「いなり、こんこん、恋いろは。」最終回に寄せて

 

 
毎週、水曜深夜の放送を楽しみにしていたテレビアニメいなり、こんこん、恋いろは。が先日、遂にその物語のクライマックスを迎え、放送終了。「感受性応答セヨ」とばかりに情動に訴えかけてくる凄い最終回だった。今回のエントリでは、「いなり、こんこん、恋いろは。」についてアレやコレやと。
 
 

■「いなり、こんこん、恋いろは。」最終話のエモーション

いなり、こんこん、恋いろは。」第10話であり最終話「いなり、こんこん、恋いろは。」。
 
"ネタバレ"になってしまうから詳細について記述をするのは控えるけど、本当に素晴らしい最終回だったと思う。ちょっぴり切なくてセンチメンタル。だけど、主人公であるいなり(と、彼女と触れ合った、うか様)の確かな成長を…ポジティブに、そして力強く描いた非常に鮮烈なラストだった。凄まじくエモーショナルであり涙腺を刺激する、しかしながら、女々しさやトラジェディーとは違う、爽やかな感動を描き切ったエピローグだったと。
 
驚いたのが、「いなり、こんこん、恋いろは。」という作品が、その物語の幕引きをキチンと"最終回"として描いていたことだ。実に最終回らしい最終回。物語として完璧なラストシーン。完全無欠、真の意味での"終わり"であり、余計な蛇足を拒むかのような潔さ。それが、「いなり、こんこん、恋いろは。」というアニメ作品の"あのラストシーン"には込められていたように感じられた。
 
最近のアニメ作品だと、ソフトの売上の良ければ二期、三期と続編を製作…であるとか、放映時期を分割する…といった製作体制が多いので、物語の最終回は続編が作りやすい様に、"ネクスト"へ繋がり易い様に含みを持たせたままクローズする…という手法が目立つ様に思う。そうした中で、アニメ版「いなり、こんこん、恋いろは。」が描いた、瑞々しいエモーションを湛えつつ、"終わり"をハッキリと描いてみせたあの幕の弾き方というのは、やはり特別なインパクトと強い情感を持っていたように自分には感じられるのだ。
 
最終回でもコミカルな描写をエッセンスに用いつつ…メインとなるストーリ性の部分からは決して逃げず、ドラマを描いてみせる。決してシリアスになり過ぎずに、だけれども真摯にキャラクターや物語を綴るバランス感覚と、その難しい作劇に挑む覚悟というのは、このアニメが始まって当初からの一貫した魅力だったし、困難にぶち当たっても決してめげずに問題解決の糸口を掴もうとする、主人公のいなりを始めとした登場人物達の姿とも重なる部分でもあった。
 
だからこそ、あのラストは本当に胸に迫ってくる。「いなり、こんこん、恋いろは。」…本当に素敵なアニメ作品であり、その最終話はラストを締めくくるに相応しいグレイトなエピソードだったように思う。
 
 

■「いなり、こんこん、恋いろは。」の"全10話"という衝撃

そんな素敵なアニメ作品の最終回に寄せて、もう少しだけ。このアニメの驚くべき点は、自分の中でもう一つあって、それはこの作品が"全10話"という他のアニメに比べても短い話数で作られていたことだ。
 
最近のKADOKAWAアニメの傾向なのかもしれないけれど、全10話というスタイルで作られたアニメ作品がちょっとずつ増えてきた。ただ、いずれの場合もそのパッケージング故に、どうしてもシナリオの部分で性急さや詰め込み過ぎから生じる無理を孕んでいた様に思う。そこで、「いなり、こんこん、恋いろは。」なのだけれど、この作品の場合は、その辺りの短い尺での構成の難しさを脚本の上手さで華麗に乗り越えてみせた様に感じられるのだ。
 
個人的には、「ショートアニメやギャグアニメならともかく、やはり、アニメ作品で全10話という放送形態には無理がある」「キチンと物語を描くには最低でも全12話は必要なのではないか?」と思っていたのだけれど、あんな見事な作劇と物語の結末を描かれてしまってはぐうの音も出ない。アレは本当に凄いとしか言い様がない。2014年の冬にスタートをした30分アニメの中で、どの作品よりも遅くスタートをし、どの作品よりも先にゴールテープを切った「いなり、こんこん、恋いろは。」。全10話、されど過不足なし、納得の10編のエピソード。
 
個人的には、アニメ作品は3ヶ月という放送でも短く感じてしまい、最低でも半年…出来れば、一年…というスパンで接したいという欲望を常日頃から抱えている人間なのだけれど、こういった少ない話数でもあそこまで見事な作劇を繰り広げられる作品が出てきたというのは自分にとって大きな驚きだ。深夜枠でのアニメ放映が主流となって、所謂"1クール"の放送形態が従来の半年や一年スパンでの放送形態に取って代わって極々自然なものとなった様に、全10話というアニメの作り方も今後はより洗練されていき、もっとメジャーなものになっていくのだろうか?
 
そういった驚きや感慨も含めて、やはり「いなり、こんこん、恋いろは。」は、自分の中で本当に素晴らしい、そして驚くべき作品だった。この後には、単行本の特典という形で一話分のエピソードが新作アニメとしてリリースをされるけれども、本編であそこまで見事なエピローグを書き終えた後では、恐らく、"11話"は本編の番外編、挿話…といった扱いになるのであろう。テレビ放映版の感動の余韻に浸りつつ、残る11話目の「いなり、こんこん、恋いろは。」も楽しみに待ちたいと思う。