空高くスカイ・ハイ! - 劇場版「けいおん!」が繋ぐ音楽とプロレス

 

 
先日、原作漫画の続編であるけいおん! college」も刊行された人気作品けいおん!
 
この作品が、実は全日本プロレスから多大な影響を受けていることを皆さんはご存知でしょうか? 今回のエントリでは「けいおん!」と全日本プロレスの密な関係について、アレやコレやと書いてみたいと思います!
 
 

■劇場版「けいおん!」と全日本プロレスの密な関係


 
けいおん!」には、度々、全日本プロレス的なモチーフ、キーワードが登場をします。例えば、映画版の「けいおん!」では、その舞台に英国が、そして、ポスターのキービジュアルには"キングス・ロード"が描かれました。
 
"キングス・ロード"…直訳をすれば、即ち、"王道"
 

王道プロレス(おうどうプロレス)とは、ジャイアント馬場が提唱したプロレススタイルの俗称。もしくはそのスタイルのコンセプト。馬場プロレス、馬場スタイル等ともいわれる。」
 
- 王道プロレス(Wikipedia)

 
これなんかは、まさに全日本プロレスのキャッチコピーである"王道プロレス"からそのキーワードを頂戴したのでしょう。「明るく楽しく激しいプロレス」と同じく、全日本プロレスの魅力と奥深さを明快に示した名コピーであり、団体のテーマでもある"王道"をイメージさせるキングス・ロードを数ある英国の名所の中からチョイスした辺りに、原作者であるかきふらい先生と京都アニメーション全日本プロレスへのリスペクトがビッシビシと感じられます(星野勘太郎調)。
 
<ベスト・オブ・星野勘太郎>

 
…失礼、星野勘太郎は、全日本プロレスではなく、新日本プロレスの所属選手でしたね。魔界倶楽部!!
 
このように、原作漫画を離れ完全なるオリジナル・フィルムとなった劇場版でも全日本プロレスへの愛を入場時のブルーザー・ブロディの如く叫びまくった「けいおん!」。
 
<ブルーザー・ブロディ vs. アブドーラ・ザ・ブッチャー>

 
とはいえ、これだけでは単なる偶然。無理やりのこじつけと思われる方もいらっしゃるでしょう。
新日本プロレスで活躍をしていた佐山聡初代タイガーマスクと全日に登場をした三沢光晴の二代目タイガーマスクの如く、似ているようで全然違う別物と感じられるかもしれません。ちなみに、Jr.ヘビー級だったのが初代タイガーマスクで、大型のヘビー級で活躍をしたのが2代目タイガーマスクです。で、三代目タイガーマスクの正体は金本浩二で、現在活躍中の4代目はみちのくプロレス出身。あと、タイガーマスクの永遠のライバルであるブラック・タイガーは、初代がマーク・ロコで、二代目がエディ・ゲレロです。それから、全日本プロレスの直接的な系譜にあるPro-Wrestling NOAHで、タイガーマスクの亜流として登場をしたタイガー・エンペラーの正体は鈴木鼓太郎で、初代タイガーマスクがやっているリアル・ジャパン・プロレスで現在活躍をしているスーパータイガーとタイガーシャークは…(無限に続く)
 
鈴木鼓太郎、知りません? 三沢光晴に「打てば響くように」という願いを込めて、リングネームに太鼓の"鼓"の字を頂戴した鈴木鼓太郎ですよ!(何の説明にもなっていない説明)
あと、4代目がまだまだ現役なのに、全日に突如として出現して、その後、すぐいなくなった5代目タイガーマスクって結局何だったんでしょうね?(真剣に謎)
 
まぁ、正体がミノ○マンな5代目タイガーマスクの話はどうでもいいとして、「けいおん!」と全日本プロレスの話に戻ります。キービジュアルに全日的な"王道"のモチーフを使った劇場版「けいおん!」ですが、これ以外にも劇中には強い全日本プロレス愛を感じる場面が存在をしています。劇中で放課後ティータイムのメンバーが全日本プロレスへの愛を叫ぶ…そう! 正に、"叫ぶ"シーンがあるのです!
 
