エロ漫画家さんが描くギャグ漫画は何故おもしろいのか?

 
現在発売中のCOMIC RUSH10月号に、私が大好きな成年漫画家さんである工藤洋先生の漫画が掲載されています!
 

<月刊COMIC RUSH 2009年10月号 (ジャイブ) P.455>
 
「おき×らぶ」というタイトルの読みきりのギャグ漫画で「COMIC RUSH」に初登場を果たした工藤洋先生。本作は、初の一般誌掲載作品でもあります。
 
 

新撰組隊員は、実は可愛い女の娘!? 「おき×らぶ」

「おき×らぶ」は、新撰組の隊員たちが現代にタイムスリップしてきたことから始まるドタバタを描いたギャグ漫画です。
表紙に描かれている女の娘たちは、左から永倉新八沖田総司藤堂平助。そして、沖田に肩車をされているちっちゃい女の娘が、新撰組局長近藤勇の子孫である「近藤いさみ」
物語は、現代に暮らすいさみの家に、突然沖田たちが押しかけてくるところから幕を開けます。
 
性別から服装から、ツッコミどころだらけの彼女たちですが、幕末の激動の中で幾度もの死地を乗り越えてきたとは思えないほど、その言動はお気楽で能天気そのもの。
 


 
やたらと現代的でファッショナブルな服装にツッコミを入れても、こんな調子です。
とは言っても、そこは流石は百戦錬磨の幕末の志士たち。自分たちの大切な人に危害が及ぶようなことになれば、その真の実力を見せてくれるわけで…。
 


 
いざという時には、その目つきも一変するわけですよ。
普段はお気楽そのものでも、決めるトコロは「ビシッ」とキメてくれる、この辺りのカッコ良さも本作の大きな魅力でしょう。
 
工藤先生の描かれるチャーミングな女性キャラクターと、小気味良いノリの笑いとツッコミが楽しめる作品「おき×らぶ」。可愛くてチアフルな新撰組隊員たちと、そんな彼女たちに振り回されるツッコミ役の主人公の姿が、読んでいて非常に楽しい作品です。
 
 

■エロ漫画家さんが描くギャグ漫画を考える

工藤洋先生は、ティーアイネットの成年漫画雑誌を中心に作品を発表されている成年漫画家さんなわけですが、一般作品である「おき×らぶ」もギャグ漫画としてとても素敵な作品となっています。
 
私見ですが、「おき×らぶ」のように、エロ漫画家さんが描いたギャグ漫画っておもしろい作品が多いように思うのです。
 
そもそもエロ漫画の中で描かれる「笑い」自体が、実は楽しくて笑えるものが多いのです。
エロ漫画の中では、ベタ、メタ、シュール、ナンセンス、パロディ、ブラックジョーク…などなど。ありとあらゆる笑いのパターンやギャグの手法が、その物語の中で描かれています。
 

<井上よしひさ「同時多発エロ」 (ヒット出版社) P.54>
飛行機の爆発でアフロになりながらも、登場人物たちが自分たちが存在する世界を「エロ漫画の中」であることに自己言及するという、「ベタ」と「メタ」が混在したギャグ。
 
また、成年漫画を描かれていて一般誌でのギャグ漫画に活動の場を移された漫画家さんや、エロ漫画とギャグ漫画を並行して描かれている漫画家さんも大勢いらっしゃいます。このように、エロ漫画とギャグ漫画は、非常に相性がいいように思うのです。
 
なぜ、エロ漫画家さんが描く「笑い」はこんなにもおもしろく、それらは私のツボを押してくるのか? その辺りを自分なりに少し考えてみました。
 
 

■エロ漫画家さんが描くギャグ漫画は何故おもしろいのか?

そもそもエロ漫画は、セックスや排泄など、人間の最も根幹的な姿を描く漫画です。それは同時に、非常にトラディショナルな「笑い」を描くことでもあります。何故なら、エロネタや下ネタは、人間の最も根源的な笑いだからです。
 

<大道いむた「いけないいもうと」 (メディアックス) P.114>
「オ●ニー」というド直球の下ネタに、男の「あるあるネタ」を組み合わせた、大道いむた先生の「いもうとマニア道2」のオチ。
 
そして、年齢制限がある代わりに、「エロ」や「性」を描く自由度が高いエロ漫画は、そういった笑いのスタイルと非常に親和性が強い漫画のジャンルであると言えます。
 
また、基本的に短編が中心であるエロ漫画の表現形態故に、オチの付け方や日常パートでのコメディ描写といった漫画表現が洗練されていったというのも、理由の一つとして挙げられそうです。
 

<ヤスイリオスケエロマンガみたいな恋しよう」 (晋遊舎) P.89>
主人公カップルの距離感と力関係を、パロディネタを用いることによって表現。
 
ページ数が少ない読みきり作品であっても、秀逸なコメディシーンや巧みなオチを用いることによって、物語をスムーズに展開し、読み手の読後感に強い印象を与えることができる。こうした笑いの表現は、短編中心のエロ漫画において、非常に有効に機能をしているように思います。
 
