"性善説"と"性悪説"、どっちにハンドルを切るんだ!? 『仮面ライダードライブ』!






仮面ライダーシリーズの最新作である仮面ライダードライブ』がおもしろいです。前作の仮面ライダー鎧武』は、ライダーのデザインや虚淵玄さんがメインライターに……という作品コンセプトに自分がイマイチ乗りきれなかった為に観ておらず、個人的には何だか久々の仮面ライダー。ミニカーをチェンジして行う"タイヤ交換"という攻撃ギミックや、車をモチーフにしたデザイン、アクションの数々も目に楽しく、アイデアも素晴らしい。戦隊ヒーローや仮面ライダーにおけるモチーフ使用のセンスには、毎回、感心をさせられます。


そんな『仮面ライダードライブ』ですが、先週放送分の第5話<鋼の強盗団はなにを狙うのか>(安田大サーカス登場回!)を観ていて、ちょっと気になったことがあったので、アレやコレやと書いてみたいと思います!




■おもしろいです! 『仮面ライダードライブ』!!

冒頭に書いた通り、おもしろいんです『仮面ライダードライブ』。好感度の高い主人公に、車を使ったギミックの数々、主人公の相棒役を演じるクリス・ペプラーさんの良い声、ヒロイン役の内田理央さんの可愛さ、浜野謙太(!)さんや片岡鶴太郎さんとった意外性のあるキャスティングの妙などなど。ドラマとしての見どころいっぱい。ライダーのデザインもカッコ良いし、特撮ヒーローとしての見どころいっぱい。


泊進ノ介が変身する仮面ライダードライブの「どこのカントリーボーイだ、お前?」とか「俺がピザ屋にでも見えるのか?」みたいなスカした発言の数々に、決めの「脳細胞がトップギアだぜ!」といった、絶妙に"ダサカッコ良い"台詞の数々も良いです。脚本の妙。


また、"良い"といえば、元SOPHIA松岡充さんが歌う主題歌も良い感じです。ポジティヴな言葉に英詞をミックスさせた特異なリズム感を持つリリックを、疾走感タップリのバンドサウンドでドライブさせる、まさに番組のイメージにピッタリの一曲。


主役となるヒーローのカッコ良さと親しみやすさ、ヒロインの可愛さ、脇を固めるキャスティングのセンス、主題歌の高揚感、そして、クリス・ペプラーの良い声……と、個人的には好きになるポイントしかないんです『仮面ライダードライブ』は!




■『仮面ライダードライブ』と『仮面ライダーW』の共通点

そんな『仮面ライダードライブ』。観ていると、やっぱり仮面ライダーWを思い出してしまいます。『W』は私立探偵が主人公で、『ドライブ』は警察官が主人公のどちらも事件解決モノ。『W』は主人公の側に優秀な助手がいるバディもののドラマで、『ドライブ』も良い声の車(ベルト)が相棒のバディ・ムーヴィー(というか『ナイトライダー』)。


先ほど、『ドライブ』のキャスティングが良くて……という話を書きましたが、『W』もやたらとキャスティングが豪華な作品でした。コミカルな捜査官役には、なだぎ武さん、情報提供を行う怪人物役に、なすびさん、更には、各エピソードに登場をする怪人役には、ラーメンズ片桐仁さんに我修院達也さん、モロ師岡さんなどなど。更には、アイドル枠で、森下悠里さんに長澤奈央さん……と、物凄いメンバーが揃っていました。


勿論、どのライダーシリーズも出演をされている役者さんって豪華ではあるんですが、『W』の場合は、お笑い芸人、怪優、名優、グラビアアイドル……という具合に、その人選の幅が物凄い広かった上に、"通"なキャスティングが多かった印象があるんですよ。一言で言えばキャスティングが"濃"かった


映画版なんて、吉川晃司さんが仮面ライダーで、怪人役に山本太郎さんと着エロアイドル(やや死語だね)のかでなれおんさんとかが出てきてまして、こちらも豪華で濃いメンバー。あと、つぶやきシローさんがちょっとだけ出てきて、すぐに死んじゃったりとか。しかし、吉川晃司が、かでなれおんと戦うって字面、今観返しても凄いな〜劇場版Wの『仮面ライダースカル メッセージforダブル』……。


『ドライブ』のルー大柴さんや安田大サーカスが怪人役として登場をするセンスを観ていても、この『W』に近いセンスを感じていまして、何かと共通点を意識してしまう『仮面ライダーW』と『仮面ライダードライブ』。どうやら、この二作品はメインライターも同じ脚本家さん三条陸さん)が手掛けられているそうで、その辺りも影響があったりするのかな、と思います。




■人間の描き方が意外とエグい『仮面ライダーW

ところで、自分は『仮面ライダーW』のファンだったんですが、観ている時に唯一気になったのが、そのシナリオ。『W』は、街を守る私立探偵の仮面ライダーと犯罪者達の戦いを描いた作品なんですが、この"敵が犯罪者"というのがポイントで相手は全員人間なんです。しかも、他の仮面ライダーシリーズで見られる超常的なパワーで巨大な悪に操られているとか、自身の内なる悪であるとか欲望であるとか恐怖心であるとかのネガティヴな感情がモンスターを生み出してしまうとかじゃなくて、悪人が違法行為を犯す為に"ガイアメモリ"という変身アイテムを使用して自発的に悪の怪人になってしまうという。


