スペイン人女性格闘家は木村政彦の夢を見るか? - 格ゲーにおけるスペインを考える

 

 
格闘ゲームDead or Alive」シリーズの最新作Dead or Alive 5の新キャラクター、ミラが自分のツボに入りまくっています。
 
この娘さん、何が素晴らしいって、声を演じていらっしゃる声優さんが私の大好きな白石涼子さんなところです。しかも、この娘のファイトスタイルはMMA(Mixed Martial Arts=総合格闘技)!
 
<「Dead or Alive 5」ミラ紹介ムービー>

 
このキャラクター紹介の動画を観てるだけでも、白石涼子さんボイスの女の娘が、須藤元気ばりのバックハンド・ブローを放ったり、ヒース・ヒーリングかはたまた藤田和之かなドテッ腹への膝蹴りをブチ込んだり、ブロック・レスナーも吃驚の見事なキムラロックを相手に極めたりしているわけです。
 
うりょっち演じる女の娘にキムラを極められるなんて、それは一体どんなご褒美なんでしょうか? 私だったら、この技の始祖であり名前の元にもなっている木村政彦先生に腕を極められたエリオ・グレイシーの如く、腕の骨を折られても「参った!」を言わない自信があります
 

"キムラロック"の技名の由来となった"最強の柔道家"木村政彦vs."グレイシー柔術の始祖"エリオ・グレイシーによる世紀の一戦。柔道対柔術の究極の戦いは、木村のアームロックによってその勝敗を決することとなった。
<増田俊也木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」 (新潮社) P.414>
 
このミラちゃん、プロモをちょっと観ただけでも、打撃といいグラウンドテクニックといい、MMAのアクションの再現度が非常に高くて素晴らしいです。膝蹴りとかマジでエグイ…"孤高の天才"田村潔司が目にしたら、「顔面とか蹴ったり、膝を入れたりして…流血して…何かそれを喜んでいるファンっていうのは、僕はあんまり良いとは思わないし…逆に馬鹿だなって思ったりしますし…」と苦言を呈することでしょう。赤いパンツの頑固者!
 
<田村潔司 vs. ヴァンダレイ・シウバ 煽りV&入場シーン>

 
…冒頭から、「ゴン格」とか「格闘技通信」元読者しか分からないようなキーワードとエピソードの乱発でスイマセン…。
 
とはいえ、"白石涼子さん""可愛い女の娘""MMA"という私の大好きなものが一杯に詰まった、このミラちゃん。本当におもしろいキャラクターだな〜と思います。この娘を触ってみたい(変な意味じゃなくて)ので、「Dead or Alive 5」は購入しようかと。
 
ただ、これだけMMAの再現度の高いアクションをするミラですが、ちょっと納得いかないことが一つあります。…それは、彼女の出身国が何故かスペインなこと! 今回のエントリでは、その辺りについて触れつつ、格ゲーにおけるスペインという国について、アレやコレやと考えてみたいと思います!
 
 

■"格闘技"のイメージがほとんどない国、スペイン

何故に、ミラちゃんの出身国がスペインであることに納得がいかないのか? コレは、実に単純な理由で、スペインはMMAを始めとする格闘技がほとんど普及をしていない国だからです。
 
サッカー選手やプロテニスプレイヤーなど、優れたアスリートを数多く輩出したスペインですが、これが格闘技の世界となると…。スペイン出身の格闘家やプロレスラーの名前なんてパッと出てきませんし、有名なプロモーションや格闘技団体もありません。
これが隣国のフランスならば、もうちょっと事情が違います。フランスは格闘技の人気があり、UFCのような世界的な大舞台で活躍をするシーク・コンゴ(日本でも人気のあったミルコ・クロコップUFCで撃破し名を上げた選手です)のようなファイターもいます。
 
また、同じヨーロッパでもオランダなんかは超格闘技大国
UFCの第一回大会にも出場をしたジェラルド・ゴルドーのカマクラ・ジム、クリス・ドールマンドージョー・チャクリキ、日本から派生した目白ジム、そして、数多くのK-1ファイターを育てたゴールデン・グローリーといった有名ジムが数多く存在し、そこからはバス・ルッテンセーム・シュルトゲガール・ムサシアリスター・オーフレイムチャンピオンクラスのファイターが幾人も生まれています
かつては、前田日明の格闘技団体RINGSの支部であるリングス・オランダがあったりだとか…とにかく、オランダは格闘技が盛んな国なんです。ルッテン・ジャンプ!
 


 
それに比べると、スペインはヨーロッパの中でも格闘技の存在がマイナーな存在の国だと言えると思います。もしかしたら、中小規模のローカル団体なんかもあるのかもしれませんが、自分はちょっと名前を聞いたことがありません。
で、ミラちゃんは、そんなスペイン出身のファイターなわけです。…何故に、スペインなのか? もしかしたら、スペインからやって来て、格闘技の練習自体はアメリカとかカナダとか、もっとMMAが盛んでジムなんかの環境が整った場所でしているのかもしれませんが、何はともあれちょっと面白い設定だと思います。
 
 

■そんなスペイン出身の格ゲーキャラって…

ここで、ミラちゃん以外のスペイン出身の格ゲーキャラを振り返ってみると、また興味深い事実が色々と見えてきます。…ここからは、ちょっとこじつけっぽい話になってしまうんですが、話半分で聞いていただけると幸いです。
 
アメリカや日本、中国といった国に比べると、出身者の少ない格ゲーのスペイン人キャラですが、何はともあれ、多くのゲームファンが真っ先に名前を挙げるのがこのキャラクターではないでしょうか?
 

