ZAQ 1st.フルアルバム『NOISY Lab.』を聴いての感想






ZAQさんの1st.アルバム『NOISY Lab.』を購入し、最近、ヘヴィーローテーションをしています。


このアルバムが本当にクオリティーが高くて、しかもユニークな作品で。そんなこんなで、今回のエントリでは、本作に関する感想をアレやコレやと!




■"歌い手"というシーンから、凄まじい才能が出てくることへの驚き




本作で私が一番興味深く感じたポイントが、ZAQさんというミュージシャンがニコニコ動画"歌い手"というシーンから登場をした点。ニコニコ動画というシーンに馴染みがない人間にとっては、初音ミクとかあの辺の音楽と同じく、全く知識や理解が追い付いていない文化圏である"歌い手"として世に登場をしたZAQさん。彼女の1st.アルバムは、そんな自分にとってはまさに"未知との遭遇"であり、ファーストコンタクトということになる。


先ずは、アルバム全体の感想を先に書いてしまうと、非常に良質なテクノポップのアルバムであるな、ということ。とはいっても、その音は80年代〜90年代のアニソンにおけるテクノポップの音とはサウンドの質感が違うし、2000年代に一斉を風靡したI'veサウンド的なハードコアアプローチのデジタルロックとも全く異なる。いわば2010年代の新しいテクノポップとでも言いたくなるサウンドだ。


何と言っても、楽曲の構成というのが普通じゃない。転調を多用した楽曲展開はひたすらにポップでカラフル。めまぐるしい電子音の洪水は、ひたすらに刺激的である。アルバムの個人的なハイライトでもある、M11"エキストラレボリューション"なんかは、まさにそんなアルバムの魅力を最も感じさせてくれるナンバー。この曲は、アニメ勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。のオープニングナンバーだが、如何にもテクノポップ然としたピコピコした電子音で構成をされながらも…オールド・スクールな"テクノポップ"とは完全に趣を異にする。ハイファイな音とメロディーで、展開ビシバシ。とにかく刺激的で圧倒的にポップなそのサウンドは一種の攻撃性すら感じられる。


ZAQ / エキストラレボリューション(Music Clip short ver. )>



打ち込み主体の音ではあるものの、音は多彩で複層的。更に、メロディーの展開も独特なものだから、打ち込み、宅録的な音楽特有の内向的な雰囲気がほとんど感じられないのも特筆すべきポイントだ。一部の楽曲では、生楽器が導入をされているものの、基本は打ち込みによるデジタルな作曲、編曲となっていると思う。それでも、ひたすらに開放的で明るく、しかもハイファイな空気感にアルバム全体が満ち溢れているのは、2000年代のインディーズ・ブームやアヴリル・ラヴィーンの様なガールズ・ロックを通過してきたZAQさんの音楽的体験と何よりもメロディーセンスの良さに依る部分が大きいのではないかと思う。


こうした音楽が"ネット"の…しかも"ニコニコ動画"という、その界隈から外れた人間としては全容が如何にも掴みづらいシーンから出てきたというのは、自分の様な音楽ファンにとってはたすらに驚きである。




■2010年代にウェルメイドされた新しいテクノポップ

先ず、ファーストトラックのM1"overture-Crescentic Lab. noiZ track-"。様々な音がコラージュをされたジングル的なナンバーで、アルバムの導入部としても色気タップリな楽曲。環境音やノイズ、アルバム収録曲の断片的なメロディー、そして、ファミコンのBGMの様なサウンド…が混然一体となった音塊によって、アルバムは幕を開ける。


そこから、始まる2010年代にウェルメイドされたテクノポップ、めくるめく綺羅びやかな電子音の万華鏡。アルバムの前半にレイアウトをされたM2"feel the noiZ"、デビュー曲であり「中二病でも恋がしたい!」主題歌でもあるM3"Sparkling Daydream"の様に、基本的にはアップテンポでビート感の強い縦ノリのロック調ナンバーが並ぶが、例えばM9"Play the ray"ではラップ(ラップといっても、バックトラックはヒップホップ、ブラック・ミュージック調のブレイクビーツではなく、打ち込みによるポップなもの)を披露したりとサウンドの自由度は非常に高く感じられる。


M8の"自由という理由"は、CGアニメ直球表題ロボットアニメのエンディングで使用をされていたナンバーらしく、歌詞は作品に寄り添った内容となっている。また、メロディーも梶浦由記さんや石川智晶さんを思い起こさせるトライバルな曲調のものであり、アルバムの中では異色のトラックだ。本作では、自身が手掛けたタイアップ曲のほとんどが網羅をされており、収録曲の約半数はアニメの主題歌に使用をされたナンバーである。故に、アルバムとしての統一感に欠ける部分はあるものの、それが却ってZAQさんのミュージシャンとしてのクリエイティヴティーのフリーダムさを強調する結果になっているのもおもしろいところだ。"自由という理由"は、そんなアルバムのコンセプトと特徴が端的に現れている様で収録曲の中でも特に目を惹かれてしまった。


自分がZAQさんの名前を知ったのは、やはり「中二病でも恋がしたい!」のオープニングだったのだが(ここまでに書いてきた様に、自分はニコニコ動画やネット発の音楽にほとんど縁がない人間で、歌い手時代のZAQさんの活動を全く知らないのだ)、その時はその特徴的な名前から新人のアニソン歌手だとばかり思っていたので、"歌手"としてではなく"作曲家"としての才も持っていると知った時は本当にビックリした。また、"Sparkling Daydream"という曲が、非常に特徴的なメロディーラインを持った楽曲で、アニソン界に新しい才能が突然現れたことをシミジミと感じさせられたものだが、そこで感じた驚きと感動をこの『NOISY Lab.』というマテリアルは、アルバム単位でも再体験をさせてくれた。


全13曲。キラキラしたニュージェネレーションのクリエイターによる極上の"NEXT"なテクノポップが詰まった傑作。個人的には、次作では彼女が手掛けたのんのんびよりED曲の"のんのん日和"で垣間見せてくれたアコースティックな肌触りのナンバーも聴いてみたいところだ。