四コマ漫画のコマをイジルことで生まれる違和感とおもしろさ - 永瀬ようすけ「やみのさんしまい」

 

<月刊少年シリウス2010年3月号 講談社 P.655>
 
講談社の月刊少年漫画雑誌月刊少年シリウスの2月号から連載が開始された永瀬ようすけ先生の四コマ漫画「やみのさんしまい」
とっても、おもしろい漫画なのですが、作品内のギャグは勿論のこと、コマの使い方もかなりユニークな漫画です。
今回のエントリでは、その辺りの作風にも触れながら「映画『悪魔のいけにえ』で、主人公たちをチェーンソー片手に追っ掛け回す殺人鬼レザーフェイス」くらいの勢いで、この作品の魅力をアレやコレやと語ってみたいと思います。
 
 

■先ずは、簡単に内容の紹介を!

「やみのさんしまい」は、オカルトチックな三姉妹が繰り広げるホラーギャグな日常を描いた四コマ漫画です。
 

<3月号 P.655>
 
この漫画の主役、三姉妹の三女、マコ。可愛いです。
劇中ではツッコミ役で、比較的マトモな価値観の持ち主。学校で友達をつくり、人並みにオシャレをして…という普通の幸せに憧れる、女の娘なのですが…
 

<3月号 P.657>
 
こんなインパクト抜群の姉二人にひたすら振り回され続ける悲惨な日々を送っています。
右端の背の高い女の娘が、長女のキコ。そして、ガスマスクを被っているのが、次女のアコ。長女は重度のオカルト・ホラーマニアで、次女は常に不気味なお面を被った悪魔崇拝という、かなりアレな人間性の持ち主で、ひたすらにネジクレまがった価値観を末っ娘のマコに押しつけてきます。
 
姉二人の奇行やオカルトギャグに加えて、このバカ姉二人のせいで周囲に誤解された挙句にクラスメイトや先生に距離を置かれ、好きでもない姉達のオカルト・ホラー趣味に巻き込まれ、というマコが送るひたすらに難儀な日常がこの漫画の笑いどころになっているのですが、もうね、自分はこういうタイプの笑いが大好きなんですよ!
 
これがエスなのかエムなのか分からないのですが、「ギャグ漫画やコントでボケ役の常軌を逸した倫理や道徳に、マトモな価値観を持ったツッコミ役が翻弄される」という構造に自分の笑いのツボはグイグイと押されまくるのです。
加えて、この漫画の中では笑いのテーマがオカルトやホラーで、ボケ役の歪んだ価値観の持ち主は実の姉、更に主人公は小学生の女の娘ですからね、ギャグの黒さとヤバさ、そしてそこから生まれる笑いのグルーヴは半端ではありません。
 

<4月号 P.264>
 
風邪を引いた妹を、悪魔に取り憑かれたと思い込み、退魔術で治そうとするキコとアコ。
ヤバイって! お願いだから、病院に連れていってあげて!! この辺りの笑いのセンスは、押切蓮介先生のホラーギャグ漫画なんかが好きな方なら、どストライクなんじゃないかと。
で、こんな異常な状況にも関わらず、姉や周囲の異常な言動に健気にツッコミを入れ続けるマコがとにかく可愛いんですよ。劇中のオカルトギャグや、ブラックユーモアに加えて、マコの健気さもこの漫画の大きな魅力になっているように思うんですよね。
 
 

■コマの使い方も不気味な「やみのさんしまい」

個性的なキャラクターに負けず劣らず、この漫画の中で大きな特徴になっているのが四コマ漫画には珍しい変則的なコマの使い方です。
 
今更説明不要だとは思いますが、四コマ漫画で用いられる四つのコマは、基本的には同じ大きさで描くのが普通です。ところが「やみのさんしまい」では四つのコマの大きさが、それぞれてんでバラバラで描かれていたりします。
 

<4月号 P.264>
 
また、そういったコマの使い方に併せて、コマの横辺が一コマだけ長く伸びてし、四つのコマの縦の流れが突然歪になったりします。
 

<3月号 P.650>
 
このコマの大きさをイジくり回すという作風は、ビジュアル面でかなり大きなインパクトを漫画の中に作り出すことに成功しています。
四コマ漫画を読みなれている人なら、即違和感を感じるほど、明らかにオーソドックスな四コマ漫画の作りとは違うんですよね。
シリウス」では、「やみのさんしまい」の他に、いちい達成先生の「ルリアーにゃ!!」と、ひゅーが先生の「すずめのなみだ」という二本の四コマ漫画が連載をされているのですが、こちらの二つはどちらもオーソドックスなコマ使いをしているので、「やみのさんしまい」の異色のヴィジュアルは余計に目を引きます。
 

<5月号 P.275 , 5月号P.121>
 
これが何の演出で描かれているのかというと、やはりホラーギャグという漫画の笑いの方向性に大きく影響をされているのかな、と。
コマの形を変えたり、トリッキーな見せ方を行うことで生まれる異形性と、読み手に与える生理的な違和感。それが「やみのさんしまい」作風に非常にマッチしているんですよね。
この四コマの規制をムチャクチャに蹂躙するアナーキーな破壊性は、時に四コマの概念すらも粉砕します。
 

<5月号 P.461>
 
例えば、コマの中にもう一つコマが出てきたり…
 

<3月号 P.650>
 
一コマの中で、更に細かくコマ割りをしてみたり…
 

<5月号 P.463>
 
唐突に、一本だけ五コマの四コマ漫画が出てきたりと、ありとあるゆる変なことをやっています。
もう、五つコマを使った時点で、それは四コマ漫画じゃないんじゃないかという気もしますが、描き方としてはコマが縦に一直線に並んでいるという…四コマの作法に乗っ取って漫画を描いているんですよね。
 
この変則的なコマ使いに対して、コアな四コマ漫画ファンの評価と意見を是非とも聞いてみたいところではありますが、自分はものっそい楽しんでこの漫画の「笑い」を享受させていただいております。
このネジクレ曲がったユーモアと、不気味さ、何となく感じる意地の悪さには、何とも言えない個性と独特の魅力があり、それがまたこの漫画の笑いのカラーや世界観にガッチリ噛み合っているんですよね〜。
 
 

■まとめ

変則的なコマ使いをする四コマ漫画作家さんだと、自分が知っている限りだと真伊東先生なんかがいらっしゃいますが、コマを不気味なイメージや違和感のために変形させる漫画家さんってかなり珍しいんじゃないかな、と。
ギャグのセンスに加えて、その独特のコマ使いも楽しい(そして、気持ち悪い)「やみのさんしまい」。お勧めです!
 
 
<関連エントリ>
■「月刊少年シリウス」のロゴデザインにみる遊び心
■四コマ漫画の個性について、色々と考えてみる。
 
<関連URL>
■四コマ漫画にもワイド化の波が迫っているのかもしれないという推測と検証(karimikarimi)
 [[]]