを追及していたんですが、
 


 
その後にいくつかのプロジェクトやバンド活動を経て、到達したのがこの美しく、そし聴く者の胸に迫りくるメロディと音響だったと。ハードコアの攻撃性が、やがて抒情性を持ったメロディへのエモーションへと変わっていく…自分としては、もうその過程そのものが興味深過ぎて、惹きつけられてしょうがないわけです。
 
また、FUGAZIと同じくエモコアの元祖的なバンドとして、やはりHusker Duの存在も大きい。
 


 
このバンドも元々は、ひたすら速く、短く、そして攻撃性に満ちたパンクロックをやっていたんですが、音楽性の進化と演奏テクニックの向上に従い、やがてパンクの精神を残しつつも、メロディアスな新しいハードコアをクリエイトすることに成功した。このライブ映像を見ても分かるんですが、アルペジオを多用するハードコアバンドなんて、それまでいませんでしたからね。もう、攻撃的なアティチュードだけでなく、美しいメロディと歌が持つ抒情性に軸をシフトしたという点で、このバンドは画期的過ぎです。
 
Green DayHi-Standardのような90年代に入って大ブームになる所謂メロコア、ポップパンクのバンドも、このHusker Duからは多大な影響を受けていますし、現在メジャーレーベルを中心としたシーンで「パンク」と呼ばれる音楽の原点、出発点の一つがこのHusker Duであると言っても、決して過言ではないと思います。
 
まぁ、こんな感じでとにかくエモコアの大ファンである自分なんですが、この辺の音楽にはずっと涙腺を刺激され続けてきたわけです(そして、今でもJawbreakerとかTEXAS IS THE REASONとかを聴き返しては一人で泣いてる)。
ちなみに、音楽ファンは、音楽を聴く際によく「エモい」という形容詞を使うんですが、その形容詞のニュアンスを理解してくれる人には、自分の好きな音楽なり映画なり、アニメなりの各作品に対するフィーリングを伝えやすいです。「『はなまる幼稚園』のBGMってエモいよね〜」といった具合で。
 
さて、長々と自分の考えるエモの定義やら、エモコアについてやらをここまで書いてきましたが、ここでようやっとエモーショナルなアニメについてのお話です。エモーショナルなアニメ…エモアニメで大好きな作品は、自分の中で色々とあるのですが、それぞれについて語り始めると収集が付かなくなってしまいそうなので、今回は自分の中でベスト5とも言える五本を取り上げ、アレやコレやと書いてみたいと思います。
と言っても、この五本は自分の中でオールタイム・フェイバリットな作品なので、拙BLOGでも頻繁に名前が出てくる作品ばかりなんですけどね。
 
 

■エモアニメその1.「あさっての方向。


 
エモーショナルなアニメ作品と言われて、自分の中で決してそのリストから名前を外すことができない作品がコレです。
桜美かつし監督による本作を初めて観た時、心の底から物凄い衝撃を受けました。それっていうのは、前述した「ストレンジャー・ザン・パラダイス」であるとか、あるいは「ベルリン天使の詩」のような…自分の中で、大好きなエモーションに満ち満ちた映画作品。それらと同等の抒情性をアニメで描くことができるんだ! アニメって凄い!! という感動です。
 
ひたすらにセンチメンタルで、触れると簡単に壊れてしまいそうな、どこか儚げな印象を持つ本作のあらすじを一言で言うならば、大人になってしまった少女、からだちゃんと、彼女の周囲にいる人々のディスコミュニケーションとそこからの成長であると思うのですが、その描き方、演出が本当に素晴らしかった!
また、コレが原作版の漫画だと、もっとストレートで痛々しい描写が多いんですよね。それが、アニメ版ではストーリーが大きく改変され(小清水亜美さん演じるオリジナルキャラが出てきて、しかも物語の重要な登場人物になっていたりする)、ひたすらにエモーショナルな作品になった。
 
ゆっくりとした時間の経過の仕方、ダイアローグが少なく、登場人物たちのちょっとした動きで感情を表現する演出の数々(それがまた、各キャラクターのすれ違いっぷりを情感タップリにコチラに伝えてきて、とにかく見てて切ない)、センチメンタルなBGM…と、このアニメを構成する全ての要素が自分のハートを鷲掴みにし、そして毎週毎週テレビの前で泣かされた作品であり、アニメにおける"エモ"を考える上で、自分の価値基準となった作品です。
 
