「DMC」はアンマリ好きじゃないけど、映画版を観てきたよ!……そして、泣いたよ!

 

 
映画「デトロイト・メタル・シティ」を観てきた。
 
僕は、原作の漫画が非常に人気が高いことは知っているけれど、ちょっと毒が強すぎてアンマリ好きではない。
代官山のオシャレさんから、渋谷系、ヒップ・ホップ、ハードコア・パンク、ライオット・ガールまで、多種多様な文化圏に住んでいる人間が、まとめて主人公であるクラウザーさんに粛清されていく様は、細分化したサブカルチャーへの反省という点でとても興味深いのだけれど、それが僕の笑いのツボかというと、ちょっと違う。
 
もう、これは個人のセンスというか、単純に「好き」「嫌い」の問題であるのでアレなんだが、僕にとっての「笑い」とは、漫画でいえば小箱とたんの「スケッチブック」*1や、あずまきよひこよつばと!」の様な日常の中にある「笑い」であり、よゐこチョップリンさまぁ〜ずのシュールなコントであり、ウディ・アレンのシニカルかつナンセンスなギャグであり、ジム・ジャームッシュのオフビートなコメディー感覚である*2
 
要するに、批評性みたいなものがない「笑い」が好き。
 
それと、これはホントに的外れで野暮でナンセンスでくだらなくて…(以下、ネガティヴな形容詞が100万語くらい続く)しょーもない意見で申し訳ないんだけど、一応パンク、ハードコア、NEW WAVE好きの端くれとして、あの漫画に出てくる音楽的なキーワードにあんまりリアルさみたいなものを感じないんだよね。
例えば、アメリカからブラックメタルの帝王が来日したりとか、ネオアコって言っても、出てくるのが渋谷系のアーティストの名前ばっかりだとか…。
 
「え! アメリカから来ちゃうんだ! 北欧とか、せめてイギリスじゃないんだ!」
 
とか
 
「FELTやペイル・ファウンテンズやモノクローム・セットは無視なんだ! 俺は好きなのに…(ガックリ)」
 
っていうのが度々あって、しかも僕は馬鹿だから、こういう冷めた視点を持った作家よりも、自分の好きなものを「好き!」って必要以上に熱くアピールするオタク性の強い人に惹かれるんで、登場キャラクターが着ているTシャツに延々カルトなメタル・バンドのロゴを描きまくる石原まこちんとかが好きなのです。
 
だから、連載第一回目をタマタマ立ち読みで見て「うおぉ! デスメタルの漫画だって!? これは熱いぜ! 俺も、こう見えて若い頃はヴェノムとか聴いてたんだぜ! SLAYERに憧れて、髪染めて伸ばしてたら、女子にキモがられたんだぜ!?」とか思ったんですけど、読み進めるごとに「ん?」となり、「これは、ちょっと…違うな」と思い、離れていったという。
ブームになり始めの頃に、単行本の一巻も読んだんだけど、一度も、ホントに「クスリ」とも笑えなくて、「これは、やっぱり違うな…」と。
 
じゃぁ、何でそんな人間が映画版を観にいったのか?ていう話なんですけど、それはね単純に監督のファンだったからなんですよ。
で、映画はどうだったかというと、やっぱり僕は「クスリ」とも笑えなかったです。
 
笑えなかったけれど、代わりに泣きました。
 
 
■映画版「DMC」は泣ける映画。
 
映画版の指揮をとったのは李闘士男監督。
僕は、この人が撮った宇梶剛士主演の映画「お父さんのバックドロップ」が本当に好きで、

プロレス好きとしても、映画好きとしても、これは傑作だ! と思ってたんですけど、李監督、本業がバラエティーの人だからか、なかなか次の作品を撮ってくれなかった…。
で、数年ぶりに李監督がメガホンを取る! というニュースを聞いて喜んでいたら、何と「DMC」を映画化するということで、
「え!? それ、大丈夫なの?」
とか不安になってたんですよ。
でも、李監督の久々の映画ということで、観にいったわけさ。
……たぶん、他の人がやってたら観に行かなかったな…。
 
で、観てみたんだけど、これが本当にいい映画だった!
 
