『繰繰れ! コックリさん』とディスコと『サタデー・ナイト・フィーバー』
平池芳正監督の新作アニメ『繰繰れ! コックリさん』。
監督に平池さん、音響監督に鶴岡陽太さん、音楽には百石元さん、そして、キャラデザと作画のキーパーソンには大島美和さん……という布陣に、『スケッチブック〜full color'S〜』と『GJ部』の良いとこどりなアニメ作品(私は、この2作品の大ファン!)……なんて勝手な期待を抱いていたのですが、流石は平池監督、ところどころに画面に現れる寂寥感やセンチメンタルな空気感を描くのが抜群に上手いなぁ、と思います。百石さんの音楽も良いですし、背景美術も素晴らしい。各キャラへの声優さんのキャスティングもバッチリハマっています(特に、普段は飄々とした優男役を演じることの多い小野大輔さんが全力でツッコミ役をやっているおもしろさや、中田譲治さんの怪演っぷり、物の怪達の"女性形態"を演じる白石涼子さんや斎藤千和さんの可愛いらしさときたら!)。
本作では脚本も手掛けていらっしゃる平池監督ですが、個人的には『繰繰れ! コックリさん』のちょっとブラックでほんのりグロいギャグの数々は、岡田麿里さんの筆で観てみたかったな、という気も。平池さんと岡田さん。『スケッチブック〜full color'S〜』の監督、脚本コンビの再会は、いつかまた目にしてみたい……なんて『スケッチブック』ファンの自分は夢想したりするのです。
ところで、この『繰繰れ! コックリさん』。おもしろいのが、そのオープニング曲。今回のエントリでは、この曲についてアレやコレやと書いてみたいと思います。
■伝奇コメディなのに、オープニング曲は何故かディスコ!
『繰繰れ! コックリさん』のオープニングになっている「Welcome!! DISCOけもけもけ」。前山田健一さんの作曲によるナンバーで、前山田さんらしい字余り気味な譜割りを用いたハイテンションな歌詞と小野大輔さんの歌唱が印象的な一曲。しかも、その曲調とタイトルは、コックリさんや狗神等の伝奇的、オカルト的な要素を孕んだ世界観とは真逆のディスコナンバー!
ディスコといっても、70年代のソウルやファンクっぽいメロディーではなく、ちょっとアシッドハウスっぽさも感じるグネグネビキビキしたシンセが唸りを上げる今風の曲ではありますが、伝奇モノのコメディアニメでディスコを持ってくるアイデアは何ともユニーク。
また、おもしろいのがオープニングのアニメーション。コックリさんは白のスーツで"ビシッ"とキメて、極彩色に光るネオンのライトとミラーボールの光の中で、ちょっと懐かし目のダンスを踊り続けます。これっていうのが、ジョン・トラボルタ主演の映画『サタデー・ナイト・フィーバー』へのストレートなオマージュなんです。
■『繰繰れ! コックリさん』と『サタデー・ナイト・フィーバー』
1977年に全米公開をされた『サタデー・ナイト・フィーバー』。ジョン・トラボルタ演じるブルックリン出身の青年、トニーは悪友達と共に週末のディスコへ行くことが生き甲斐であり、家庭や職場で溜まった鬱憤を踊ることでしか晴らすことが出来ない男。そんなトニーが、ある日、都会的な雰囲気とインテリジェンスを持った女性ステファニーと出会い、彼女と接していく内に自身の生き方を見つめ直し、やがて自立した人間へと成長していく姿を描いた作品です。
ド派手なスーツを着て、右手を突き上げたジョン・トラボルタの決めポーズとギンギンギラギラ(死語)なディスコの印象が先行をしている映画かと思いますが、実は、ディスコでのダンスシーン以上に重要なのがトニーが過ごす日常の描写。下町で暮らす下層階級の家庭の生活や若者達の鬱屈、当時のニューヨークの風俗等がリアルに描写をされ、劇中で大きなドラマ性を持っているのです。実は、ちょっとアメリカン・ニューシネマにも通ずる作品で。
そんな『サタデー・ナイト・フィーバー』をトリビュートした『繰繰れ! コックリさん』のオープニング。
ネオンカラーで極彩色に光る床や腕を前でグルグル回すアクション、両腕を頭の上で重ねてスイングするダンスなどなど、まんま『サタデー・ナイト・フィーバー』でディスコキングを演じるトラボルタへのリスペクトが込められています。妖狐や狗神や化け狸が出てくるコメディ作品で、ジョン・トラボルタ。まるで咬み合わない組み合わせに見えて、何だか癖になる魅力がある「Welcome!! DISCOけもけもけ」。そういう意味では、ビザールなギャグが飛び交う作品イメージにもピッタリとフィットをしている気がしてきます。まさに、組み合わせの妙を感じる一曲ですね。
■『スペース☆ダンディ』でもフィーバー!
