アニメ版「まよチキ!」第一話に見た現在進行形のプロレスLOVE

 

 
夏の新作アニメまよチキ!を観ました。
私は、川口敬一郎監督の大ファンなので、春アニメのSKET DANCEと同様に番組が始まる前からワクワクしていたのですが、第一話から期待以上のものを見せてくれましたね! 
 
特に、ツボだったのが科学室で主人公の近次郎が女の娘をタックルで吹き飛ばしたら、次のカットでは服がはだけておっぱいがまろび出ていたシーン。一体、どういう転び方をしたら、ああなるんだ!
ハイテンションかつテンポの良いストーリー展開、ポップなエフェクト、CM前、CM明けの一言ネタといい、本作も川口節全開で、これまたファンには堪らない作品になりそうです。
 
さて、そんな「まよチキ!」ではありますが、拙BLOG的に注目したいのは、やはり冒頭のプロレス描写
 
これが、他のアニメや漫画に出てくるプロレスの描写に比べると、また独自のニュアンスを含んでいてなかなかに興味深い。そこで、今回はまよチキ!」という作品におけるプロレスへの目線についてアレやコレやと書いてみたいと思います!
 
 

■アンクルホールドとカート・アングル

アニメの冒頭で、近次郎の妹である紅羽が兄に掛けたプロレス技は「アンクルホールド」「シャープ・シューター」「ソル・ナシエンテ」そして「トライアングル・ランサー」の四つでしたが(その前に紅羽の声をあてていらっしゃる花澤香菜さんが「お尻!」とキュートに叫びながら、兄に落としたヒップドロップもプロレス技の一つとしてカウントしてもよいかもしれませんが)これらの技を一つ一つ検証していくと、この「まよチキ!」という作品におけるプロレスのユニークさが見えてくるように思うのです。
 
先ずは、紅羽が最初に兄に極めたアンクルホールドについて。
相手の脚を掴み、足首の関節を極めるシンプルかつ強力な破壊力を持つこの技を、プロレス界で一撃必殺のフィニッシュホールドとして定着させたプロレスラーといえば、それはやはり"オリンピック・ヒーロー"カート・アングルでしょう。
 

<オリンピック金メダリストという最高のキャリアを持ち、アメリカのプロレス界を席巻したカート・アングル。2000年代前半のWWEを象徴するスーパースターの一人>
 
アトランタ五輪金メダリスト」という破格の肩書きと実績を引っ提げてプロレス界入りを果たしたカート・アングル。彼が、世界最大手のプロレス団体WWEで幾度となくベルトを獲得した際に、必殺技として使用していたのがこのアンクル・ホールドなのです。
 

 
それ以前にも、日本では"ジュニアのカリスマ"金本浩二が、アメリカでは"ザ・ワールド・モスト・デンジャラス・マン"ケン・シャムロックといったプロレスラーが必殺技としてアンクル・ホールドを使用していましたが、この技がプロレスの世界で一気にポピュラーになったのは、カート・アングルの影響が非常に大きかったわけです。
 
現にカートの登場以降は、自衛隊のアマレス部出身者であるNoahの"方舟のヒットマン"杉浦貴、元全日本レスリング王者であり、現三冠チャンピオンである全日本プロレスの"新世代のエース"諏訪魔ZSTで活躍する総合格闘家からデスマッチ・ファイターへと転向を果たした異色のプロレスラー"Eの狂乱児"竹田誠志、米国では全米レスリング王者という経歴を持つ"ジ・オール・アメリカン・アメリカン"ジャック・スワガーといったアマレス出身のプロレスラーが、そのシンボル的な必殺技として使用をするようになります。
 
ちなみに、カート・アングルWWE(当時の団体の名称は、WWF)に登場したのは、2000年代を目前に控えた1999年。「まよチキ!」のプロレス描写を考える際に、この時代性のニュアンスは非常に重要です。
 
 

■何故、「サソリ固め」ではなく「シャープ・シューター」なのか?

