人付き合いがちょっと苦手な人間だからこそ共感出来た「僕らはみんな河合荘」






7月から新作アニメが次々にスタートをしていますが、前クールのアニメを振り返って感想エントリを一本。ピックアップをしたいのは僕らはみんな河合荘。全話を視聴してのエモーションは、一言で言って非常に素晴らしいアニメだったな、と。


"ぼっち"の律を筆頭に、"変わり者""変人"と呼ばれるタイプのキャラクターが次々に登場をするコメディ作品。そこに、主人公である宇佐君と律っちゃんの縮まりそうでなかなか縮まらない…くっつきそうでくっつかない恋の行方を絶妙な距離感で描くラブストーリーを絡める、笑いと純愛のバランスの良さが印象的な作品でした。


そんなこんなで、今回のエントリでは「僕らはみんな河合荘」のまつわるアレやコレやを。




■「河合荘」が描く"他者に合わせる"という描写

僕らはみんな河合荘」を観ていて一番心に残ったのが、そのキャラクターの描き方。「河合荘」には、変わり者の登場人物たちが次から次に出てきますが、ストーリーもキャラクター造形も、登場人物それぞれの価値観を大事にした"優しい"描写が施されていた様に思います。


例えば、"変処理"こと宇佐君と律ちゃんのロマンス。いつでも一人でいる"ぼっち"であることに後ろめたさを感じず、自身の価値観と人生観を大事にして生きている律っちゃんと、そんな彼女に惚れてしまった宇佐君。宇佐君が律っちゃんとの距離の縮め方を誤り、失敗をしてしまったり、すれ違ったりを…繰り返し、ちょっとだけ近づいた距離が再度開き、開いてしまうけど、また近づき…という"三歩進んで二歩下がる"な恋愛模様が繰り広げられます。





ここで、おもしろいのが律っちゃんの描き方で、普通なら"ぼっち"な彼女が宇佐くんとの交流を通じて他人に心を開いていく成長物語が描かれそうなものですが、「河合荘」の場合はさにあらず。いや、正確にはそういった要素もあるんですが、律っちゃんの心理面での変化というのは全12話のエピソードを終えた後も、ごくごく細やかなものでしかない(といっても、彼女の性格、人間性からすると、それでも大きな変化ではあるんだと思います。故にあのラストシーンの多幸感ときたら…!)。


明快に大きく成長をしていくのは、寧ろ宇佐くんの方で、律っちゃんとの出会いを通して、彼女の価値観を尊重する事や相手のペースに合わせて絶妙な距離感を保ちながら交流していく事を覚えていく。そんな宇佐くんの成長物語として観てみると、「僕らはみんな河合荘」って"他者に合わせる"ことを学んでいく物語だと思うんです。




■非常に心地よかった「河合荘」での友達の描き方

そんな作品のテーマが浮き彫りになってくる物語終盤の描き方も非常に良かった。


それまでは、変人達との共同生活で巻き起こるドタバタコメディーが中心になっていましたが、最終回付近でクローズアップされてくるのが"友達"の存在。





第11話「友達なんかいないって」。彩花さんの親友であるツネコが登場をしてから、物語は一気に友達の存在がフォーカスされ、最終回へと繋がっていきます。


また、このツネコのキャラが良くて、純朴でとにかく素直。その素直さが彩花さんにとっては凶器になるわけですが、この二人の関係性というのがとにかくグッとくる。中学生の頃からの友達で、「女同士の友情なんてメンド臭い」と考えている彩花さんも、ツネコだけは"友達"として心を開いているという。


個人的には、この辺の"友達"とか"他人"に対する考え方やアプローチの仕方っていうのは、非常に共感できる部分でした。というのが、人付き合いはメンド臭いし大変だけど、それを避けたからといって、それは決してネガティヴなことではないし、そんな生き方でもキチンと分かり合える友人は出来るのだ、というメッセージが描かれている様に自分には感じられたから。





だから、最終回でそんな彩花さんとツネコの"いい"関係性を羨んで、律っちゃんは皆に絡み出します。この辺りの"友達"の描き方っていうのは、ある特定のタイプの人間には強く感じ入る部分ではないかと思うんです。




■"人付き合い"が苦手な人間だからこそ共感出来る「河合荘」




というのが、自分自身が割りと人付き合いが苦手というか、そういうのに対して余り積極的なタイプの性格ではない…寧ろ、メンド臭く思ってしまう人間なんです。でも、そんな自分でも、もう10年以上付き合っている本当の意味での"親友"と呼ぶことが出来る友達がいまして、まぁ、それだけ仲の良い友だちがいるならばコミュニケーションに消極的な人生でもメチャクチャ楽しいし、幸せだと思うんですよ。それが(大袈裟に言えば)、自分の人生哲学で。


で、彩花さんとツネコの関係っていうのは、まさしく自分には共感を出来るシークエンスでして、確かに閉じたコミュニケーションなのかもしれないんですけど、そこを否定しないでポジティヴに描いているという。だからこそ、律っちゃんもそこに一種の嫉妬をしてしまったわけで。


ここも、律っちゃんと宇佐くんの恋と同じく物語の芯の部分が詰まっている場面なんじゃないかと自分は思っていまして、普通だったら、人には心を開いて深く付き合った方がいいし、友達は多ければ多い程良い、みたいな描き方をするじゃないですか。その方がポジティヴなんだよ、という。


でも、「河合荘」の場合はそうじゃない。人付き合いが億劫で、友達が少ない人間でも楽しく生きることは出来るのだという描き方をしているし、そんな価値観を周囲が受け入れていく物語なんですよね。そこが自分みたいな人間にとっては、物凄く良かった。





そんなこんなで、非常に共感を出来ましたし、エンターテインメントとしてもとても楽しませていただいた「僕らはみんな河合荘」。主要なキャラクターは勿論のこと、ツネコや"元・霊感少女"林…といったチョイ出のサブキャラも非常に愛らしく、印象的な作品でもありました。願わくば、是非とも第二期を!