でも、俺は好きでしたよ『ハピネスチャージプリキュア!』






最近、何故か私の周囲でハピネスチャージプリキュア!の話題が出ることが多かったので、遅ればせながら『ハピチャ』に対する総評なんかも込みで、本作に対する思いを書き残しておきたいと思います。


そんなこんなで、今回のエントリでは『ハピネスチャージプリキュア!』についてのアレやコレやを!




■『ハピネスチャージプリキュア!』という意欲作




日曜朝の看板番組の一つであり、女の子たちにとっての永遠のヒーロー、それがプリキュア。そんなプリキュアのシリーズ十周年を記念して作られたのが『ハピネスチャージプリキュア!』です。


歴代のプリキュアが記念のコメントを寄せるという特別企画も話題になった本作。まさに、スペシャル感とプレミア感に溢れたメモリアル作品として放送をスタートしました。


そんな『ハピネスチャージプリキュア!』は、従来のシリーズが有していた既存のイメージに縛られない特異な設定の数々が大きな特徴となっていました。


世界各地に複数人のプリキュアが存在しているという基本設定、そして、そのプリキュアたちの活躍がテレビのニュース番組で報道され、"プリキュア"という存在が世界中の人々に認知されているなど、独自の世界観と設定により構築されていた『ハピチャ』。


その特殊性は世界観や設定だけに留まりません。複雑に絡み合う登場人物たちの恋愛模様や、主人公の失恋、主要人物が敵側に洗脳されて主人公たちの前に立ちはだかる(所謂"悪堕ち")など、ストーリー面でも様々な意匠が盛り込まれたハードな展開が目を引く作品に。


男女の恋心が複雑に交錯するメロドラマ的な恋愛描写やあくまでポップでありながらも従来のシリーズと比較するとかなりハードコアなストーリー展開。特に、主人公めぐみの失恋のシーンはインパクト絶大で、プリキュアシリーズ十年の歴史の中でも、特にセンセーショナルな大事件だったと思います。


新しい要素を数多く盛り込んだ十周年の記念作であり、意欲作。それが『ハピネスチャージプリキュア!』という作品です。


そんな意欲作だった『ハピネスチャージプリキュア!』ですが、では、そうした斬新な構成要素の数々によって、十周年作として相応しい完璧な物語を紡ぐことに成功していたかというと……これがなかなか判断に困ってしまうというのが私の正直な感想です。


私にとっての『ハピネスチャージプリキュア!』という作品の感想を一言でまとめるならば、それは「非常に難しい作品」という評価に落ち着きます。そう、『ハピチャ』は難しい。そんな表現がシックリきます。


勿論、作品に対する評価というのは人それぞれです。ですから、一律に良い、悪いの判断というのは本作に対しても決してできないわけですが、あくまで個人的な意見として『ハピネスチャージプリキュア!』という作品は、確かに勇敢で大いなる冒険心を持った意欲作ではあったけれども、その試みがストレートに作品の完成度に繋がっていたかというと、ちょっと疑問が残ります。その何とも言えない、モヤモヤする感情こそが先ほど私が書いた「難しい」という感想に繋がるわけですが……。




プリキュアシリーズで"愛"を描く難しさ

ハピネスチャージプリキュア!』の後番組として始まった"十周年後のプリキュア"である新シリーズ、『Go! プリンセスプリキュアでは、現在のところストーリーは原点的なテーマへと回帰し、それがファン層にも好評をもって受け入れられている印象を受けます。


そして、それもまた、私にとっては『ハピネスチャージプリキュア!』という作品に対する評価を難しくしてしまう一因となっているのです。『Go! プリンセスプリキュア』は、非常にストレートに"プリキュア"を描いた物語です。すなわち、異世界から来た妖精と出会ったことをきっかけに、少女が超人的な変身能力を手に入れ、世界の平和や人間の尊厳を脅かすイーヴィルな侵略者と正義の為に闘いを繰り広げる。どこまでも、純真で真っ直ぐな物語


対して、『ハピネスチャージプリキュア!』は、斬新な設定を盛り込みつつも基本的には従来のシリーズと同じく正義のヒロインによる物語なんです。唯一、違うのは不定形でとても難しい「愛」という感情を物語の主軸に組み込んだこと


振り返ってみれば、『ハピネスチャージプリキュア!』という作品で、正義の戦士であるプリキュアと悪の侵略者との間で繰り広げられる争いというのは、つまりは愛憎劇です。そして、それが何とも作劇を難しくしています。


人間の喜怒哀楽や幸福や夢や希望を見下し否定する明快な"悪"に立ち向かう"正義"がプリキュアなわけですが、『ハピネスチャージプリキュア!』の場合は、そこに人によって解釈が異なり決して正解が存在しない"愛"という要素が絡んでくる。だからこそ、物語のラストで主人公のめぐみがラスボスに対して愛を説いて勝利を掴み取ろうとも、そこには何とも言えない居心地の悪さというか座りの悪さみたいなものが感じられてしまうのです。




■それでも、やっぱり愛おしい『ハピネスチャージプリキュア!