続いて、「シャープ・シューター」ですが、これは"革命戦士"長州力の必殺技であるサソリ固めと同型の技です。
じゃあ、「サソリ固め」と呼べばいいじゃないか! とお思いかもしれませんが、これは、プロレスファン以外にはやや伝わりにくい、特有の不思議なリアリティなのですが、同じ技でも使うレスラーによって全く異なる名称になることが、プロレスの世界では度々あります。
 

<ショーン・マイケルズに"シャープ・シューター"を掛けるブレット・ハート>
 
相手の脚をクロスさせながらロックし、身体をひっくり返してうつ伏せにさせ、ステップオーバーして腰と脚を傷めつける…日本で、「サソリ固め」と呼ばれているこの技は、海外では80年代に名レスラー"ザ・ヒットマン"ブレット・ハートによって「シャープ・シューター」と名付けられ、"クリップラー"クリス・ベノワ、"ハート・ブレイク・キッド"ショーン・マイケルズといったテクニシャンタイプのレスラーの必殺技となっていますが、一方でこの技をスティングが使用すれば、それは瞬時に「スコーピオン・デス・ロック」という名称になります。
 

<コチラは、長州力の"サソリ固め">
 
このように、各レスラーのキャラクターやファイトスタイルによって、技の名前は小刻みにその姿を変えるのですが、故にその技がレスラーのシンボルとして時代性を雄弁に物語ることがあるのです。
 
 

■決してノスタルジーではない、現在進行形の「プロレス」

ここで、私が注目したいのが、紅羽が「サソリ固め」をシャープ・シューターと呼称していることです。サソリ固めといえば、長州力の代名詞的な必殺技であり、「昭和の新日本プロレス」を代表する技の一つだと言えます。
 
まよチキ!」と同じく、漫画やアニメでのコメディーシーンでプロレス技が登場することは間々ありますが、そうしたシーンで描かれる技の多くは、こういった昭和の時代でポピュラリティを持っていた、あるいは新日本プロレス武藤敬司蝶野正洋橋本真也闘魂三銃士が、そして、全日本プロレス三沢光晴川田利明田上明、小橋健太(現:建太)による四天王がリングの上で熱い戦いを繰り広げ、大ブームを巻き起こした90年代半ばに使用されていた技が中心となっているように感じられます。
 
一方で、「まよチキ!」の中で描かれている「シャープ・シューター」は、そういった"過去"のプロレスとはやや趣を異にしているように思うのです。紅羽が近次郎に掛けている技は、決して、昭和の…長州力のサソリ固めではないんですね。これは、あくまで「シャープ・シューター」。ブレット・ハートに始まり、現在でもアメプロを中心に日々新たな使い手が生まれ続けている現在進行形の技なのです。
 

<現在、新日本プロレスと常連外国人として参加しているデイビー・リチャーズ。シャープ・シューターを得意技の一つとしている>
 
先に挙げたアンクル・ホールドに関してもそうです。
それ以前にも、足首を極めるサブミッション(=関節技)は、プロレスの世界に存在していましたが、技の掛け手がスタンディングの状態で受け手の足首を極めるアンクル・ホールドは、前述したようにカート・アングルの登場以降にポピュラーとなったスタイルであり、これはプロレスのヒストリーを見てみても、比較的近年に生まれた技を用いていると言えます。
 
つまり、「まよチキ!」のプロレス描写は、いずれもノスタルジックなニュアンスではなく、あくまで現在進行形の時間軸を持った技が描かれているのではないかと思うのです。
 
そして、そういった昭和〜平成のプロレスブームの回顧ではなく、今のプロレスを象徴するプロレス技として用いられているのが、残る二つのフィニッシュ・ホールド「ソル・ナシエンテ」と「トライアングル・ランサー」です。
 
 

