"ダークファンタジー"が苦手な自分が、何故『棺姫のチャイカ』を楽しめているか?






テレビシリーズの第2期にあたる棺姫のチャイカ AVENGING BATTLEが絶賛放送中の棺姫のチャイカ。自分も凄く熱量を持って視聴をしているアニメ作品でして、凄まじいアクションシーンや物語展開の巧みさにテレビの前で感嘆の声を上げることもシバシバ。"ヒーロー"として好感度の高いトールや、その妹分であるアカリのキャラクター描写、何より、ヒロインであるチャイカの可愛らしさも魅力。声優さん達の演技も素晴らしいです。


そんな『棺姫のチャイカ』ですが、チャーミングなチャイカのキャラデザに反して、ストーリーは非常にハードな作品だと思います。作品の根底には、常に戦争や争いといったテーマが流れており、ファンタジックな世界観ではあるけれど、重く息苦しいムードが作品内には漂っています。つまりは、濃厚な影があるファンタジー。その定義は、人それぞれかとは思いますが、自分なんかは『棺姫のチャイカ』はジャンル的に"ダークファンタジー"というカテゴライズをするのがシックリきます。


ところで、自分は昔からこの"ダークファンタジー"っていうのがどうも苦手で……理由は単純で、登場人物たちが死んだり、シニカルでペシミシスティックな世界観だったりという描写を目にするのが、どうにも辛くて……。だけれど、どういうわけか、この『棺姫のチャイカ』だけは凄く感性に響いてくるんです。とても、フィットをするんです。


それっていうのは、何故だろう? と、考えるわけです。そこで、今回は自分なりに考えた『棺姫のチャイカ』という作品の魅力をアレやコレやと書いてみたいと思います!




■『棺姫のチャイカ』のダークファンタジー的な要素

前述の通り、劇中に魔法や幻獣が登場をし、風俗やデザインを中世の西洋をベースにした『棺姫のチャイカ』は、ファンタジックな作品です。でも、そのファンタジックな世界観は、重く暗い影に覆われています。何百年にも渡る戦争が終結した後の世界が物語の舞台になっているのですが、戦争が終わっても世の中は不安と緊張感に満ち、どこか重苦しい雰囲気が漂っている。


そんな世界の中で、主人公に選ばれたのは、元傭兵で戦争の無い世界の中では自分の存在価値を見いだせない男女と、父親の弔いの為にその死体を集める少女……。キャラクターが魅力的に描かれている(デザインも素晴らしい!)ので、余り強く意識することはありませんが、よくよく考えてみれば物凄く暗くてダークな設定です。


そんな世界観の通りに、劇中ではショッキングな描写やハードなシーンも出てきます。人は死ぬし、最近のアニメとしては血飛沫の量にも力を入れている。本来だったら、自分みたいな気の弱い人間は拒絶感を催すか、受け付けられない様なシークエンスもあります。特に、1期ラストの飛空要塞同士の戦闘で沢山の人々の"死"がダイレクトに描写をされる場面と仲間の一人であるフレドリカが"アッサリと"殺される場面は、なかなかキツイものがありました……。




■『棺姫のチャイカ』に惹かれた一番の理由について

それでも『棺姫のチャイカ』は、そんな自分に強烈に訴えかけてくる作品なんです。それは、何でなんだろう……? ということを考えた時に、劇中で徹底的に"戦争"や"死"が人の人生を狂わされる悪しきものとして描写されているからではないか、と思ったんです。


棺姫のチャイカ』の登場人物達は、それがチャイカ一行と対峙する敵であっても、或いは、チャイカに力を貸す味方であっても、いずれも戦争で人生を狂わされた人達ばかりです。


それは、死体の破片を所持している八英雄もそうだし、幼い頃から戦場で戦う術しか知らず、戦争が終わった後では自分の居場所を見つけられないトールとアカリもそう。勿論、目的や自身のアイデンティティすら曖昧なまま、父親の遺体を集め続けるチャイカ"達"もそう。


戦争のせいで、人生がおかしくなったり、戦争によって生み出された哀しい人達しか出てこない。この"哀しさ"っていうのが大きなポイントで、だからこそ、ハードコアなシナリオ展開やグロテスクな表現を行っても、それが単なる露悪趣味ではなく、ドラマティックな強度を物語に与えている様に感じられるんです。




■素晴らしいアニメオリジナル回について

棺姫のチャイカ』に、どんなにショッキングな描写が出てきても、自分が拒否感を余り感じることなく作品に接し続けられる、熱量を持って観続けることが出来ているのは、このポイントがかなり大きいのではないかと思います。


だから、そういう目線で観てみるとアニメオリジナル回だという第1期の<気やすめの帝国>や第2期の幕開けとなった<遺体あつめる皇女><ウイザードの矜持>というエピソードが凄く好きで、前者はこれまた戦争で仕事や生きる術を失い盗賊に身をやつしていた人々がチャイカ達と出会うことで、もう一度人生をやり直そうと決意する話で、後者は八英雄の中でも唯一、戦争後の自身の姿と生きる目的を明確に見つけたが故に、成功者になった女ウィザードとの出会いを通して、チャイカが様々なことを学ぶエピソード。


この一連のエピソードは、アニメオリジナルのエピソードでありながら、『棺姫のチャイカ』という作品の矜持を見せつけてくれた話数だと思うんです。勿論、1期のクライマックスである<遺されしもの>みたいなエピソードも好きなんですが、自分はこのオリジナル回が凄く好き。スタッフとして参加をされた安藤真裕さんや三條なみみさんの誠実な仕事も雰囲気にピッタリで、これらの話数は特に強く自分の印象に残りました。


単純に、死とか戦争といった悲劇的な要素を、ショッキングなシークエンス作りの為のツールとして乱用するのではなく、それらとキチンと向かい合い"悪しきこと""哀しいこと"として描いている、そして、オリジナル回で綴った様な希望や救いのあるエピソードを持ってくることで、エモーションを強烈に刺激してくる。だからこそ、ダークファンタジー的な要素を孕んでいても、私はこのアニメに強く惹かれるのだと思うのです。




■最後に

<気やすめの帝国>の様な涙腺に訴えかけてくる様なエピソードがあるところも、私が『棺姫のチャイカ』という作品に"ハマった"大きな理由の一つになっていまして、ダークファンタジーであるとか、残酷な描写のある作品が大の苦手な自分でも夢中になれるきっかけを与えてくれました。


時には、グロテスクな描写もあるし、ダークな要素もある。だけれども、決してペシミスティックなだけではないし、単なるトラジェディでもない。戦争や死は、一貫して哀しいことであると描かれていて、それに翻弄される人々が如何に生きるか? を真摯に描いている『棺姫のチャイカ』。私がこの作品のファンになった大きな魅力の一つです。