そういえば、今年はこの『繰繰れ! コックリさん』の他にも、『サタデー・ナイト・フィーバー』オマージュなアニメ作品がもう一本。『スペース☆ダンディ』第22話<同じバカなら踊らにゃ損じゃんよ>は、主人公であるダンディ達がスペーシーでファンキーなディスコサウンドに合わせて踊りまくる狂乱の一夜を、米たにヨシトモさんのタッチで描くハイテンションなエピソードでしたが、そこにゲストキャラとして登場をする宇宙人の名前がズバリ、トン・ジョラボルタ。やっぱり、ここでもジョン・トラボルタ。
これまた、『サタデー・ナイト・フィーバー』的なネオンカラーの光の中で、ジョン・トラボルタな腕をグルグル回すダンスをダンディとトン・ジョラボルタも披露してくれました。初公開から、40年近くが経過しているとはいえ、こんな感じでアニメ作品にちょいちょいパロディとして出てくる『サタデー・ナイト・フィーバー』の偉大さを改めて痛感。2010年代に突入しても、やっぱり"ディスコ=トラボルタ=サタデー・ナイト・フィーバー"なんですよね。ディスコのシンボルとしてのジョン・トラボルタ。本作は、まさに金字塔的な作品です。
■テレビアニメとディスコ
日本でも、90年代のバブル時にジュリアナ東京やマハラジャといった有名ディスコがオープンをし、大ブームに。そのケバケバしいイメージと当時の熱狂がバブルの象徴として未だに語り継がれていますが、そんなディスコという固有名詞もほぼ"死語"となり、代わって登場をしたのが"クラブ"というモダンな名称。"ディスコ"という言葉は前近代的な名称となり、そこで流れていた音楽も文化も現在のクラブではスッカリ様変わりをしてしまいました。
ところがおもしろいもので、やっぱりディスコ的なサウンドやダンス、デザインって根強い人気があるんです。
■「K」のクラブ・フィーリングに満ちた音楽と渋谷の風景描写について
例えば、『K』の様に劇中でクラブで流れている様な現在進行形のダンス・ミュージック……それは、ハウスであり、ヒップホップであり……を使用している作品もあるんですが、それでも、アニメでダンスシーンを描く際には、やっぱり"ディスコ"的なカルチャーが描かれることが多々あります。それは、ジョン・トラボルタのあのキメポーズや綺羅びやかな往年のディスコのイメージが、観ている人、聴いている人に対して非常に伝わりやすい、訴求力が高いからではないかと思います。
最先端で洗練をされていてお洒落なイメージのある"クラブ"に対して、どこかノスタルジックでどこまでもポップな"ディスコ"というカルチャー。その最大級のアイコンが『サタデー・ナイト・フィーバー』とジョン・トラボルタ。アニメ作品の中でパロディとして、未だにディスコのイメージを語り継いでいるわけですから、やはり凄い映画だなと実感をさせられますね。
■最後に
そんなこんなで、『繰繰れ! コックリさん』を起点に、ディスコや『サタデー・ナイト・フィーバー』についてアレやコレやと。『繰繰れ! コックリさん』と『スペース☆ダンディ』は、『サタデー・ナイト・フィーバー』でまさかのネタ被りをしたわけですが、こういうのを観るにつけ本作の不朽の名作っぷりを感じますね。ちなみに、『サタデー・ナイト・フィーバー』といえば、ジョン・トラボルタが白色のスーツで、"あのポーズ"をしているキービジュアルの印象が強いかと思いますが、実は、トラボルタが白のスーツを身にまとうのはラスト付近だけで、その時に踊るダンスもスローなバラード曲。あの人差し指を突き立てたポーズも、中盤でちょこっと出てくるだけです。
どちらかというと、本作は日常にフラストレーションを溜め込んだ不良青年の青春ドラマ……といった趣が強い映画。青春映画であり、ボーイ・ミーツ・ガールな恋愛映画であり、音楽映画でもあるという『サタデー・ナイト・フィーバー』の複層的なドラマ性は、今観返しても見応え充分。ノーテンキなダンス・ムーヴィーだと思ってらっしゃる方がいるならば、是非とも本作をジックリと観ていただきたいと思います!