 
ストリートファイター」シリーズのバルログ
 
キン肉マン」に登場するウォーズマンのようなマスクとクロー。筋骨隆々のむくつけき大男が多い「ストリートファイター」の世界で、"美しさ"にこだわるナルシストという特異なキャラクターにその圧倒的なスピード。そして、何より「スト2」での金網を使ったデスマッチ感溢れる特殊ステージ(金網を使うのはバルログだけですが)…と、とにもかくにもインパクト抜群だった格ゲーキャラ。
 
また、そんなバルログに負けず劣らずな強烈な個性を持っていたのが、「スト2」と同じく格ゲーの人気タイトルだった餓狼伝説シリーズに登場をしたローレンス・ブラッド。スペインらしい"闘牛士"というバックボーンを持った狂乱のマタドールであり、サーベルで攻撃をしてくるキャラクターでした。
 

 
あと、スペイン出身の格ゲーキャラといえば、ランブルフィッシュミトとかですかね。木刀を武器に闘う女の娘。
 
と、こういった感じで、スパニッシュな格ゲーキャラを並べてみると、ちょっと面白いことに気付くと思います。そう! 武器を持ったキャラクターが凄く多いんです!
 
 

■スペインの格ゲーキャラは武器を持つ!

作ったメーカーも、リリースされた時期もバラバラ。それでも、何故か多い武器を持ったスペイン人格ゲーキャラという共通項。どうして、こうなったかといえば、一つにはやっぱりスペインが格闘技に縁が薄い国だからという理由があるのではないでしょうか?
 
かなり、無理やりで、先に結論ありきで考えちゃったような理屈で申し訳ないんですが…こういう格ゲーキャラのファイトスタイルや国際色っていうのは、多くの場合、その国の伝統的、土着的な格闘技に依るところが大きいと思うんです。
 
例えば、「スト2」。日本出身のリュウは柔道と空手をバックボーンにしているし、同じく日本人のエドモンド本田のファイトスタイルは相撲。中国の春麗は中国拳法の達人で、タイのサガットの武器はムエタイ。いずれも、それぞれの国籍特有の格闘技をマスターしているファイター達です(ダルシムのヨガとかブランカの野生とか、それはそもそも格闘技なのか? みたいなスタイルも混在していますが)。
 
日本なら空手や柔道や相撲、中国ならカンフー、アメリカならマーシャルアーツ、イギリスならボクシング、タイならムエタイ、韓国ならテコンドー、メキシコならルチャ・リブレ、ブラジルといえば以前はカポエラでしたが、90年代にグレイシー一族が登場をすると一気にブラジリアン柔術が脚光を浴びました。こういった各国の格闘技…ローカライズされたファイトスタイルとでも言いましょうか…を軸にして、格闘ゲームのキャラクター造型って行われている部分って確かにあるのではないかと。
 
そう考えると、こういった伝統的な武術や格闘技体系のイメージがないスペイン(調べてみると、"カナリア棒術"という武器格闘術があるにはあるらしいんですが…流石にそこまでメジャーじゃないみたいですね…)のキャラクター達が、素手での徒手格闘じゃなく武器による格闘術を与えられた理由も何となく見えてくるんじゃないでしょうか?
つまり、空手やテコンドーのような固有の格闘技がないスペイン。そんな国から出てきた格ゲーキャラには、格闘術の代わりに武器を持たせることで、キャラクターを立てていたんじゃないかと思うんです。
 
スペインって言ったら、一番にイメージするのはやっぱり格闘技じゃなくて、サッカーや闘牛、フラメンコとかですもんね。で、ローレンス・ブラッドなんかは、そういったスペインのイメージをモロに受けて生まれたマタドールのキャラクターなわけで…。
 
他にも「鉄拳」シリーズでミゲルというスペイン人のファイターが登場をするらしいのですが、公式プロフィールにある彼の格闘スタイルはずばり「なし」です。完全に後付なんですけど、この辺も格ゲーにおけるスペインという国の特殊性を物語ったりしているのかな〜と。
 
 

■そんなスペインから登場をしたMMAファイター、ミラ


 
翻って、最後は「Dead or Alive 5」のミラちゃんのお話です。ここまでで書いてきたように、スペインという国は格闘技とは余り縁のない国だったわけです。そんな国の出身者という設定が与えられた「Dead or Alive 5」のミラ。彼女の武器はMMA総合格闘技
 
MMAは、世界中に無数に点在をしていた数多の格闘技を統合し、理論化し、ルールや技術を普遍化することで生まれた近代的で新しい格闘術です。大袈裟に言ってしまえば、格闘技のグローバル化によって誕生したのがMMA
 
一番初めに書いたように、彼女の出身地がスペイン出身なのは格闘技ファンにはちょっと"?"なディティールなのですが(現在、MMAファイターのランキングはアメリカ、カナダ、ブラジルの三国がトップを独走していて、次いでロシアや日本、韓国、そしてヨーロッパ諸国が追走をしているイメージです、自分の中で)、"MMA"という新しい格闘技をマスターしている彼女が、それまで格闘技の色がなかった国から出てくるというのは、なかなかに面白いトピックではないでしょうか?
これも、MMA誕生以降に変化をしていった格闘技の風景、格ゲーの光景の一つなのかな〜なんて。
 
文字通り、拳一つの徒手格闘で、格ゲーの世界に挑む新世代ファイターのミラ。自分的には、非常に燃えるシチュエーションであり、格闘技のロマンを感じさせてくれるキャラクターです。
 
Dead or Alive 5」をゲットして、早く彼女を動かしてみたいな〜と思います(そして、白石涼子ボイスでキムラロックを極めまくりたい)。