「ストリートファイター4」アベルのキャラクターデザインに見る総合格闘技の今昔

 

 
自分の中で格闘ゲーム熱が再燃してきたので、今回のエントリも格ゲーについてのアレやコレやを!
 
私がゲーセンでよくプレイする大好きな格ゲーはBLAZBLUEと、それから、やっぱり…ストリートファイター4」! スト4では、フランス出身のファイター、アベルを持ちキャラにしています。
 
で、スト4をやり始めた時に何でアベルをセレクトしたかというと、これはもう単純にビジュアルに強烈に惹かれてしまったからです。もう、キャラの性能とか必殺技とかを知る前に見た目で決めちゃった。
というのが、このアベルのキャラクターデザインって、格闘技とかプロレス好きな人から見ると、凄くおもしろい意匠が盛り込まれているんですね。
 
 

アベルというキャラクターについて

空手、ムエタイ、カンフー、プロレス、テコンドーに相撲…世界中のありとあらゆる格闘術の達人が集まり拳を交わす、まさに"異種格闘技戦"的な雰囲気とロマンがタップリ詰まった「ストリートファイター」シリーズですが、4より参戦した新キャラであるアベルは柔道をバックボーンにしたファイターという設定になっています。
 
…と言っても、その見た目も技の性能も、純粋な柔道家というにはちょっと異質な匂いがします。柔道着…格闘技界で言うところの"ギ"は上着だけで下はスパッツ。このコスチュームだと、どちらかというと柔道家というよりはサンビニストのようなルックスですし、必殺投げに加えて、豪快な打撃技も併せ持つその姿は、どちらかというと"総合格闘家""MMAファイター"としてのイメージとスタイルに近いキャラクターです。
 

MMAの代表的ムーブである低空タックルを仕掛けるアベル
 
総合格闘技の人気イベント「PRIDE」で猛威を振るったウクライナ出身のファイター、"北の最終兵器"イゴール・ボブチャンチンばりのロシアンフックに、プロレスで言うところのフライング・ニールキックのような飛び蹴り、そして、低空タックルもこなすアベル。相手を締め上げたり、関節を極めるサブミッションこそありませんが、"投""打"をバランスよくレイアウトされたアベルのキャラ性能は、他のキャラクターに比べても非常にモダンで実戦格闘技向きと言えます。
 
で、そんな総合格闘技的な匂いを強く感じるアベルなんですが、ここでおもしろいのが、このキャラクターがキックレガースを付けていることなんですね。
 
 

■キックレガースを"開発"した伝説のプロレス団体、UWFとは何か?


キックレガースは、UWFの象徴的なアイテムである
 
キックレガースとは、かつて"UWF"ユニバーサル・レスリング・フェデレーション)というプロレス団体が開発したプロレスにおけるコスチューム、シンボル的なアイテムです。
 
UWFとは、前田日明が80年代に新日本プロレスより独立、旗揚げしたプロレス団体。UWFについてはそのヒストリーを語るだけで、非常に長大な論考になってしまいますので、今回のエントリではなるべく簡潔にまとめさせていただきますが、そのスタイルは「プロレスからショー的な要素をオミットした、より実戦的な、格闘技色の強いプロレス」です。
 
例えば、ロープに相手を投げないし、自身も走らない、フライング・ボディ・プレスやミサイルキックのようなコーナーポストからの飛び技も使わなければ、観客に向けてのアピールも行いませんし、凶器攻撃やヒール(悪玉)、ベビーフェイス(善玉)といった概念も、UWFの試合には存在しません。
試合は、平手打ちとキックを中心にした打撃と、スープレックスと呼ばれる投げ技、そしてサブミッションによって進行し、決着が付けられます。
 

キックレガースを付けたキックで、長州力の"顔面"を襲撃する前田日明
 
UWFにはリーダーである前田日明の他にも、後にPRIDEの第一回大会でブラジルの柔術家である"300戦無敗の男"ヒクソン・グレイシーMMAマッチを行うことになる高田延彦、同じくヒクソンと闘った船木誠勝といったメンバーが在籍し、UWF解散後はそれぞれが新たにRINGS、UWFインターナショナルPANCRASE…と"U系"と呼ばれるプロレス、格闘技団体を旗揚げ。
そこには、桜庭和志田村潔司、あるいは近藤有己菊田早苗といった日本の格闘技の黎明期〜黄金期を支えることになるキーパーソンが所属し、総合格闘技のヒストリーを創り上げていくことになります。
 
