「輪廻のラグランジェ」を目の前にして、その音楽を手掛ける鈴木さえ子のインタビューを読み返す

 

 
輪廻のラグランジェを観ていて、惹かれたのがその音楽の素晴らしさ。電子音にニューウェーヴを感じさせる鋭利なサウンド、ポップで流麗なのにエッジが効いている、音が光っている。このアニメの音楽をクリエイトしているのは只者ではない! 女将を呼べ!! と第一話を観た時点で確信。すぐに、スタッフ・クレジットを確認して納得。
 
輪廻のラグランジェ」の音楽は、鈴木さえ子さんによるものでした。
 
鈴木さえ子さんといえば、80年代の日本のテクノポップニューウェーヴ・シーンの中核にいらっしゃった女性ミュージシャン。元々は、CINEMAというテクノポップ・バンドのメンバーで、YMOムーンライダーズ、果ては英国のXTCといった先鋭的なバンドからも、その音楽的才能に全幅の信頼を寄せられていた凄いお方です。
アニメファンならば、ケロロ軍曹で音楽を担当していた…といえば、「ああ、あのピコピコした音楽を作っていた!」とピンとくるだろうし、CM音楽の世界では「日清チキンラーメン」の「すぐ美味しい、凄く美味しい」というフレーズ、メロディーも、この方の仕事
 
<日清チキンラーメンCMソング>

 
そんな鈴木さえ子さんが音楽を手掛ける「輪廻のラグランジェ」。コレは、アニメファンとしては勿論のこと、音楽ファンとしても見逃せない作品になりそうです。
 
90年代には、表立った活動がなかった鈴木さえ子さんが、アニメ版の「ケロロ軍曹」という作品にサプライズ的な起用をされ、そして、15年ぶりの新作アルバムとなる「『ケロロ軍曹』オリジナルサウンドケロック1」をリリースしたのが2004年。先日、家で音楽雑誌を見返していたら、当時のインタビューが載った雑誌が出てきた。コレが、鈴木さえ子」というミュージシャンと「アニメ」をリンクさせる上で、なかなかに興味深い発言が載っていたので、ちょっと引用をしながらアレやコレやと書いてみたいと思います。
 
 

鈴木さえ子が語る「ケロロ軍曹」のサントラ


 
該当のインタビューが掲載をされているのは、2005年に発行をされた「THE DIG」のNo.40号。「『ケロロ軍曹』オリジナルサウンドケロック2」のリリースに合わせてのインタビューなんですが、「最先端の音響機器で映像、音楽を楽しみ、その性能をレビューする」という企画内で行われたインタビューである為、自身の音楽性や「ケロロ軍曹」のサントラにまつわるエピソードが語られているのは、残念ながら僅かなスペースです。
 
ですが、ここで語られている内容は、「輪廻のラグランジェ」で再び鈴木さえ子さんがアニメ音楽を作っているシチュエーションの中で読んでみると、"鈴木さえ子"というミュージシャンの中での"アニメ"と"音楽"その核心的な部分が垣間見えるようでおもしろい。
 

‐TVアニメのための音楽を作り終えてから、このCD製作に着手するまでは?
 
「昨年の4月放映に向けて年明けから3ヶ月くらいは短い曲を山のように作ってましたね。放映が始まって5月にはそれを広げたり合体させたりという作業をやって。絵がなくても成り立つ1枚の作品にしたいなという思いは最初からあったかな。テクノ印象派をやろうと考えていた頃だったんで、アニメとは全く関係ない新曲を3、4曲入れたと思います。とりあえず作ったものを渡して、勝手に使ってくださいという感じでしたね」

 
音楽の作り方としては、作品の世界観ありきではなく、自身のクリエイティヴティーを優先して作っていたんでしょうね。それが、「ケロロ軍曹」というアニメの自由でポップな音楽性に繋がった。
では、"アニメ"というジャンルが持つ、世界観やストーリー性、キャラクターといった要素を、鈴木さえ子さんが完全に無視して音楽を作っていたかというと、決してそうではありません。
 

‐『ケロック2』は、さえ子さんのヴォーカル曲が4曲入っているというのが、セールス・ポイントとして大きいですよね。歌詞については、アニメのストーリーと絡めた制約とかはあったんですか?
 
