アメコミと特撮とプロレスをフリーダムに繋げる男 - テディ・ペルク氏とは何者か?

 

<週刊プロレス No.1632 (ベースボールマガジン社刊) P.48>
 
"テディ・ペルク"氏という人物をご存じでしょうか?
 
現在、初代タイガーマスクこと佐山聡率いるプロレス団体「リアルジャパンプロレス」のスタッフとして活動をされているテディ・ペルク氏。プロレスラー顔負けのその立派な体格で、会場や専門誌のリポートでも目立ちまくるこのお方。以前、フジテレビで放送をされていたWWEの中継番組で解説を行っていたこともありますし、何かとプロレスに縁があり、プロレスファンにも馴染みが深い人物です。
 
そして、このペルク氏、何ともその経歴がユニークでおもしろい! この方のヒストリーを見ていくと、プロレスだけではなく、アメコミや特撮やアニメ…といった様々なカルチャーが自由にリンクし、それらにまつわる日本とアメリカの歴史を探ることができるんです。ちょっと、今回のエントリではこのテディ・ペルク氏についてアレやコレやと書いてみたいと思います。
 
 

■マーベル・コミックの重役のご子息は、エンタメ界のサラブレッド!



 
週刊プロレス誌上で隔週で掲載をされている「プロレス界で働く人々」は、プロレスにまつわる仕事をされている人物の経歴やお仕事の内容についてリポートをする連載企画。本コーナーにテディ・ペルク氏が取り上げられたことがあるんですが、その経歴というのが何とも凄い。父親の仕事で幼少期に生まれ故郷のニューヨークから日本へとやってきたペルク氏、そのお父様がやっていた仕事というのが…。
 

「ウチの父親は『マーベル・コミック』で働いていて、そこのトップだったスタン・リー(スパイダーマンやXメンの原作者)と一緒に仕事をしていたんです。当時からマーベルは世界各国で仕事をしていたんですけど、どうしても日本のマーケットにだけは入れないと。そこでウチの父親が『日本は自分がやるから任せてくれ』って言って、(日本に住むようになるのは)そこからですね。」

 
プロレス界で働く謎の外国人、ペルク氏は実はアメリカン・コミックの最大手のレーベルであるマーベル・コミックの重役のご子息だった! プロレス雑誌なのに、唐突にスタン・リーの名前が飛び出す辺り、やっぱりこの方、ただ者ではありません。そして、スタン・リーといえば、私の大好きなアニメ作品「HEROMAN」の原作者でもある重鎮 ! 「HEROMAN」に限らず、日本のアニメにも関わりのあるスタン・リーとマーベル・コミックですが、日本でのテディ・ペルク氏のお父様が手掛けられていた仕事というのは、まさにその先達的なプロジェクトだったのでしょう。ペルク氏は、こう続けます。
 

「コミックの出版だけでなく、アニメとか特撮モノにもかかわるようになって、色んなものとタイアップしてやってましたね。最初に面倒を見てくれてたのが石ノ森章太郎先生だったんですよ。それからノウハウを覚えて、日本で仕事をするようになったんです。」

 
マーベル・コミックの重役のご子息で、石ノ森章太郎先生と繋がりを持ち、現在では日本のプロレス界で働いている…。う〜ん、何とも不思議な話ですが、これがペルク氏が辿ってきたヒストリー。しかも、ご本人曰く「ひいおばあちゃんがポーランドでレスラーだった」とのことで、そんなペルク氏の経歴を週プロ編集部は「いわばエンターテインメントと格闘技にゆかりの深いサラブレッド」と結んでいます。
 
 

■日本とマーベルを結ぶ作品群

ところで、この来日時にペルク氏のお父様が関わられていたというアニメや特撮というのは、一体どういった作品だったのでしょうか? ちょっと、自分なりに調べてみたのですが、先ず、このテディ・ペルク氏のお父様、誌面ではお名前は出ていなかったのですが、恐らくは"ジーン・ペルク"という方でよろしいのかな、と。ジーン・ペルク氏が関わられた日本でのお仕事については、以下のBLOGにて詳細が書かれています。
 
■闇の帝王 吸血鬼ドラキュラ(Spider-Manブログ様)
 
この記事によると、ジーン・ペルク氏は、日本にマーベル・コミックを売り込み、東映とのライセンス契約に成功。そして、マーベルのキャラクターを使った日本の特撮やアニメを手掛けた人物のようです。日本では、東映が実写版の特撮作品「スパイダーマン」を制作したことがありましたが、コレなんかはまさにジーン・ペルク氏の功績の一つということになるのではないでしょうか?
 
<東映版「スパイダーマン」>

 
この実写版のスパイダーマン、劇中でメチャ強いオリジナルのロボット「レオパルドン」が出てくることで、特撮ファンとアメコミファンに知られていますが、これもジーン・ペルクの尽力によって生まれた東映とマーベルのコラボレーションということになるのでしょう。そういえば、「HEROMAN」に出てくるスーパーヒーロー、ヒーローマンも放映当時はその力強いフォルムと圧倒的な強さから「日本版『スパイダーマン』に出てきたレオパルドンのオマージュではないか?」なんて噂が出たものでした。
 

<コチラも日本とマーベルによる共演作「HEROMAN」>
 
他にも、マーベルと東映は共に、「闇の帝王 吸血鬼ドラキュラ」というマーベル・コミックの作品を原作にしたアニメ作品を制作したり、逆に東映の作品をマーブルに紹介したり…といった交流が行われていたようです。そうした交流の中で、「コンバトラーV」や「大鉄人17」といった日本のアニメや特撮作品に登場するロボットが活躍をする「ショーグン・ウォリアーズ」というコミック(と超合金)もアメリカで発売をされています。
 

<「ショーグン・ウォリアーズ」の表紙。コンバトラーVファンタスティック・フォーと共演!>
  
東映アニメ、特撮のロボット達が多数登場するこの異色のアメコミの経緯やディティールについては、パトリック・マシアス氏が書かれた「オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史」でも触れられていますので、ご興味のある方は是非ご一読を!
 
オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史

オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史

 
ジーン・ペルク氏の敏腕によって生まれた日本とアメリカ、東映とマーベルのタッグチーム。この提携の中で、当時、その作品の多くが東映にて実写化をされていた石ノ森章太郎先生とテディ・ペルク氏の間にも繋がりができていったのでしょう。恥ずかしながら私は未見なのですが(こうしたエントリを書くならば、ちゃんと事前にチェックをして確認をするべきなんでしょうが…スイマセン)、石ノ森章太郎先生の原作による東映の特撮作品「大鉄人17」のWikipediaを観てみると、そこには子役としてテディ・ペルク氏の名前がクレジットをされていたりします。
 
■大鉄人17(Wikipedia)
 
このようにテディ・ペルク氏という人物は、子どもの頃からコミックやアニメ、特撮といったエンターテインメントと深い深い繋がりを持った人物としてこの世に生を授かったのでしょう。まさに、サラブレッド。その経歴やピープルズ・ツリーを調べてみるだけでも、こんなにも沢山のアニメや特撮、コミックとリンクをしていく。
 
 

■エンタメ界のサラブレッド、プロレスの世界へ

マーベル、東映…と様々なヒーローに囲まれて育ったテディ・ペルク氏。そんなペルク氏が、何故にプロレス界に入られたかというと、コレはやはりプロレス界のヒーローであるタイガーマスクの影響。
 


 
子どもの頃、リングの上をまるアニメや特撮のスーパーヒーローのように軽やかに舞い、戦うタイガーマスク佐山聡)の活躍をリアルタイムで目にしたペルク氏は、14歳の頃に病弱だった身体を鍛える為に、佐山が設立したタイガージムへと入門します。そして、ここからペルク氏とプロレスの間に強い結びつきが生まれることに。高校を卒業後に、ハワイの大学へと進学し、卒業後もハワイで働いてたペルク氏の元に、同じくタイガージムで練習をしていたプロレスラーの山崎一夫から連絡が入るのです。
 

山崎一夫さんから『新しい会社を旗揚げするから、一緒にやっていかないか?』という連絡をもらったんです。それで日本に戻ろうと決めました。不安や迷い? そういうものはなかったですね」

 
この時、山崎一夫が口にした「新しい会社」というのが、高田延彦率いるUWFインターナショナルというプロレス団体。すわっ! 「HEROMAN」のジョーイは、Uインター派だったのか!? …まぁ、「HEROMAN」は全然関係ないんですが、マーブルや東映と深い繋がりを持つ人物が、いきなりプロレスと…しかも、UWFインターナショナルのような団体と関係ができるというのが世の中のおもしろいところであり、エンターテインメントという世界の不思議なところ。
 
桜庭和志田村潔司高山善廣といった後に総合格闘技の世界で活躍をするプロレスラーを数多く輩出し、日本の格闘技ブームの礎を築いたといっても過言ではないUインター。そこで、海外選手のブッキングや海外興業のプロモートなどを手掛けていたフロントがマーベル・コミックを日本に紹介したキーパーソンのご子息であり、日本の特撮作品にも出演をしていたなんて、これこそアニメや漫画のようなお話です。
 
Uインター解散後は、恩師の佐山聡にスカウトされ、現在では佐山の「リアルジャパンプロレス」でスタッフとして働いているペルク氏。現代のプロレス界に対して、
 

「あの頃の熱を取り戻したい。あの時以上の盛り上がりを作り出す可能性は絶対にあると思う」

 
と熱く語られています。そして、そんな熱いプロレス愛を持っている方のヒストリーを振り返ってみれば、現代にまで綿々と紡がれる日本とアメリカのアニメや特撮を巡る歴史があり、そして、それはプロレスというカルチャーにもリンクをされていく。
 
人から知る様々な文化の歴史と関係性。そして、それを知るきっかけを与えてくれるテディ・ペルク氏という人物の不思議な経歴と存在感。コレだから、アニメや漫画はやプロレスは…そして、人って抜群におもしろいな、と思います。
 
 

■まとめ

というわけで、今回のエントリでは"テディ・ペルク"という人物から紐解く、様々なカルチャーについてのアレやコレやを。
最後に、コレはお詫びになってしまうのですが、エントリ内で書かれている内容についてはインターネット上のアーカイヴを基にした情報を繋ぎ合わせて書いており、自分としてもかなり心許ない感じになっております。正直に言いますと、多分に当方の推測を含んだ内容になっています。コレは言い訳になってしまいますが、なにしろ、資料が少ないもので…。
 
ですので、もしも、マーベルと東映の当時の関係であるとか、そこに関わるスタッフの情報などをお持ちの方がいらっしゃいましたら教えていただけると幸いです。自分自身、ここいらの歴史には、現在多分な興味を持っていますので。
また、エントリへの訂正やご指摘なども併せてお待ちしております。よろしく、お願いいたします。
 
 
 
<関連URL>
■ヒーローは国を超えて・・・でも何かが違う? 〜ショーグン・ウォーリアーズ〜 (あなたと!ものずきメモリアル様)