 

■空高く…スカイ・ハイ

映画版の「けいおん!」では、英国での演奏シーンのクライマックスに、主人公の平沢唯によって、あるフレーズが叫ばれます。そう…
 

 
スカイ・ハイ!」
 
です。
 
現在テレビ放映をされているBD、DVDのCMスポットでもピックアップをされているこの「スカイ・ハイ」というフレーズ。もう、説明不要かと思いますが、これは全日本プロレスを代表する外国人選手の一人であるメキシコのスーパースター、ミル・マスカラスのテーマ曲スカイ・ハイへのオマージュですね。
 
<ミル・マスカラス入場曲 / スカイ・ハイ>

 
"ガイジン天国"と呼ばれる程、豪華で層の厚い外国人レスラーが揃っていた70〜80年代の全日本プロレス。そんな全日で、正義のレスラー…"ベビーフェイス"の象徴として、大活躍をしていたのがミル・マスカラスです。ミル・マスカラス…このリングネームは日本語に訳すと「千の覆面」という意味になります。そのリングネームと「千の顔を持つ男」という異名の通り、試合毎にマスクを変え、その華やかなコスチュームと華麗な空中殺法で国民的な人気を得たマスカラスは、まさに世界で最も有名なマスクマンと言えるでしょう。
 

<週刊プロレス No.1154 (ベースボールマガジン社刊) P.55>
 
初来日は全日本プロレスの"前史"たる日本プロレスであり、90年代以降は日本の様々なプロレス団体に登場をしたマスカラスですが、その最盛期であり、プロレスファンのメモリーに強く刻み込まれている"黄金期"は、やはり70年代半ば〜80年代半ばの全日本プロレス参戦時です。
 
そして、スカイ・ハイ」がテーマ曲になったのも、まさにこの時期。この曲は、マスカラスにとって、あるいは、全日本プロレスにとって、そして、プロレスファンにとって特別な一曲なのです。
 
 

全日本プロレスとプロレスのテーマ曲

今では、プロレスに欠かせないものとなっているテーマ曲ですが、それを一般的にしたのは全日本プロレスだと言われています。
日本におけるプロレスのテーマ曲の原点は、国際プロレスでスーパースター・ビリー・グラハムが来日をした際に、その入場時に使用をした「ジーザス・クライスト・スーパースーパー」というのがファンの間での定説ですが、その演出をポピュラーにしたのは全日本プロレス
 


 
当時、全日本プロレスの中継を行っていた日本テレビは、レスラーの入場時に曲をかけるという演出術に着目をし、自社のプロレス中継にそのアイデアを取り入れました。例えば、ジャイアント馬場の「王者の魂」、例えば、高中正義による天龍源一郎の「Thunder Strom」、例えば、ジャンボ鶴田の「J」。これが、外国人レスラーの場合だと、ブルーザー・ブロディLed Zeppelinの「移民の歌」で、アブドーラ・ザ・ブッチャーPink Floydの「吹けよ風、呼べよ嵐」、ホーク・ウォリアーアニマル・ウォリアーザ・ロード・ウォリアーズBLACK SABBATH「Iron Man」…といった具合に、全日のレスラーにはそれぞれのイメージやファイトスタイルにピッタリとマッチした"名曲"達が次々に生まれていくことになります。
 
<ザ・ロードウォリアーズ vs. アニマル浜口キラー・カーン>

 
テーマ曲は新規に制作をされたオリジナル曲の場合もあれば、ロックやテクノの既存の曲を選手に合わせてチョイスをする場合もあります。「スカイ・ハイ」の場合は、後者のパターンで、ミル・マスカラスというメキシコ、米国で活躍をしていたスーパースターのイメージに合わせて、日本で選曲をされた一曲です。
 
「スカイハイ」は、元々は英国(そう! 放課後ティータイムが卒業旅行に行った英国です!)のパワーポップバンドであるJIGSAWによって作られた曲です。この曲は、1975年に制作をされた香港とオーストラリアの合作映画スカイ・ハイ」(原題は、"The Man From Hong Kong")のテーマ曲にタイアップをされたのですが、映画自体はほとんどヒットをしませんでした。ところが、この曲をたまたまディスコで聴いた日本テレビの製作者が、これをマスカラスの曲として、プロレス中継に導入をした。
 
 

ミル・マスカラスと「スカイ・ハイ」…そして、「けいおん!

映画の「スカイ・ハイ」はブルース・リーブームの余波を受けて制作をされた亜流のカンフーアクションもので、映画の興業的不振もあり、この曲は全くヒットをしませんでした。パワーポップのバンドとして、日本でも一定の評価をされていたJIGSAWが来日公演を行ってもレコードは余り売れなかったのですが、ミル・マスカラスが全日中継でこの曲と共に颯爽とリングに上がり、そして、この曲のシングル盤(当時は、レコードなので所謂「ドーナッツ盤」)のジャケットに登場をし、「仮面貴族ミルマスカラスのテーマ」というコピーを付けて再プレスをすると今度はミリオン・ヒットとなります。
 
それだけ、当時のマスカラス人気が凄かったというエピソードなのですが、これこそプロレスのテーマ曲が如何に重要なものであるかを物語る逸話とも言えるでしょう。この曲の凄さを、武藤敬司による新体制となった全日本プロレスでリングアナを務めるタイガー木原氏はこう語ります。
 

