「凄い」と「好き」は必ずしもイコールじゃないという話 - 「ダークナイト」と「まどマギ」を例に

 

 
クリストファー・ノーラン監督のダークナイトライジング」を観てきました。 
 
で、その映画の感想というよりは、本作に関して感じたことをちょっとアレやコレやと書いてみたいなと。特に主張とかオチもない散漫なエントリなんですが、最後までお付き合いをいただければ幸いです。
 
 

■個性豊かな「バットマン」映画の数々


 
バットマン」の映画シリーズは、作品ごと(いや、監督ごとという括りの方が正しいのかな…)に映画の作品性やイメージに大きく幅がある作品だと思います。
ティム・バートンが世に放ったバットマンバットマン リターンズに始まり、監督が交代してのバットマン・フォーエヴァー」「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲。そして、クリストファー・ノーランが手掛ける一連の人気作であり話題作であり問題作であるバットマン ビギンズ」「ダークナイト」「ダークナイト ライジング」。それぞれに個性があるバットマン映画の数々。
 


 
ティム・バートンの「バットマン」以前、90年代から現在に至るまでのバットマン映画のヒストリーの"紀元前"としてはバットマン オリジナル・ムービー」なんて作品もありますね。中学生の頃にテレビで見たっきりなんですが、コチラは60年代に制作をされたテレビシリーズの映画版。主人公のバットマンやロビンが悪役を殴るとコミック調のエフェクトが画面に登場したり、珍妙なアイテムの数々が登場したり…と、かなりコミカルな映画で、コチラも90年代以降のバットマン・シリーズに負けずとも劣らない個性を持った作品です。
ちょっとうろ覚えなんですが、悪役としてジョーカーとペンギンとキャット・ウーマンとリドラーが登場をしていた記憶があります。今、考えると「バットマン」「リターンズ」「フォーエヴァー」の悪役が勢揃いをしていたわけで、なかなかに豪華な作品ですよね。内容はおもいっきりキッチュバットマンなんですが。
 
それから、これらの映画作品に加えて、子どもの頃に放送をされていたアニメ版の「バットマン」も印象深い作品です。
主人公のバットマンの声が玄田哲章さんで、敵役に青野武さん、銀河万丈さん、大塚明夫さん…と吹き替え版の配役を渋い声の声優さんで固めていたことに加えて、そのダークな世界観やストーリーは、とっても"大人"な雰囲気と魅力に満ちていて…それこそ、それまで観ていた「トランスフォーマー」や「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」のようなアメリカのアニメ作品とは全く違う…子ども心にとても惹かれたアニメ作品でした。これまた記憶に残るバットマン
 
 

■「ダークナイト」と「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲


  
ところで、こんなにも個性的なバットマン映画の中から、個人的に大好きな作品を一本選ぶとしたら…ティム・バートンのダークな美意識に彩られた初期2作品を"別格"とするならばという大前提の上なんですが…これは、間違いなく「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲です。
そこはクリストファー・ノーランによる「バットマン」じゃないんです。一番好きなのは、「バットマン ビギンズ」でも「ダークナイト」でも「ダークナイト ライジング」でもなくて、「バットマン&ロビン」。そう! 映画ファンからの評判は正直、アンマリよろしくないアレです。
 
勿論、クリストファー・ノーランによるハードコアでシビアな…正義や悪といった哲学の真に迫るバットマンも好きです。脚本、テーマ性、役者の演技力、スペクタクルな映像、美術。映画として本当に凄い作品だと思います。でも、それって「凄い」映画ではあるんですが、そこで受けたインパクトがそのまま「好き」という気持ちのエネルギーと比例するかというとそうじゃない。
 

 
当たり前の話なんですけど、「凄い」と「好き」って必ずしもイコールじゃないと思うんです。そして、私にとって、その辺のディティールを特に感じさせてくれる作品が映画の「バットマン」。
 
 

■「凄い」と「好き」の違い

私が好きなバットマン映画は「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」です。でも、映画としての完成度はノーラン版のバットマンの方が何倍も高いと思います。思うんですが、「バットマン&ロビン」ってとにかく楽しい映画じゃないですか。
何が楽しいって、先ず出演者が揃いも揃ってヘンテコな格好をしてるのが楽しい。だって、ジョージ・クルーニーがやたらと尻が強調されたバットスーツで出てきたり、シュワちゃんやユア・サーマンが変なコスプレみたいな衣装で敵役として出てきますからね「バットマン&ロビン」は。
 

 
衣装だけじゃなく、キッチュで漫画っぽい演出やストーリーも楽しいポイントです。特に好きなのが、序盤でバットマンとロビンのヒーローコンビがMr.フリーズ率いる悪の軍団とアイス・ホッケーで特大のダイヤモンドを奪い合うシーン。この馬鹿馬鹿しくもポップなアイデアを考えた人は本当に天才だと思います! いや、皮肉とかじゃなくて真剣に!!
 
