世界で一番優しい漫画―小箱とたん「スケッチブック」

 
最近、またNEW WAVEを熱心に聴いています。
この間、DEVOが来日して、今月はKilling Jokeが単独公演(!)で来日と、NEW WAVE熱が再燃しているのもあるのですが、やっぱりこの時代の音楽はどれも新しくて、でもヘンテコでおもしろいな、と自分の中でまた改めて再評価。
いや〜〜でも、Killing Jokeのライヴは楽しみだなぁ〜。懐事情のせいで2Daysの内の初日しか行けないんですが、ホントに心待ちにしております!

KILLING JOKE

KILLING JOKE

What's This for

What's This for

呪詛的でダークなヴォーカルと、ザクザクとしたギター、反復するミニマルなリズムが生みだすグルーヴ!
僕は、最高にカッコ良いって思うんですけど、アンマリNEW WAVEって世間一般からは評価されてない気がするんですよね。……クスン。
 
 
■変ったモノって評価されづらい?
 
こういうちょっと変ったモノを見てみたい! 変った音を聴いてみたい! っていう欲求って誰でも心の奥底に持ってると思うんですよ。
ただ、現実はそういう「変ったモノ、人」っていうのは、世の中から排除されがちじゃないですか。
単純に、金銭的価値が生まれにくいっていう理由だけで。
で、例えば音楽だと売れ線の音楽だけが評価されて、社会では何でもソツなくこなせる人が求められる。すごく狭い範囲での「正解」が用意されていて、そこから外れちゃったちょっと変わったモノや人が評価されづらいというか、割りをくっちゃう時代だと思うんですね。


そんな「愛をとりもどせ」(by北斗の拳)的な世知辛い世の中だからこそ、僕が沢山の人に読んでもらいたいと思う漫画が小箱とたん先生の「スケッチブック」なんですよ。
スケッチブック 1 (BLADE COMICS)




■「スケチブック」という漫画の魅力は何だろう?
 
「スケッチブック」は一言で言って、とにかくゆるい四コマ漫画です。
劇中では、高校の美術部員たちの何気ない日常がひたすら淡々と描かれます。普通この手の女の子がたくさん出てくる学園系四コマ漫画だと、体育祭なんかの学校生活の「ハレ」の行事をネタにしがちですが、「スケッチブック」は、美術部の部活動を中心に徹底的に「何気ない日常」を描き続け、そこから「笑い」を生み出していきます。*1
 
時に、日常の些細な疑問や矛盾点にシュールともいえるツッコミを入れ、時にオフビートなギャグセンスで、「日常」に隠れている「笑い」をサルベージする。
作者である小箱とたん先生の、この辺りの笑いのセンスは、萌え四コマ全盛の時代において、週刊少年チャンピオン誌上でオルタナティヴな四コマ漫画「さなぎさん」を描いた(いよいよ、今週最終回!)施川ユウキ先生とかにも近いものを感じます。
じゃあ、「おもしろい」「笑える」だけが本作の魅力なのかというと、それはちょっと違うと思うんですよ。
 
 
■ギャグ漫画のキャラクターって…。
 
ギャグ漫画の登場人物は、作者の自覚・無自覚の差異はあるとはいえ、多くの場合がエキセントリックで、変わった人ばっかりです。
六つ子の兄弟とか、カワウソの着ぐるみ来たおっさんとか、モテる為に死力を尽くす謎の宇宙人とか、セクシーコマンドーや鼻毛真拳の使い手とか、なんかもーそんなんばっかです。
 
「スケッチブック」に登場するキャラクターも、やっぱり少し変わった人たちが出てきます。
 
極端に人見知りな主人公、
パペット作りが趣味で、美少女なのに方言バリバリの主人公の友達、
女の子なのに虫が大好きで、ネイチャージモンも裸足で逃げ出す自然派な先輩、
度を超えた天然で、変な工作ばっかりする女の子、
いっつも一緒にいて、部外者には理解不能な世界を作り上げた女子生徒二人、
偏った日本語が得意で、英語が不得意科目のカナダ人、
極端に短気で、すぐにキレる男子、
グータラな受け持ちの先生、
 
そんな部員&先生に頭が痛い部長さん
 
ハッキリ言って、ちょっと変なんだけど、学生生活の中で「あ〜いたいた、こんな人!」って感じの人がたくさん出てきます。
(この辺の「あ〜いたいた」感も、生き物の描写や、日常から笑いを生み出すセンス同様、作者の観察眼の為せる業だと思う)
ほら、涼風コンビみたいに、いっつも二人だけでつるんで、周囲に近寄りがたい独特の空気を醸し出してた女子とか学年に必ず一組はいたでしょ?
 
で、現実だと、こういう人達って学校っていう社会の中ではすごく生きづらいタイプの人たちだと思うんですよ。
例えば、栗原先輩とか自然に対して深い知識を持っていて、優しくて、本当に凄い人なんだろうけど、もしもこんな子が現実にいたら、やっぱり確実に周囲から浮いちゃうと思うんですよ、学校生活の中で。
学校生活のヒエラルキーの中では、凄く弱い立場に立たされてしまうかもしれないし、そのせいで傷付くこともあるかもしれない。
 
漫画の中で、登場人物同様、世界観も破天荒なモノにしてしまえば、その辺の違和感も消し去ることができると思うんですよ。でも、「スケッチブック」で描かれるのは「日常」の「学校生活」です。
そして、その中ではちょっと変わった主人公たちが、本当に楽しそうに生きています。
 
 
■「スケッチブック」という漫画の中に流れる優しさ。
 
「スケチブック」が描く世界は、とてつもなく「ゆるい」世界です。
でも、その世界は「ちょっと変わった人たち」「メインストリームから外れてしまった人たち」を優しく包み込んでくれる、包容力のある世界だと思うんです。
 
主人公の空ちゃんは、人見知りが激しく、趣味や嗜好も同年代の女子からはちょっとズレています。
でも、空ちゃんがその事を気に病んでいる様子はありませんし、葛藤するような描写もありません。*2
エキセントリックな絵を描いてる空閑先輩も、ヘンテコな工作ばっかりやってる神谷先輩も、そのことで周囲から差別を受けることはない。
 
「スケッチブック」という漫画の最大の魅力は、この「優しさ」ではないでしょうか?
 
変わってたって、いいんです!
ちょっとぐらい人とズレてたっていんです!
 
そんな人間だからこそ、他人とは違う感性で、何気ない日常から笑いや感動を見つけだせるんです!
 
日常の中で違和感を感じている人、周囲との感性や嗜好のズレに悩んでる人は、この漫画を読んで、ちょっとだけ力を抜いて、そして全てを許容してくれる、その優しさに少しだけ背中を押してもらうのはどうでしょうか?
 
 
 
 
 
 
 
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ん〜、大好きな漫画の感想なんで、結構頑張って書いてみたんだけど、どうでしょうか?
絶対僕じゃ無理だけど、いつかid:makaronisanさんの「たまごまごごはん」さんみたいな文章を描けるようになりたいなぁ…。

 

*1:時折、「番外編」的に、文化祭とかクリスマス会なんかの文科系のハレの日を描くことはあるけどね。

*2:アニメ版だと空ちゃんが、ほんの少し勇気を出して人見知りを克服する描写で終わる。僕は、原作のファンだったので、このラストシーンに多少の違和感を感じたのだけれど、今考えると主人公の成長物語として、原作版とはまた違う意味でアニメ版は本当に良くできていたな、と。