「もう勝手に作らせてもらいました(笑)。<色のいろいろ>は、曲調として以前作った<おかしなおかしなフェリーボート>を参考にしているところもあるんですけどね。ほかの宇宙から来て初めてこの惑星を見た時の色とかどんなだろうとか想像したり。は、迷子になったケロロを夏美ちゃんが探しにいくという話をちょこっと思い出して、そこから膨らましたり」

 
ミュージシャン、鈴木さえ子の才能とクリエイティヴな精神が存分に発露されたアルバムといえ、やはり、そこには「ケロロ軍曹」という作品が持つエッセンスが加えられている。思えば、「ケロロ軍曹」というアニメは、鈴木さえ子の音楽性とアニメの作品性が奇跡的なレベルでマッチした幸せな作品だった。
 
そんな「ケロロ軍曹」で久しぶりのアルバムをリリースした鈴木さえ子さんですが、音楽シーンから離れていた(インタビューを読むと、本人には"離れていた"という意識はなかったようですが)間、海外のエレクトリカ等を好んで聴いていたらしい。で、その辺りを突っ込んだ質問に対する答えがおもしろい。
 

‐その辺の音楽の影響は音作りにも多かれ少なかれ出ているんでしょうね。
 
「うん。特に宇宙モノでしょ。なにしろ宇宙人が地球に攻めてくるアニメの音楽と聞いて、これはテクノができる!って思ったもん。それも引き受けた理由なんですけどね。

 
輪廻のラグランジェ」というアニメを目の前にしている2012年に、この発言を読み返してみると思わず口元がニヤけてしまいそうになります。"あの"「機動戦艦ナデシコ」の佐藤竜雄監督が関わっているアニメなので、そのディティールはまだまだ分かりませんが、第一話、第二話を観た限りでは「輪廻のラグランジェ」も、また「宇宙人が地球に攻めてくるアニメ」。このアニメのオファーが来た時に、鈴木さえ子さんは、やはり「テクノができる!」と思ったのでしょうか?
 
そんな自身がこだわりを持つテクノに関しては、
 

「私が好きなのは都会っぽいバキバキのテクノじゃなくて、古めかしいテクノ。クラフトワークとか大好きだし。もう彼らのコンサートを観に行って泣いちゃいましたよ」

 
といった発言も。こうした音楽性、嗜好が「輪廻のラグランジェ」でも炸裂しており、まさに鈴木さえ子にしか作り出せない"音楽"を劇中にもたらしている。「輪廻のラグランジェ」、やはり音楽的にも見逃せない作品です!
 
 

■2005年のテクノポップとアニメ音楽


 
余談ではありますが、このインタビューが掲載された「THE DIG」誌の表紙と巻頭特集は、この年の3月にレア音源とライブ音源を詰め込んだ8枚組のボックスセットをリリースしたYMO。これは無理やりの関連付けになってしまうのかもしれないけれど…という前置きをした上で、この号が発売された2005年には、Perfumeが「リニア・モーター・ガール」でメジャーデビューを果たしていることも強調しておきたいところです。
 
これ以前にも、例えば、インディーロックシーンからのPOLYSICSの登場であるとか、テクノポップを巡る音楽的なトピックは2000年代に入ってからもしばしば散見されますが、「80年代の象徴」「過去の遺物」的な扱いを受けていたテクノポップが最新のトレンドとしてリバイバルを果たす、その大きなきっかけとなったのがPerfumeの音楽シーンでの大躍進。そのPerfumeが、メジャーに進出した年に、日本における"テクノポップ"のパイオニアであり、アイコンたるYMOの回顧的な特集と、「ケロロ軍曹」で音楽シーンにカムバックを果たした鈴木さえ子さんのインタビューが併せて掲載されているという組み合わせの妙がおもしろい。
 
この2年後の2007年に"散開"をしていたYMOは、再結成。翌年の2008年には、Perfumeのアルバム「GAME」がオリコンチャートの一位を獲得し、アニメ界に目を向けてみれば、堀江由衣さんが(2000年代のポップナンバーとしてチューンナップを施された)テクノポップからの影響を強く感じさせる「バニラソルト」をリリース…と、"テクノポップ"の熱が一気に高まり、最注目をされ始める。そんなテクノポップ復活の前夜とも言える2005年に収録をされた鈴木さえ子さんのインタビュー。それから、7年後の2012年に、私たちは再度、鈴木さえ子さんが手掛けるアニメ音楽に、テクノに向かい合っています。
 
ちなみに、7年前のインタビューは、このようなやり取りで締めくくられています。
 

‐気になる今後の音楽活動の予定なんですが、何か新しいプロジェクトとかは?
 
「『ケロロ軍曹』が放送延長になったので、引き続きその音楽をやる、という以外は何も決めていないですね。子供との生活が楽しかったんですよ。(中略)そんな風に私生活が楽しいので、ホントに何も決めていないんです」

 
この時、今後の活動を「何も決めていない」と言っていた鈴木さえ子さんは、この後に、CINEMAのベスト盤、再結成、25年ぶり(!)の新作といったニュースとマテリアルを発表し、「輪廻のラグランジェ」の音楽を作った。人にも音にもアニメにも歴史があって、その辺りのディティールを見ていくと、またおもしろいものが見えてくるし、様々な巡り合わせがある。
 
 

■まとめ

そんなこんなで、可愛い女の娘、カッコいいスタイリッシュなロボット、良く動くアニメーションに加えて、「輪廻のラグランジェ」是非とも、音楽にも注目を観ていただきたいと思います!
そして、本作の音楽に惹かれた方は、「ケロロ軍曹」のサントラや鈴木さえ子さんのソロ作品も聴いてみてください! まるっ!!