複雑な愛という感情を作劇の中心に据えた『ハピネスチャージプリキュア!』。シンプルな正義と悪の対立構造だけではなく、そこに難解な愛というテーマを加えて物語を描こうとした『ハピネスチャージプリキュア!』。結果、『ハピネスチャージプリキュア!』というアニメは、自分にとって非常に捉え様が難しい作品となりました。


正直に言えば、物足りなく感じてしまった部分、作劇面やキャラクター描写に違和感を感じてしまった部分もあります。だけれども、それでも『ハピネスチャージプリキュア!』を自分は決して嫌いになれません。寧ろ、「好き」という言葉で表現したいくらいです。


この作品の何に惹かれるかというと、やはりそれは前述したような設定や作劇においてみられるチャレンジングな要素の数々であり、クリエイターさんたちの冒険心という部分になります。


確かに、そうしたチャレンジ精神が素晴らしい物語を生み出すことに直結していたかというと、難しい部分はあったと思います。そこは少しばかり、評価をしづらい部分かな、と。


ただ、十周年という節目に、何か新しい、他の人が誰もやっていなかったことに挑戦し、そして、まだ誰も観たことのないスペクタクルな新しい景色を見せようという、その意気込みだけは熱量を持ってシッカリと伝わってきました。


だからこそ、プリキュアの基本に立ち返った『Go! プリンセスプリキュア』との差異が際立ってきますし、十周年を経た後に新しい歴史をスタートすることもできたのだと思うのです。




■『ハピネスチャージプリキュア!』のチャーミングさ

私はプロレスが大好きなので、プロレスに例えると、『Go! プリンセスプリキュア』は、「やっぱり、プロレスの必殺技はムーンサルトプレスが一番綺麗に見えるし、フィニッシュ率も高いし、観客も喜んでくれる」っていうのを分かっているんです。プロレスの試合における空中技の王道であり、リングに咲く華、ムーンサルトプレスを忠実に、なおかつ、それを誰よりも高く跳躍し、誰よりも華麗なフォームで放つことができるという。


一方で、『ハピネスチャージプリキュア!』の場合は同じ空中技を放つにしても、「観客に喜んでもらう為に、リングの中で側転しながらロープに近付いて、セカンドロープに跳び乗って、ロープの上を身体を回転させながら横移動して、そこから背面跳びでロープを跳び越えて、空中で縦回転して場外の相手にぶつかっていこう! 観客が誰も観たことがない空中技をみせてやろう!!」という。凝りに凝ったチャレンジ志向の強いアクロバティックな技を繰り広げよう! そんな方向性です。結果的に、それは途中でフォームが崩れちゃって不格好になってしまったかもしれない。場外の鉄柵に両膝をおもいっきりぶつけて怪我をしてしまったかもしれない。


だけれども、その挑戦的なアプローチや勇気には強烈に惹かれますし、その結果、世に生み出された『ハピネスチャージプリキュア!』という作品は、どうしょうもない程にチャーミングな魅力を持った作品だと私は思うのです。





クリエイターの皆さんが、子どもたちに楽しんでもらおうと一生懸命アイデアを考え、趣向を凝らし、そして、ヒーロー、ヒロインを形作っていく。そんな"ニチアサ"の作品群が私は好きです。ですから、そういった意気込みが力強く伝わってくる『ハピチャ』に、私はどうしたって惹かれてしまいます。


自分にとっての最大の魅力って、きっとそこなんですよね。




■最後に

そんなこんなで、今回のエントリでは『ハピネスチャージプリキュア!』にまつわるアレやコレやを。


現在進行形で安定感抜群の『Go! プリンセスプリキュア』も好きなんですが、だからこそ余計に実験的な要素が強かった『ハピチャ』にも惹かれてしまいます。


こういうシリーズ毎の魅力をアレやコレやと考えるのも長寿シリーズが持つ強みの一つでしょう。





あと、『ハピチャ』の何が好きかって、やっぱりナマケルダさんが私はとても好きでした!


あの三幹部は、皆、愛嬌があって良かったですよね。