成年漫画誌でニッチな性癖が描ける幸せ - 高城ごーや「おしっこでつながって」
前号で、MUJINから独立創刊をしたティーアイネットの「BUSTER COMIC」。7月号が出ましたよ!
ZUKI樹先生の筆による自転車少女の表紙がいい感じです。…とはいえ、「BUSTER COMIC」って成年漫画誌の中でもかなり「濃い」方の雑誌なので、掲載されている漫画は、表紙の爽やかなイメージとは正反対な感じなんですけどね(笑)。
そんな作品の中でも今号で特に強烈なインパクトを放っていたのが、高城ごーや先生の「おしっこでつながって」という作品です。これが、個人的に物凄い破壊力だったので、ちょっと感想を書いておこうと思います。
直接的なエロ画像は出てきませんが、かなり特殊な性癖を扱った漫画なので、所々えげつない文章表現になっているかもです…。なので、以下、本文は隠しておきます。
実は、「おしっこでつながって」が「BUSTER COMIC」初登場作品にして、商業デビュー作となる高橋ごーや先生。そんな記念すべきデビュー作の中で描いたのは…なんと、オムツでした。
オムツ。
アダルト産業はこれだけ乱立し、エロの形態や性癖っていうのは現在では恐ろしく細分化されています。
成年漫画誌も然りで、様々な雑誌や描き手が存在しているわけですが、いくら何でもちょっとマニアック過ぎやしないでしょうか?
■変態的ながらも、実は王道なストーリー展開
先ずは、簡単にストーリー展開を紹介しますね。主人公、金色くんは、学校にオムツ&放尿モノの同人誌を持ってくるような、ちょっぴりマニアック男の子です。
その性癖の特殊さ故に、友人にまで「えげつないな…」と引かれてしまう金色くん。
まぁ、普通はそうなりますよね…。
が、金色くんは食い下がります。「オムツこそ、女子の可愛さをもっとも引き出すんだ!」と。
と、放尿&おむつの素晴らしさについて熱く語っているところに表れたのが生徒会長の藍寺さん。学校にそんな変態的なモノを持ち込むのはけしからん、ということで同人誌を没収されてしまいます。
主人公は同人誌を奪還すべく藍寺さんに交渉をしに行こうとするのですが、そこで偶然目にしてしまうのが冒頭で紹介したワンシーン。普段は厳しくて、凛々しい生徒会長が、オムツを付けているところを目撃してしまうわけです。
実は、極度の頻尿体質だった藍寺さん。そのせいで、子どもの頃からずっと余計な心労と苦労をしてきたことを、主人公は知ることになります。
まぁ、成年漫画なのでこの前後っていうのは当然エロいことになるわけですが、その中で金色くんは、藍寺さんの全てを全て受け入れるわけです。
「おしっこ」「オムツ」と恥ずかしくも馬鹿馬鹿しいテーマを扱いながらも、何気に熱い台詞と愛の言葉を大真面目に言う主人公。この辺りの展開はちょっとゴージャス宝田先生であるとか、おりもとみまな先生といった成年漫画界の先達たちの作風を彷彿とさせます。
登場人物のマイノリティーな性癖や体質を作品の主軸にし、その性癖や体質を持つカップルの嗜好や利益を合致させたり、或いは相互理解という形として描くことによって、物語をハッピーエンドで締めくくるというのは、成年漫画の中では比較的王道の展開です。
高城ごーや先生の「おしっこでつながって」も、物語の骨組みだけを見ると、こうした成年漫画の王道を決して外していないのですが、その中で描かれているのが性癖としてはかなりニッチな「オムツ」なために、かなりのインパクトと妙な説得力を読者に与えることに成功しています。
商業誌デビュー、雑誌初掲載作品で、こういう漫画を描けるセンスと、それが許される環境って何気に凄いと思うんです。
こうしたニッチな性が成年漫画の中で描かれる意味を、掲載誌である「BUSTER CCOMIC」という雑誌が持つ特徴も含めて、ちょっと考えてみたいと思います。
■ニッチな性癖こそ、つながった時の喜びや安心感も大きい
現在では、成年漫画雑誌も沢山の種類のものが発行されています。更には、商業誌というカテゴリーを外せば、同人誌やWeb漫画などもあり、その中で多種多様な性の形が日々描かれていっているわけです。そうした中でも「BUSTER COMIC」という雑誌は、性についてかなり偏った…というか、相当に極端な描き方をしている雑誌であるように思うんです。
例えば、ハードな陵辱、調教劇や、獣姦やスカトロなどのアブノーマルな性表現など。
近年の成年漫画の主流は、アニメ系の絵柄によるラブコメになっていると思うのですが、そういうメインストリームから、ちょっぴり逸脱したオルタナ路線の一つが、BUSTER COMIC」のような雑誌だと思うわけです。
そしてそこでは、なかなか普段目にすることがないオルタナティヴな性癖やマイノリティな性が描かれています。
どうして、そんな表現が行われているかといえば、やはり、受け手の側にはそれを必要としている人がいて、送り手の側にはそれを表現したいと思っている人たちがいるからです。
しかしながら、そういう人たちの中には、日々大変な思いをしている人たちもいると思うんですよ。
「性」っていうのは、人間の根幹の部分であって、生きていく上で非常に重要なモノであるにも関わらず、それが世間一般での常識や価値観と相容れないわけですから。
「おしっこ」…は性表現や性産業の各分野で比較的目にする機会が多くなりましたが、「オムツ」なんて世間一般から見たらやっぱり相当に特殊な性癖です。平穏無事に日常を送りたいならば、間違ってもこの漫画の主人公みたいに、その嗜好性を大声で叫んだりはしない方がよいでしょう。
ただ、自身の性癖からは絶対に逃れられませんし。目を逸らすことはできません。
どうしよう、逃れられない、かといって立ち向かうには余りにも障害や偏見の壁が多すぎる!