これ、よくよく考えたら結構キツイ設定で、犯罪者である怪人が皆人間なもんだから、主人公の翔太郎とフィリップ(二人で一緒に変身をして仮面ライダーWになる)は、劇中で何回も何回も人間に裏切られることになるんです。しかも、その描き方が結構ハードというか、大抵、一見すると善良そうな人間が、実は腹黒い欲望を隠し持つ悪人で色々とゲスい事件を劇中で巻き起こす……というストーリー展開を多用していて、勿論、良い人達とか事情があって犯罪行為に手を染めてしまった人をライダーが諭す人情もののエピソードなんかも中にはあるんですが、基本的に『W』って人間の描き方が"性悪説"に基づいた作劇だったと思うわけです。


また、その後番組の仮面ライダーOOOが、主人公が人間の欲望によって生み出された怪人達と戦い、その怪人を生み出した人々に対しても「人は弱くて当たり前、欲を持っていて当たり前、じゃあ、それを認めつつどうやって良く生きていくか?」みたいな道徳性の強いメッセージを押し出した"性善説"的な物語だったものですから、『W』の性悪説的なドラマって余計に印象に残っていまして(『オーズ』の次の『フォーゼ』も『W』を踏襲した様な怪人の設定でしたが)、アレはインパクト強かったなぁ、と。


さっきまで、善良そうな顔で接していた人間が実は事件の黒幕だったりしますからね。普通の人間が怪人になって襲い掛かってくるという。未知の侵略者とか悪の秘密結社とかよりも、ある意味ではよっぽど怖いよ!




■後味の悪い<鋼の強盗団はなにを狙うのか>

そんな『W』に近いフィーリングを感じる『ドライブ』は、同じく事件解決ものではあるんですが、『W』と違って誘拐とか強盗とかの犯罪を行っている敵が皆、"ロイミュード"っていう人外の怪物なんです。だから、『W』のエンターテインメント感に心惹かれつつも、あの性悪説的な人間の描き方にちょっと居心地の悪さみたいなものを感じていた自分なんかは、凄く安心をして『仮面ライダードライブ』っていうドラマを観ることが出来るんです。怪物から人の生命や街を守るヒーローって凄く分かりやすいし、安心感がある。


ただ、ここでようやく冒頭に書いた第5話<鋼の強盗団はなにを狙うのか>の話になるんですが、この話っていうのが安田大サーカスのお三方が演じるロイミュードの強盗団が輸送車を連続で襲撃していて、それを仮面ライダードライブが防ぐというストーリーなんですけど、実は、その輸送車は爆薬の密輸を行っていて、その事実に主人公が大きなショックを受ける……っていう衝撃の展開を迎えるんです。


密輸を行う様な人間を果たして守る必要があるのか? みたいな、ハードコアな問いかけを魔進チェイサー(ロイミュードを束ねる超強い悪の親玉)にされて、気持ちに迷いが生まれた主人公は、その迷いからパワーアップアイテムを使用することも出来ず、果ては、敵から毒を注入され絶体絶命のピンチに陥ったところで、次回へ続く。


後味、悪っ!!


前回まで、事件に巻き込まれた一般市民を、主人公が頭脳とライダーの力を駆使して助け出し、悪の怪人を倒す。そんな王道のヒーロードラマなストーリーだったのに、第5話で一転して、いきなりこのハードコアっぷり。いい年した大人の自分でも、かなりビックリしました。




■『仮面ライダードライブ』は、人間の姿をどう描くのか?

また、その脚本っていうのが、いかにも善良そうな食品会社の社長が、実は爆薬の密輸を行っていて……という、『仮面ライダーW』みたいなストーリーで、そこにショックを受けたドライブは前述の大ピンチを迎えるわけで……。ただ、まぁ、後半が残っているので、ここからどういうドラマが描かれるのかはまだまだ分からないわけです。果たして、社長は本当に悪人なのか、それともまた違う事実があるのか、どう転がるかは分かりません。


とはいえ、まだ始まったばかりの『仮面ライダードライブ』ではありますが、このエピソードって今後の流れを見る上での一つポイントになるんじゃないかと思うんです。つまりは、人を"性悪説"で描いているのか"性善説"で描いてくるのか……。そこを隔てる話数になるんじゃないかな、って。


メインのシナリオライターさんが同じということで、『W』的な事件の渦中にいる人間が実は、極悪人で……みたいな展開が今後も続くのかもしれませんし、そうはならないかもしれません。そして、ライダーと怪人の描き方に関しても、まだまだ謎の多い本作ではありますが、自分がそれと同じくらい気になっているのが、彼らを取り巻く人間の描き方についてだったりします。


仮面ライダーW』の様に、主人公たちのハードボイルドなキャラクター作りとドラマツルギーの為なら、各話のゲストキャラクターを悪人として描くことも厭わない、ややアダルティーでちょっとアンモラルな路線でいくのか、それとも、人間の弱さや愚かしさに目を向けながらも、それでも、そこから救いのドラマや道徳性のあるメッセージを描く『仮面ライダーOOO』や『仮面ライダーウィザード』の様な真っ直ぐなヒーロードラマを描くのか……ヒーローと怪人の戦いの間にある人間をどう描くのか、その方向性を垣間見ることが出来るのが、今回の<鋼の強盗団はなにを狙うのか>というエピソードにあるんじゃないかと自分は思ったりするんです。




■最後に

そんなこんなで、今回のエントリでは『仮面ライダードライブ』についてのアレやコレやを。果たして、事件に巻き込まれた人間達の姿をこのドラマがどの様に描くのか? どういう風に、作劇のハンドルをきるのか? 個人的に、今後も要注目なポイントです!