 

■エモアニメその2.「スケッチブック〜full color'S〜」


 
あさっての方向。」と同じく、コチラも決して忘れられない大好きなアニメです。
高校の美術部部員たちの学校生活を描いた本作は、とにかく穏やかでゆるやかな時間が流れる、優しいアニメです。そして、原作の四コマ漫画のテイストを大切にし、そのフィーリング残しつつも、ストーリー性という部分では大きくアニメ版オリジナルの展開が盛り込まれ、主人公である空ちゃんの成長がキチンと描かれているのが素晴らしいなぁ、と。
 
何か事件が起こるわけでもない、でも、情緒溢れる独特な空気を持った「スケッチブック〜full color'S〜」というアニメには、"エモーショナル"という形容詞が自分の中で物凄くシックリくる。そして、自分のエモ観にも強くフィットをします。
  
主人公が極端に人見知りで喋らないキャラクターの為に、ノローグを多用する構成(また、空ちゃんを演じる花澤香菜さんも素晴らしかった!)に加えて、平池芳正監督が描き出す美しい空の色や、ピアノオンリーというストイックかつ感傷的なBGMにもやられました。
ちなみに、何気にシリーズ構成(全話脚本)は、現在アニメに関する様々なフィールドで語られるべきテーマ、重要人物として、その名前が挙げられている岡田磨里さん。「花咲くいろは」や「あの花」、あるいは「とらドラ」ファンで、未見の方は是非チェックを!
 
 

■エモアニメその3.「夏目友人帳


 
今回、名前を挙げさせていただいたアニメ作品の中で、最も「エモ」というキーワードのニュアンスが伝わりやすい作品なんじゃないかと思います。
人間と"妖"と呼ばれる妖怪たちの出会いや別れを、儚く、センチメンタルに描いた「夏目友人帳」というアニメが持つ魅力は、多くの人のエモーションに特別な印象を残したことだと思います。
 
妖怪が見えるが故に、孤独にならざるを得なかった夏目貴志という一人の高校生が、周囲の人々や妖たちを繋ぐ為に、あるいは妖から大事な人たちを守る為に奮闘し、そしてその過程の中で自分自身の心の傷も癒していく。
時に、生きるということの残酷なほどの儚さを描き出す本作ではありますが、そこにペシミスティックな視点は皆無で、むしろ生やコミュニケーションを非常に肯定的に描いている。生きること、そして生きる上で他人に関わるということは、儚いけれど、それでもやはり素晴らしく、そして美しい。
 
7月から始まる三期の放送が、本当に楽しみで仕方がないです…。
 
 

■エモアニメその4.「にゃんこい!」


 
このアニメのエモい要素は、ヒロインの一人である住吉加奈子というキャラクター、この娘の存在に尽きると思います!
 
アニメ自体は、川口敬一郎監督の作品らしい、アニメファンや漫画ファン向けのパロディやハイテンションなギャグと演出をサービス心たっぷりに盛り込んだ、ひたすらにポップで楽しい作品です。
でも、そこで際立ってくるのが、この加奈子ちゃんの切ない恋心ですよね。好きな男の子に思いが伝わらない、片思いの女の子のもどかしくていじらしい恋心。そういった"片思い"の持つエモーションというのが、このアニメの中では凄くいいアクセントになっているんです。基本はテンポの良いギャグアニメですが、それだけでは終わらない感情のフックというか、強いエモーションを持っている作品だと思うんですね。
自分がこのアニメが大好きで、加奈子ちゃんのことが大好きでっていう大ファンの目線を抜きにしても、"ラブコメ"の中に感傷的な描写を挟み込んで、アクセントを付けるのが本当に上手いアニメだなって。
 
■「夕やけニャンニャン」 - 「にゃんこい!」における、夕やけのセンチメンタルな光と切ない恋心について
 
特に、第9話の加奈子回「ガールズ・イン・ザ・ウォーター」のコチラの情感に訴えかけてくるパワーは凄いです。加奈子を演じる白石涼子さんの演技、夕焼けのセンチメンタルな光景、そして何より届かぬ恋心…が生み出す、切なさのグルーヴ。Aパートのプールシーンは、バックにbloodthirsty butchersの名曲「プールサイド」を流しながら観たくなる程のエモさ。
 
この辺の感傷的なフィーリングも含めて、個人的ににゃんこい!」はラブコメアニメのマスターピースであり、最高傑作だと思っています!
 