そんな時に、手を差し伸べてくれて、心に平穏や安堵感をもたらしてくれるのが、こうした漫画作品だったりすると思うんです。
「自分は、一人ぼっちじゃないんだ」という安心を与えてくれて、救いにすらなるんじゃないのかな、なんて。
「おしっこでつながって」という漫画の中で描かれる、主人公とヒロインの関係も正にこれです。
大きな声で自身の性癖を叫ぶ主人公には、その性癖を受け入れてくれる相手がいません。一方で、自分の特殊な体質に負い目を感じているヒロインには、慰めや励ましの言葉を送ってくれる相手がいません。
そんな二人が出会うことによって生まれる安堵感。
それっていうのは「自分は決して異常じゃないんだ」或いは「人と多少違っていてもいいんだ」という思いです。
「おしっこでつながって」
一見すると、馬鹿馬鹿しくて恥ずかしいタイトルですが、確かにこの作品の中では「おしっこ」と「オムツ」が二人を結び付けています。
そして、その「つながり」は、劇中の登場人物たちだけでなく、同じようにニッチな性癖を持つ読者との「つながり」でもあるわけです。
もちろん、成年漫画は、こうした特殊な性を描くだけの表現分野ではありません。
前述したような、もっと気軽な気分で読めるノーマルな作品もありますし、萌え系のラブコメだってあります。
「おしっこでつながって」のようなニッチな漫画を望む読者もいれば、ストレートなラブコメを望む読者もいます。
描く側のことを考えてみると、ニッチな漫画にはニッチな漫画なりの、ラブコメにはラブコメなりの、違った難しさがあるでしょう。
どっちが素晴らしいとか、どっちが表現として優れているとかはではないんです。
ただ、色々な性癖の持ち主が世にいる中で、その人たちが望むものだったり、孤独や苦しみを和らげる手助けになる作品が、適材適所キチンと届けられる成年漫画の世界って、スゲエなって思うのです。
私は、初登場の作家さんに「おしっこでつながって」のような作品を描くことを許せる「BUSTER COMIC」の度量に拍手を送りたいです。で、こうした作品が発表できる場があって、それを読んだ人が大っぴらでも裏でコッソリでも、安心できる、つながれるっていうのが重要なことなのかな、と。
それっていうのは、やっぱり「幸せ」な光景であるような気がします。
まぁ、長々と「おしっこでつながって」という作品と「BUSTER COMIC」という作品について語りましたが、こういう漫画って、その性癖の外にいる人間が見ても充分おもしろいものだと思うんですよ。
こういう見方は邪道なのかもしれませんが、私自身はこういったニッチな性癖の成年漫画を読む時の感覚っていうのは、例えばジョン・ウォーターズやデヴィッド・リンチの映画、音楽でいうとグラインド・コアを聴いている時の高揚感に似たものだったりします。
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リンチは、観る者の想像力の遙か彼方にある感覚でもって、ひたすらシュールで不条理な世界を描きます。
Napalm Deathを始祖とするグラインド・コアバンドは、パンク・ミュージックの速度と思想性を過激に純化し、ひたすらに激しい音を、聴く者の耳に叩きつけます。
この辺に限らず、過激で極端でニッチな表現分化は色々あるわけですが、そうした分化に触れた時の衝撃。
こっちのキャパを遙かに凌ぐ激しさや変態性に対して、「何だか、よく分からないけど凄い! おもしろい!」ってなるアノ感覚です。
自分自身は、SMとか陵辱とか痛そうなものは嫌だし、スカとか獣姦とかのアブノーマルな性癖っていうのはないんですよ。そういうのを好む人が世の中にはいるっていうのは知っているので、絶対に馬鹿にはしませんけど。
ただ、成年漫画(に限らず、映画とかでも)の世界で、こういう世界をちょっとだけ覗き見するドキドキ感は大好きです。
もちろん、気軽に読める甘いラブコメも好きなんですけど、きあい猫先生とか、オイスター先生の漫画も本当に大好きなんですよね〜。
あぁ、成年漫画の世界って深い…。
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