「鉄腕バーディー DECODE:02」が描いた物語の対比

  
先日、放送を終了した「鉄腕バーディー DECODE:02」の感想文です。
長文な上に、ネタバレもありますので、本文は隠しておきます。
 

鉄腕バーディーDECODE:02 1 【完全生産限定版】 [DVD]

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鉄腕バーディー DECODE:02」。
 
本当に、素晴らしいアニメだったと思います。一期を、ボーイ・ミーツ・ガールな青春ラブストーリーだとするならば、二期の「:02」はハードボイルドな復讐劇のアニメ作品。
鉄腕バーディー DECODE」という作品は、一期と二期でそれぞれに異なった魅力があり、私はどちらも見ていて本当に楽しめましたし、どちらも最終回では泣いてしまいました…。
 
復讐がテーマであり、大人の男女の愛を描いた「鉄腕バーディー DECODE:02」という作品は、なかなかにドラマ性が高い作品である、と言えると思うのですが、そのドラマの盛り上がりに一役買っていたのが、ストーリーや登場人物における対比の描写だったと思います。
 
 

ナタルとリュンカ事件の被災者たち

その「対比」とは、例えばこんな描写です。
 
避難所で暮らす幼い男の子と女の子の甘酸っぱい別れを描いた第3話「Somewhere in Time」以降、SFストーリーや、ハードなアクション・パートを用いたナタルの復讐劇と並行して、主人公の日常パートでは、リュンカの災害によって住む家を無くした被災者の生活と、主人公たちが所属する「報道研」が彼らを取材する様子が描かれていきます。
そして、この「ナタル」と「被災者」という、リュンカによって大切なものを失ったもの同士の対比は、物語のラストでものの見事なコントラストを生み出します。
 
最終話。廃墟となった六本木で戦いを繰り広げる、バーディーとナタルのアクション・シーンに、住む場所を失っても、前向きに明るい笑顔をカメラに向ける被災者たちの姿や、彼らの生活を伝える早宮の台詞がインサートされます。
 

「避難所で知り会った子どもたちです。この他にも、沢山の人たちと知り合いました。
その誰もが、悲しみにも憎しみにも捕らわれてはいなかった。そこにあるのは愛でした」

 
強大な力を持ちつつも、リュンカによって親友を失った「悲しみ」と「憎しみ」に捕らわれたナタルの復讐は、結局のところ悲劇しか生み出しませんでした。一方で、一人一人の力は弱くとも、「悲しみ」や「憎しみ」に捕らわれず、「愛」を心に持つ人々の顔は、笑顔に満ちています。
 
このナタルと被災者たちの物語での対比は、破滅に向かって突き進んでいくナタルの悲劇性を際立たせる、非常によくできた演出だと私は感じました。
重厚でハードなSF、ファンタジーの設定や世界観を用いながらも、その中でヒューマニズムに溢れた人間ドラマを描くのが、赤根和樹監督の持ち味の一つだと私は思っています。親友を殺された男のハードボイルドな復讐劇である「鉄腕バーディー DECODE:02」でも、その視点は健在であるようです。
 
そして、こういった物語における「対比」の構造は、「鉄腕バーディー DECODE」「鉄腕バーディー DECODE:02」という作品において、非常に有効に機能しているように私は思います。
 
 

■バーディー・シフォン=アルティラと千川つとむ

例えば、一つの身体に二つの別々の心を持つ、主人公バーディーと千川つとむの、一期と二期での物語における立ち位置の変化にしてもそうです。
 
前シリーズである「鉄腕バーディー DECODE」では、「リュンカ」という謎に満ちた超兵器と、そのリュンカに寄生されてしまった少女、中杉小夜香を中心に物語が展開します。
そして、劇中で中盤〜ラストに掛けての大きなドラマとなるのが、主人公である千川つとむの中杉小夜香に対する恋模様と、「中杉小夜香がイコールリュンカである」という確信を持ちつつも、つとむの恋心を知っているが故に、それを彼に伝えることができずに葛藤するバーディーの姿です。
 