繰り返しますが、映画としての完成度はクリストファー・ノーラン版のバットマン3部作の方が「バットマン&ロビン」の何倍も上だと思います。それでも、それを補って余りある程の陽気で明快な魅力が本作にはあると思うんです。とにかく、もの凄くチャーミングな映画だと思うですよね「バットマン&ロビン」って。
 
やっぱり、自分が「好き」なのはこういうポップでキッチュなヒーロー映画としてのバットマンなんだと思います。それこそ、60年代の「バットマン オリジナル・ムービー」のような。それに比べると、クリストファー・ノーランバットマン3部作は、「凄い」映画ではあるけれど愛情や思い入れを注げる映画かというとちょっと違う。その「凄さ」を語りたくなる映画だけど、好みの作品かというと少し異なるんです。
 
この辺は、もう完全に個人の主観と嗜好の問題。難しい理屈じゃなくて、「好き」か「好みではないか」というレベルで語られる話です。でも、そことは別の次元で、その作品なり何なりを「凄い」と思う評価基準ってあるんですよね、やっぱり。
 
 

■「Rio RainbowGate!」と「魔法少女まどか☆マギカ

ここまでで書いてきたような「バットマン」の話と同じく、「好き」と「凄い」の差異みたいなフィーリングを強く感じた例をもう一つ。
これはアニメの話になるんですが、Rio RainbowGate!」魔法少女まどか☆マギカという2作品も、自分の中でその両者の間に強いコントラストが存在している作品です。
 

 
まどマギ」と「Rio」。どちらも放映当時に欠かさずチェックをしていた作品であり、今も時折見返しているアニメなんですが、この2つを比べた時に私が好きなのは「Rio」の方。
 
「好き」の理由は、バットマンの時とほとんど同じです。とにかく、「Rio RainbowGate!」という作品のポップで明るくて大袈裟で、そしてアトラクションとお色気に満ちたあの感じが大好きなんです。対して、魔法少女アニメのダークなパロディ作品である「まどマギ」は「凄い」作品というイメージ。
 
バットマン&ロビン」もそうなんですが、自分の「好き」という感情が反応をするのは、やっぱりストレートなエンターテインメント精神に満ち満ちている作品というか、とにかく人を楽しませようというアティチュードで溢れている作品ということなんだと思います。
それこそ「バットマン&ロビン」のヘンテコな衣装や演出、「Rio」のお色気タップリのぶっ飛んだ脚本といったファクターを馬鹿馬鹿しいと思う人もいらっしゃることかと思いますが、それでもこの「とにかく観ている人を楽しませよう!」という作り手の心意気みたいなものが私は大好きですし、多少のツッコミどころは気にせずに突き進む姿勢が私は大好き。
 
偶然にも、放映時期が重なった上に、ひたすらに明るい「Rio」とダーク・ファンタジーアニメの傑作たる「まどマギ」という正反対の作風と、その一方でストーリー展開や作中の描写に妙な共通項が存在していたこと(例えば、登場人物の首が取れたり)で、ネットの世界ではギャグ的に比較が行われていた「Rio」と「まどマギ」ですが、自分の中でも「好き」と「凄い」という個人的な評価の基準とフィーリングがハッキリと別れたアニメ作品でもあります。
 
まどマギ」は、脚本とかキャラクターとか本当に凄いアニメだと思うんです。劇団犬カレーのあのシュールな絵とか、絶対「Rio」では出来ないよな〜とか。コレ、凄いな〜って思う。でも、それが好みにマッチするかって言われるとちょっと違う。「ダークナイト」を観た時と感じる気持ちってのが、まんま一緒なですよ、自分の中で。
 
 

■個人的に思うことなんですが…

こういう評価の別れ方とか比較をしてしまう映画やアニメって、皆さんの中にもありませんか? 的な「あるあるネタ」として今回のエントリは書いてみたんですが、それ以外にもこうBLOGなんかで作品ごとの感想を書く時なんかに、この辺の受けたニュアンスを整理して考えると、また色々とおもしろいんじゃないかな〜なんて思うんです。「好き」と「凄い」って、自分の中でもちょいちょいゴッチャになってしまう情感ではあるんですが、そこをちょっと整理して作品に接してみるのも時にはありなんじゃないかと。
 
それから、最後になるんですが、ここまでで書いてきたようなバットマン映画の感想なんですけど、各作品ごとの原作漫画をすっ飛ばして書いていてすいません…。映像作品としてのバットマンに親しみはあっても、コミックのバットマンを全く知らない人間なもんで…。詳しい方、アメコミファンの方、お気を悪くされたら申し訳ないです…。
 
あ、あと、そんなちょっと緩いバットマンファンとして「ごめんなさい」のついでに、もう一点だけ「ダークナイト ライジング」について書いておきたいと思うんですけど、ベインのキャラクターは絶対に今回の新版の方が良いと思いました。ここまで「バットマン&ロビン」を散々好きだと言っておいて何なんですけど、あの映画のベイン、ただの筋肉バカですからね。
ベインに関しては、圧倒的にクリストファー・ノーラン版の方が「好き」であります。
 


 
バットマン」といえば、このPVもキッチュで好きだな〜。「パープル・レイン」はダメでも、このサントラはゾンビに投げつけてOKなショーン・オブ・ザ・デッド! ♪農協牛乳〜!!