<前田日明 vs. 船木誠勝>

90年に大阪国際文化スポーツホールで行われた、前田日明船木誠勝の一戦
 
…と、「簡潔にまとめる」といった割には、やや長めの解説になってしまいましたが、これがUWFのあらましです。つまり、UWFは、それまでのプロレスの曖昧な部分を排除し、格闘技的なスタイルへと接近した、総合格闘技の源流となるプロレス団体であったわけです。
そして、そんなUWFがその歴史をスタートさせた時に開発したのが、アベルも付けているキックレガース。では、キックレガースとは、一体何なのか、キックレガースが持つ意味とは何なのかを次に考えてみたいと思います。
 
 

■キックレガースとは何か? 総合格闘技の今昔


所謂"第一次"UWF在籍時、試合前にコーナーポストに佇む前田日明。ショートタイツにキックレガースが、UWFの基本的なコスチュームだ。
 
キックレガースとは、簡単に言えば脚に付けるグローブのようなものです。素手で相手を殴ったら大変なことになりますよね? 相手に大怪我を負わせてしまいますし、自身の拳も壊してしまいます。ですから、ボクシングやMMAのようなスポーツでは、必ずグローブを着用して、相手と自身をある程度保護するわけです。
 
理屈としては、キックレガースもこれと一緒です。相手を蹴る際に、自身と脚と相手の身体を保護する。まだまだ、格闘技のスタイルが確立していなかった創世記において、UWFがリングに持ち込んだキックレガースは"安全"の為であり、それまでのショーマンシップに溢れたプロレスとは方向性を変え、本気で相手を蹴るUWFの選手達にとっては必須のアイテムだったのです。
 
一方で、キックレガースは、それを付けているプロレスラー達のスタイルから"格闘技"の象徴的なアイテムとしてもファンから注目を浴びるようになります。UWFの妥協なき格闘技理念を体現する激しい蹴りと、それをリングの上で映えさせるキックレガース。
 
また、キックレガースって見た目もカッコいいんですね、凄く。それに、観てる側もレガースを付けて出てくれば「お! コイツはキックが強い選手なんだな」とか「スタイル的に格闘技系のUWFの文脈にいる選手なんだな」というのが一目で分かる。記号性の強いコスチュームなわけです。
 
で、ここで重要なのが、過去においては格闘技路線、ショーマンシップのない真剣勝負のシンボルだったキックレガースですが、総合格闘技のリングで、このレガースを付けている選手は皆無だということです。
総合格闘技MMAの舞台では相手に如何にダメージを与えるかが重要なわけですから、蹴りの威力を軽減するレガースを付けるのは不利になってしまいますから当然と言えば当然。
 
先ほど、UWFは「格闘技色の強いプロレス団体」と書きましたが、この点がポイントになるわけですね。UWFは、あくまで当時としては先鋭的な…総合格闘技色の強い"プロレス"団体であって、純全たる"総合格闘技"団体ではなかったのです。
つまり、キックレガースとは、格闘技の象徴的アイテムであると同時に、プロレスが格闘技への進化、発展していく途中での"リアル"と"フェイク"が複雑に交錯する時代に生まれたアイテムであったわけです。
 
そんなキックレガースを、今大人気の格闘ゲームの中で、アベルというキャラクターが付けていると。そんなアベルは投げに打撃にタックル…といった近代的なMMAの戦法を身につけているファイター。アベルには、モダンなMMAファイターであると同時に、その源流であるUWFのノスタルジーも併せ持つユニークなキャラクターデザインが施されているのです。
 
そこには、総合格闘技の原点とヒストリーが込められていて、ビジュアル面でのデザイン性に加えて、そういう歴史としてのおもしろさみたいものが感じられるわけですね。
 
 

■まとめ

前述した通り、格闘術としては極めて近代的なスタイルを与えられているアベルというキャラクターではありますが、そこには日本の格闘技の原点、源流のシンボルとしてのアイテムである"キックレガース"も描写されています。
アベルというキャラクターのデザインには、格闘技のモダンとノスタルジーがタップリと込められているのです。

高いゲーム性に加えて、こういうMMAやプロレスに対する細かな気配りやリスペクトも「ストリートファイター」シリーズの大きな魅力ではないかな〜なんて思うんですよね…と言っても、他は火を噴くインド人とかミサイルみたいな頭突きをしてくるお相撲さんとか、ムチャな格闘技観のキャラもいるんですけど(笑)。
 
 
 
<関連URL>
■新キャラハカンの「オイルレスリング」って一体何??(たまごまごごはん)