以下、ネタバレありなので、拙い感想ではありますが、一応隠しときます。
ちなみに、他のダイアラーさんの、グレートな映画版DMCレポ。
 
映画「デトロイトメタルシティ」の夢と、「プリキュア5」の夢
 
「デトロイト・メタル・シティ」をかなりマジメに観たっす。
 

 
序盤は、原作どおり「オシャレ」と「アングラな音楽」という二面性を生きなきゃいけない主人公の苦悩が笑いどころになってるんだけど、映画が進むにつれ「夢」ってキーワードがテーマになってくる。
 
お父さんのバックドロップ」の場合は「親子愛」だったけど、こういい「クサい」真っ直ぐなテーマを、斜に構えずストレートにスクリーンに描けるっていうのは、やっぱりこの監督の才能なんだと思う。
まぁ、そのストレートさゆえに少々古臭く感じるセンスもあるんだけど*3、原作が必要以上に破天荒な漫画だし、出演者の演技も(悪い意味じゃなくて)マンガじみてて、本作ではそこはそんなに気にならなかったな。
 
出演者はやっぱり、根岸を演じる松山ケンイチさんが凄く良かった。「セクシー・ヴォイス&ロボ」の時も思ったんだけれど、この人は漫画っぽい仕草をさせたらすごく映えるんだよね。
壊れてる松雪泰子さんはイカしてたし、加藤ローサさんは最高にキュートだったけれど、個人的に一番バチハマリしてたのは、
毎回「出た〜! クラウザーさんの○○○だぁ〜〜!」って絶叫するDMC信者役の岡田義徳だったと思う(笑)。
相変わらずテンション高くて、おもしろかった。アレはクドカン並に、岡田義徳の使い方を分かっているとしか思えない。
 
まぁ、でも終盤までの根岸くんの苦悩、虐められっぷりは見ていて本当にヒドくて、特に松雪泰子演じる女社長にオシャレに飾り付けた部屋(外観は、根岸君目指すところの「オシャレ」とは百万光年離れた、ただの安アパートなのが泣ける。どうでもいいけど、あの家、僕が前住んでたアパートにソックリだよ!)を破壊されるシーンなんかは、原作に付いていけなくて「ギャグ」として見ることができない自分にはホント辛いもんがあった。
その後、ガールズ・パンク・バンドのギグに乱入して、誤って鎖で宙づりになっちゃうシーンがあるんだけど、もうストレートに「苛められた挙句に、首つり自殺した小学生」っていう90年代半ばの日本の風景を連想してしまったよ。
それ位、根岸くんの境遇は本人の望む方向とは正反対の悲惨な状況に追い込まれていく。でも、傍目から見ると、カリスマとして音楽シーンに君臨し、CDもセールスを伸ばしている訳で、立派な成功者なわけだ。*4
 
漫画だったらそのギャップをギャグにするんだろうけど、映画だと監督のセンスが加わって前途した「夢」ってテーマにフォーカスが当たっていく。
 
「オシャレなミュージシャンになりたいという根岸の夢」
 
「社長やバンド仲間が、デスメタル・バンド、デトロイト・メタル・シティとして見る夢」
 
DMCのファンが、クラウザーとしてステージに立つ根岸に投影する夢」
 
いろんな人のいろんな夢がクッチャクチャになって、もう訳分かんなくなっちゃって、でもその夢を叶えることは自分にしかできないんだ! と気づいた時の根岸の行動は、もうねホントに泣ける。ってか、現に僕、泣きました。
 
やっぱり、李監督はスゴいと思いましたよ。
 
今回の映画版、個人的には大成功だったと思います。
原作の徹底したニヒリズムみたいなものが、監督の味で上手いこと隠されて、優れた娯楽作品になってたと思う。
 
仮想敵としてして登場するオシャレ・プロデューサー以外は、結果としてどの文化も陥れてないんで、原作のコアなファンは食い足りないかもしれないけど、あれが李監督の作風だっていうのは、ファンとして主張しておきたいし、自分みたいな原作がアンマリ好きじゃない人間でも楽しめたんで、結果的にファン層の間口は広げたと言えるんじゃないかな?
 
観る前は、正直不安もあったんだけれど、想像以上の良作でした。90点! 




 
 

 
 

 

*1:登場人物である神谷朝霞先輩の可愛さは異常

*2:コーヒー&シガレッツ」の「イギー・ポップと、トム・ウェイツの会話」や「ウータン・クランのメンバーにからまれた揚句に、洗剤でうがいさせられるビル・マーレー」、「GHOST DOG」での、「パブリック・エネミーのラップをアカペラで熱唱してたら射殺されるマフィアの幹部」と「抗争中に突然心臓発作で死ぬ老マフィア」のシーンは何度見ても大爆笑

*3:例えば、主人公の根岸が女社長に金的をくらうシーンでは、「キーン!」という効果音がする、など。こういうベタな演出をしちゃうのも、バラエティー出身だからなのかな?

*4:この二面性が原作の最大の魅力なんだろうけど、「クラウザー」と「根岸くん」という相反する二つの人格が、限りなく近接する遊園地のトイレのシーンは凄く良かった。姿はクラウザーでも、中身は根岸という中間の人格に勇気づけられる若きミュージシャン、サジくんと、中間の状態で宙ぶらりんになっている主人公の対比が切なくて切なくて。…まぁ、そのサジくん、直後にタックルで吹っ飛ばされるわけだけど(笑)