 

■エモアニメその5.「HEROMAN」


 
やっぱり、このアニメは外せないです。
「HEROMAN」はジョーイという少年が"ヒーローマン"というヒーローと出会い、そして自分自身も本当のヒーローへと成長するまでを描いた物語、ビルドゥングス・ロマンですよね。そして、そこに至るまでの描写というのが、本当に素晴らしい! もう、ハートを鷲掴みにされて、ジョーイやヒーローマンを始めとする仲間たちを心から応援したくなってしまう。
 
「HEORMAN」は云わば日米合作とも言えるアニメ作品ですが、企画の段階ではもっとストレートな勧善懲悪のヒーローもので、ストーリーもよりシンプルなものになるハズだったそうです。それが、日本のスタッフによって、物語にもっと奥行きが与えられ、結果的に物凄くエモーショナルなヒーローアニメとして私たちの元へ届けられた。
 
ジョーイがヒーローに憧れる理由であるとか、彼にとって余りにも大きな父親の存在、そしてそんなジョーイを支える家族や仲間たち…。もう、そういったストーリーの一つ一つの要素が胸と涙腺にグッとくるんです。
悪を倒し、大切な人たちを、大好きな街を守るジョーイというヒロイックなストーリーに加えて、そこには確かなエモーションが存在しており、「ヒーローとは何であるか?」という答えもラストでは描かれる。
私たちが幼いころから親しんできた"ヒーロー"をテーマに、そこに感情的な深度を描き切った作品だと思うんです。
 
■「HEROMAN」第23話「SORTIE」 - 抑えた「音」が紡ぎだす極上のエモーション
 
最終決戦前のリナとのお別れのシーンのように、感傷的なエピソードでの脚本や演出も冴えわたっていました。
勿論、ロックミュージックをモチーフにした魅力的なキャラクターやBGM、カッコいいアクションシーンの数々も素晴らしかった。スピード感に満ち満ちたカッコ良さの中に、切なさもあるという…エモコアで言ったらLIFETIMEみたいなアニメだなぁって今でも見返す度に思います。
 


 
 

■まとめ

かなり長い上に散漫としたエントリになってしまいましたが、自分の大好きな"エモ"についてまとめつつ、大好きな音楽や映画を大好きなアニメに絡めて、まとめてみました。
ここに出てきたキーワードであるとか、各作品っていうのは、本当に自分にとって最愛の…大事なものなんで、その辺りを自分なりにまとめられて良かったです。何より、書いていて楽しかった(笑)。
 
たまには、こういうアニメの紹介の仕方、振り返り方もいいものですね。他の人が、どういう目線でアニメを観ているかとか、それで何が好きになるのかなんてのも読んでみたいです。あと、色んな人のエモ観とか。その辺も人それぞれで、聞いてみたらおもしろそうだなぁ〜。
 
 

■おまけ

最近の自分オススメのエモコアのアルバムなんですが…。Parrot On A Porch Recordsというネットレーベル(?)からダウンロード販売をされている「COMPassion」なるコンピレーション・アルバムが本当に素晴らしいです!
 
■COMPassion | Parrot On A Porch Records
 
上記のサイトより、20ドルを下限に上限なしの任意の価格でダウンロード購入できるのですが、売上は東北大震災の被災者へと寄付をされるベネフィットアルバムとなっています。
勿論、内容も素晴らしく若手からベテランバンドまで、様々なバンドが素晴らしい楽曲を提供しています。中でも、HUSKING BEEの曲をカヴァーしたJoshuaの楽曲が素晴らしい! 他にも、Government Issue、Jawbox、Burning Airlines…と幾つもの名ハードコア、エモコアバンドを渡り歩いたエモ界のオリジネーターの一人であるJ.ロビンスが新バンドで、これまた日本のエモコアバンドであるNahtの曲をカヴァーしていたりと、あの頃の"エモコア"が好きな人なら絶対に気に入ると思います!
サイトで全楽曲、視聴ができますので、興味のある方は是非ともご一聴ください。
 
 
 
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