プロレス界的にいっても、スカイハイがあったからこそプロレステーマ曲が根付いたといえるんじゃないでしょうか。プロレスというショーの流れの一部。レフェリーがカウントを取り、リングアナがゴングを鳴らす。それと同列かそれ以上に必要不可欠なものになったのは、やはりマスカラスがこのイメージを作ったから。
 
(中略)
 
歴史をひも解けば、あらゆる要素がマスカラスという磁場に向かって引き寄せられていたわけですよ。その象徴的なものが「スカイハイ」だった。「スカイハイ」はミル・マスカラスの魅力を最大限に活かした曲、そう断言していいと思いますよ。
 
- 週刊プロレス No.1154 (ベースボールマガジン社刊) P.75

 
また、来日前のミル・マスカラスを積極的に取り上げ、その人気に一役を買った「週刊ゴング」誌の元編集長、竹内宏介氏は全日本プロレスの創設30周年を記念してリリースされたテーマ曲集のブックレットで、「スカイ・ハイ」と全日本プロレスの"音楽史"について、こうも書いています。
 

全日本プロレス創立30周年”王道驀進”

全日本プロレス創立30周年”王道驀進”

 

1977年(S58年)2月19日、東京後楽園ホールで歴史を変える出来事が起こった。この日、開幕の『エキサイト・シリーズ』に来日した"仮面貴族"ミル・マスカラスの入場の際に会場にテーマ曲(スカイ・ハイ)がかかったのである。それ以前にブラス・バンドなどの吹奏楽団の演奏をバックに選手が花道から入場したことはあったが、会場で本格的にテーマ曲が使われたのは、これが初めてであった。
 
このマスカラスのテーマ曲の大ヒットによって、たちまちG馬場、J鶴田、ザ・ファンクス(ドリー&テリー)、アブドーラ・ザ・ブッチャービル・ロビンソンらの主力選手たちにテーマ曲が付けられた。当時、レスラーたちの入場にテーマ曲を流す事は本場のアメリカ・マット界においても、まだ、行われていなかった。のちに全日本のやり方に影響された形でアメリカのNWA、AWAWWF(現WWE)などでも、テーマ曲が使われるようになったが、その先駆者は紛れもなく全日本プロレスであった。

 
全日本プロレスが生み出した数々の名曲達は…その中でも、この「スカイ・ハイ」は、プロレスに音楽というカルチャーが根付く、そのムーブメントの先駆けとなった曲なのです。
 
確かに、「スカイ・ハイ」というタイトル、そして、伸びやかなメロディーラインは、ミル・マスカラスというレスラーの空中殺法を駆使した試合運びや華麗な佇まいにピッタリです。ドラマティックなイントロもプロレスの入場にマッチしている。そして、この曲のヒットによって、プロレス界には「入場曲」「テーマ曲」が定着することになるのです。
 

 
スカイ・ハイ」は、プロレスに音楽をリンクされた歴史的な名曲と言えるでしょう。そして、そのことを考えた時に、「けいおん!」の劇場版で、ミル・マスカラス全日本プロレスへのオマージュとして「スカイ・ハイ」というキーワードが登場をした意義はとても大きい。けいおん!」は"音楽"と"全日本プロレス"をテーマにしたアニメです。そこで、全日本プロレスが生み出した最大のヒット曲、テーマ曲である「スカイ・ハイ」が登場をしたことは必然だったと言えるでしょう。
 
ミル・マスカラスが「スカイ・ハイ」を入場曲使ったことによって、プロレスと音楽が繋がったように、けいおん!」はスクリーンで再び音楽とプロレス、そしてアニメを繋げてくれた。私は、プロレスファンとして、そして、アニメファンとして「けいおん!」という作品に、感謝の言葉を述べたいと思います。
 
ありがとう! そして、ありがとう!!(それは、「TIGER & BUNNY」のスカイハイ!)
 
それは、それとして、唯のミル・マスカラスへのリスペクトを込めた「スカイハイ」発言と併せて、「けいおん!」とメキシコのプロレス…ルチャ・リブレの愛称の良さも我々は考慮に入れるべきかもしれませんね。
けいおん!」ファンが頻繁に使用していたあずにゃんペロペロ(^ω^) 」というフレーズのあの「ぺロ」という響きも、恐らくはメキシコの伝説的ルード(悪役)である"山犬"ぺロ・アグアヨから取られたものでしょうし。
 
 

■おまけ

 
twitterでプロレス好きの友人がツイートしているのを見て知った動画なんですが、コレ作った人も自分と凄く近いフィーリングで「けいおん!」を観ていたんだろうなぁ〜というのがビシビシ伝わってきて、何だか嬉しくなってしまいました。
新日本プロレスのヒールチーム、「CHAOS」(ケイオス)で「けいおん!!」パロ。違和感の無さがまた凄い!
 
 
 
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