■ソル・ナシエンテとトライアングル・ランサー

先ず、「ソル・ナシエンテ」。これは、DRAGON GATEに所属する"スピードスター"吉野正人の必殺技であるジャベ(=メキシコ発祥の複合関節技)です。
 

<対戦相手のCIMAにソル・ナシエンテを掛ける吉野正人>
 
DRAGON GATEは、メキシコのプロレス、ルチャ・リブレを軸にスタイリッシュかつスピーディーな攻防、新しいプロレスのスタイルで観客を魅了するインディー団体。インディーとはいえ、女性客を中心に高い人気を誇っており、専門誌でも試合リポートや所属選手のインタビューが毎号大きく取り上げられるなど、現代のプロレス界において確かな地位を築いています。
 
吉野正人は、そんなDRAGON GATEの中心選手の一人。その吉野のフィニッシュ・ホールドがこの「ソル・ナシエンテ」なのです。
見ての通り、複雑な体勢から相手の身体にダメージを与えるこの技は、猪木や馬場、長州といった昭和のプロレスとは全く異なる"新時代"のプロレスを象徴する技の一つと言ってよいでしょう。
 
そして、紅羽が最後に近次郎に放った「トライアングル・ランサー」は、新日本プロレスの所属選手である"Mr.ハイテンション"井上亘の必殺技。
 

<井上亘のトライアングル・ランサー>
 
井上亘は、99年デビューの選手なので、プロレスの世界ではまだまだヤング・ジェネレーションに属している選手であり、往年のスター選手や、あるいは現在のチャンピオンクラス、トップどころの選手に比べると知名度的にはまだまだ、今後の活躍に期待…といった立ち位置の選手だと思います。そんな若手プロレスラーの必殺技をアニメの中で使ってしまう、そのセンスと思い切りの良さには、自分のようなプロレスファンは、感性を刺激されて止まないのです。
 
思えば、闘魂三銃士四天王プロレスによる大ブーム以降、プロレスは長い長い低迷期に入りました。一方で、プロレス人気の凋落と相反するように、PRIDEを代表とする総合格闘技が一大ブームを巻き起こし、プロレスはその強烈な波に飲み込まれ、翻弄をされ続けました。
90年代の後半〜2000年代の後半…という約10年のパラダイムは、日本のプロレスのヒストリーにおいても非常に重要な意味を持つ時代であると言えるでしょう。
この10年間で、プロレスは一つの区切りを迎えたことで激動の暗黒時代を乗り越え、今、またプロレスは新しい歴史を刻み始めていると言えます。
 
そんな中で、止まっていたプロレスの時間…を、まよチキ!」はノスタルジーではない、新時代を象徴するような、現在進行形のプロレス技を描くことで、"今"を生きるプロレスファンに強烈なプロレスLOVEを見せてくれた。プロレスファンとして、こんなに嬉しいことはないですよ、本当に!
 
 

■まとめ

恥ずかしながら、原作未読の状態でアニメの第一話を観て、その衝撃と衝動のままにガーッと書いたエントリなので、これが原作準拠の描写なのか、それともアニメ化の際に新たに加わったニュアンスなのか…つまり、原作者である、あさのハジメ先生が大のプロレスファンなのか、それともアニメスタッフの中に熱いプロレスLOVEを持った方がいらっしゃるのか…すらも判断がつかないのですが、それでも、こういう「今」のプロレスをアニメで見せてくれるはファンとして非常に喜ばしいことだと思います。
 
しかし、一時期はその存在すら危ぶまれたプロレスですが、「まよチキ!」といい、同じく夏から第二期の放映が始まった「バカテス」といい、プロレス描写が出てくるアニメや漫画が最近増えてきましたよね。
 
まよチキ!」の劇中で、紅羽が使っていた「ソル・ナシナンテ」は、メキシコで「日の出」を表す単語ですが、こういった作品の人気がプロレスにとっても新たな日の出となるよう、アニメファンでありプロレスファンでもある自分は願ってやみません。
 
 
 
<関連エントリ>
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