そして、そういったコミカルな演出の数々には、エロ漫画誌で連載されているギャグ漫画の影響も多分にあるように私には感じられます。
 

<鮭「イク裸」 (G-WALK) P.26>
例えば、G-WALKの成年漫画誌を中心に活躍をされている鮭先生のエロ漫画には、ネームやギャグキャラクターの描き方など、ところどころに古賀亮一先生のストレートな影響が見受けられます。
 
古賀亮一先生や、G=ヒコロウ先生、すがわらくにゆき先生…といった、エロ漫画でギャグ漫画を連載されていた漫画家さんって、かなり個性的な作家さんが多かったように思うのです。で、そうしたオルタナティヴな笑いを創りだしていたギャグ漫画家さんと同じ雑誌に作品が載ることによって、エロ漫画での「笑い」っていうのは独自の進化を遂げていったのではないかな、と。
 
最後に、エロ漫画とギャグ漫画の相性を考える際に、近年のエロ漫画における特有の表現そのものがギャグとして受け入れられるようになったという流れも見逃せないでしょう。
 

<みさくらなんこつ「ヒキコモリ健康法」 (コアマガジン) P.117>
みさくらなんこつ先生が、キャラクターの快楽を表現するために編み出した独自の淫語表現は、「みさくら語」として最早オタク界全般に定着。
 
みさくら語、「くぱぁ」のような擬音表現、断面図、アヘ顔といったエロ漫画表現の数々は、それを知らない人にとっては単純に極端で突飛な「おもしろいモノ」として、ファンにとっても一周回ってギャグとして受け入れられているように思います。こういった表現をパロディとして使用されている漫画家さんもいらっしゃいますし、極端な快楽描写の追及は時に笑いを生み出します。で、そういう新しいモノを生み出すセンスですよね、土壌みたいなモノがエロ漫画界にはあるのではないでしょうか?
 
これらは単なる私の推測に過ぎないのですが、こういった要素の一つ一つが、エロ漫画における「笑い」の描写に、或いはエロ漫画家さんが描いたギャグ漫画の中に、独特のユーモアや笑いのセンスを加える上で一役買っているのではないかと思うのです。
 
もっとも、80年代には吾妻ひでお先生のようなギャグ漫画家がロリコン漫画を描いていたわけですし、「エロ漫画とギャグ漫画の相性の良さ」を考えるならば、もっと時代を遡ってエロ漫画そのものの出自や周辺文化についても考えるべきなのだと思います。
ただ、世代的にはその辺の文化に触れることができなかった自分としては、上記のような理由をアレコレと想像するのが精一杯というのが正直なトコロです。薄っぺらい意見かもしれませんが、エロ漫画とギャグ漫画を愛する一個人の意見として見ていただければ幸いです。
 
 

■まとめ

色々と想うトコロを書き連ねてみましたが、とにかく、エロ漫画の中にも優れたギャグセンスを持つ作品は沢山あるし、エロ漫画家さんの描いたギャグ漫画はおもしろいよ! と私は思うのです。
ブコメやコミカルな作品を中心に活躍をされている作家さんは勿論のこと、例えばまぐろ帝國先生や、天竺浪人先生のようなベテラン漫画家さんが笑いを取りにいった時の破壊力もスゴイものがありますし、一見すると陵辱モノやアブノーマルな性を描いている作家さんでも、その実優れたコメディーセンスを作品に内包している漫画家さんもいらっしゃいます。
 
とにかく、エロ漫画家さんが描くギャグはおもしろい。個人的には、ああいう笑いのセンスが本当に大好きなんです。
 
そして、工藤洋先生の「おき×らぶ」も、凄く好きな作品です。
工藤先生が手掛けられた成年漫画作品と同様に、人生を肯定するような明るい雰囲気とキャラクターが、とにかくツボでした。
一般誌でも絶対に人気が出る漫画家さんだとずっと思っていたので、これからのご活躍も非常に楽しみです!
勿論、劇中では先生の十八番であるおっぱいの描写も存分に盛り込まれていますので、おっぱいが大きな女の娘が大好きな方も必見の作品ですよ!
 


 
成年漫画から一般漫画へ、或いは二つを並行して…というエロ漫画家さんの活動はこれからも活発になっていくように思います。一般誌に掲載されたギャグ漫画で名前を知って、その作家さんのルーツを知るために過去に出されていたエロ漫画に遡る…みたいなファンの流れも増えるかもしれませんね。
反対に、「エロ漫画なんて『ヤルだけ』でしょ?」みたいなことを、もしも思っている方がいらっしゃいましたら、是非一度こういった漫画作品を読んでいただければ…なんて思いますね。エロ漫画とギャグ漫画が大好きな管理人は。
 
 
 
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