「僕らはみんな河合荘」のホラー映画鑑賞会シーンについて






僕らはみんな河合荘を観ていて気になったポイントがあったので、アレやコレやとメモ書き程度に更新!




■「僕らはみんな河合荘」第2話で観ていたホラー映画は…

僕らはみんな河合荘」第2話「これって」。後半のホラー映画鑑賞会のシーンで気になったのがこの場面。






恐らくは、ゾンビもの? のホラー映画を河合荘の皆で観ているシークエンスに、ところどころカットインされる映画の画面。サメがゆうゆうと泳ぐ海中で、女性がゾンビに襲われる…という場面だけれど、恐らく、これはルシオ・フルチサンゲリアへのオマージュだ。


イタリアのゴア・スプラッターホラー映画の巨匠、ルシオ・フルチ。「サンゲリア」は、フルチがジョージ・A・ロメロの大傑作であり、ホラー映画のヒストリーに燦然と輝き続ける名作中の名作「ゾンビ」の世界的な大ヒットを受けて、その設定や世界観をオマージュ…いや、堂々とパクって創りあげたソンビ映画の怪作中の怪作。何が、どう怪作かって、日本では「サンゲリア」という邦題が付いている本作の原題はズバリ「ZOMBIE 2」で、ロメロの「ゾンビ」の続編でも何でもないにも関わらず、さも続編の様に見せかけて公開をしようとした、いわば亜流も亜流、二匹目のドジョウならぬ二体目のゾンビを狙ったパチモン映画なんである。





そんな「サンゲリア」、内容も凄い。先ず、ゾンビが物凄く汚い! ロメロの本家ゾンビは割りとフレッシュ感が残っていたものの、コチラのビジュアルは完全に腐乱死体のそれ。表面には蛆やミミズがのたくっており、観るものに強烈な嫌悪感と不快感を味あわせてくれる。こんなゾンビに襲われたら堪らんな…と思うのだが、そんなゾンビのグチャグチャなビジュアルに比例するかの如く、脚本もハチャメチャだ。




■シッチャカメッチャカな「サンゲリア」の脚本と鮫




グロテスクでスラッシーな残酷シーンの数々、唐突に挿入をされるお色気シーン、ゾンビが地上を占拠し尽くし、人間は死に絶えた…というストーリーのハズなのに、ゾンビがヨタヨタ行進する横を車が普通にビュンビュン走っているという衝撃のラストシーン等など。真面目な映画ファンが観たら卒倒をする程のハチャメチャかつ不条理な展開の連続である。車が走ってるって、それメチャクチャ平和じゃないか!


とにかくビジュアル、スプラッターシーンのインパクト重視の為に全くもって作品全体の整合性が取れていない。この作品を観た後で、本家のロメロ「ゾンビ」を観ると如何に脚本や撮影が良く出来ているかと感心をさせられること請け合いである。


そんな「サンゲリア」の哲学を最も色濃く象徴をしている場面が、「僕らはみんな河合荘」でトリビュートをされていた鮫の登場シーンだろう。






船に乗っている主人公のアメリカ人記者。すると、主人公と行動を共にしていた女性が、唐突に船の上で服を脱ぎだし海中に飛び込む(ちなみに、何で突然、おっぱい丸出しで泳ぎ始めたのかは全くもって意味不明)…と、そこで鮫に遭遇。驚いていると、そこに更にゾンビが! という、これまたトンデモないシークエンスで、更にトンデモないことに、ここからゾンビと鮫のバトルシーンが始まる。


何でいきなりゾンビ映画に鮫が…という突拍子もない展開なのだけれど、これが理由は物凄くシンプルで単に当時、スティーブン・スピルバーグのパニック映画ジョーズが流行っていたからなのだ。「『ジョーズ』とか流行ってるし、鮫出しとけば客も喜ぶべ!」という余りにも安直なフルチの発想により実現をした鮫vs.ゾンビ。これまたパクリ根性丸出しのどうしょうもないシークエンスなのだが、これがどうしてなかなかに迫力のあるシーンに仕上がっており、本作の中でも屈指の見応えを持つ名(迷)場面となっている。




■「サンゲリア」と「サスペリア」、フルチとアルジェント

そんなパクリゾンビ映画サンゲリア」。これが恐ろしいことに、当時のスプラッターホラーブームに乗ってヒットをしてしまったものだから、当然、本家の「ゾンビ」を作った人々は怒ったらしい。特に、「ゾンビ」のプロデューサーを務めていたイタリアの映画監督、ダリオ・アルジェントは烈火の如く怒った。怒って、フルチと大喧嘩をしたそうである。で、ここで「僕らはみんな河合荘」の話に戻るのだけれど、おもしろいのがこの作品の中でシロさんがDVDのパッケージを手に持っているシーン。





一本は、やっぱり、「サンゲリア」のそれ(この辺もちゃんと再現をされているんですよね、劇中で)なのだけれど、もう一本は件のダリオ・アルジェントの代表作であるサスペリアを手にしているのだ。






考え過ぎなのかもしれないけれど、この場面を描いた人は、当時、ゾンビ映画の制作を巡って確執のあったマカロニホラー映画界の巨匠二人の関係性を知った上で、敢えてこの二本を並べたのではないかと思う。王道の「ゾンビ」ではなく敢えて亜流の「サンゲリア」をチョイスするセンスに加えて、そこにアルジェントも絡めてくる。この一連のシークエンスをクリエイトした方は、かなりのホラー映画ファンなのだろうな、と。


ちなみに、その余りのインパクトの強さから熱狂的なファンも多い「サンゲリア」。はっとりみつる先生のゾンビラブコメ漫画さんかれあのタイトルやSchool DaysのスピンオフOVA「マジカルハートこころちゃん」でもオマージュをされていたりもする。そんな「サンゲリア・トリビュート」に名前を連ねることになった「僕らはみんな河合荘」だけれど、あの圧倒的な悪趣味加減やハードコアな暴力性は、麻弓さんの鬱憤を表現するのにもピッタリで、演出的にも巧みな映画選だなと思わされる。