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一方、「鉄腕バーディー DECODE:02」では、このつとむとバーディーの立ち位置は、全く正反対になります。
地球に逃亡したリュンカ事件の首謀者たちを一人、また一人と消し去っていく、復讐劇の犯人はバーディーの幼馴染であるナタルであり、事件を追うバーディーは、その真実を知った時、任務と友情との間で板挟みになってしまいます。
 
一期ではつとむ、二期ではバーディーの「大切な人」が事件の中心人物(犯人)であり、そこから「二心同体」の存在である、つとむとバーディーのドラマが描かれていきます。
そして、一期と二期での、この立ち位置の変化は、「鉄腕バーディー DECODE」のドラマ作りにおいて、強い印象や、ある種の情感を観るものを与えることに成功しているように思います。 
 
  

■一期と二期のアクションシーンの対比

鉄腕バーディー DECODE」の魅力の一つとして、派手で個性的なアクション・シーンが挙げられると思いますが、見せ場の一つである、このアクション・シーンにおいても一期と二期では、その描かれ方に随分差があるような気がします。
 
もちろん、一期の頃から派手なアクションシーンは健在だったのですが、例えば二期の第7話で、バーディーの過去を垣間見たつとむの顔が衝撃の余り歪む描写や、最終話での、悲しみと憎しみによる衝動で、ナタルの顔が醜く変化する、といったアクションの中での「激しい」感情表現の数々は、一期の時点では抑えられていた印象があります。
 

  
単なる印象論に過ぎず、しかも非常に抽象的な表現しかできないのですが、私は、こうした描写の違いから、一期のアクション・シーンは痛快で明るくスマートなイメージで、二期のアクション・シーンは、もっと暗く、感情的で、非常に激しく描かれていた、という印象を受けました。
 
 

■OPアニメーションの対比

鉄腕バーディー DECODE」「鉄腕バーディー DECODE:02」は、ストーリー本編だけでなく、アニメの導入部であるOPの時点でも対象的な見せ方を行います。
 
■Youtube - 「鉄腕バーディー DECODE」OP / Hearts Grow「ソラ」
■Youtube - 「鉄腕バーディー DECODE:02」OP / NIRGILIS「kiseki」
 
一期のOPは、澄み切った青空の中を飛び回るバーディーと、主人公つとむの疾走がなんとも爽快な印象を観る者に与えます。物語のサブ・キャラクターたちの配置も過不足なく、色彩も明るく、ハードなSF設定を用いつつも、10代の若者の甘酸っぱい恋模様を描いた一期のテーマにピッタリです。
 
対して、一期のOPではほとんど使われることがなかった寒色が多用されています。また、雪が降りしきる描写や、警戒色(赤色)のライトを浴びながらの幼少期のバーディーのアクション、つとむの表情や、雪の中ビルの上に一人佇むバーディーの後姿が、物語の悲劇性を暗示しているようです。
 
 
このように、赤根監督版「鉄腕バーディー」では、物語の中でキャラクターや演出に、対比の方法論が非常に有効に使われていて、それは一期の「鉄腕バーディー DECODE」と、二期の「鉄腕バーディー DECODE:02」という二つの物語すらも、それぞれを「対比」として成立させ、ドラマ作りを行おうとしている印象を受けます。
 
では、何故、このような対比を行うのでしょうか?
それは、主人公が「二心同体」であるという「鉄腕バーディー」という作品が持つ魅力やおもしろさを、最大限に活かそうとしたためではないか、と私は思うのです。
 
 

■大人と子ども、女性と男性

鉄腕バーディー」は、バーディー・シフォン=アルティラと千川つとむという二つの異なる精神が、一つの身体を共有しながら事件を解決していく、というSFアクションストーリーです。そして、バーディーは、大人の女性で、つとむは未だ高校生の男の子です。
こうした立場の違いやギャップが、物語の大きな魅力になっているのですが、赤根監督は「男性」と「女性」という点から原作を読み解き、「鉄腕バーディー DECODE」で、その辺りのおもしろさを最大限に活かそうとしたのではないかな、と私は思うのです。
 
一期の主人公はつとむで、二期の主人公はバーディー。そう考えてみると、一期と二期での物語性や演出の違いと、それらの対比は、このアニメ作品の中で非常に重要な意味を持ちえます。
 
「大人」と「子ども」、「男性」と「女性」。「鉄腕バーディー DECODE」の中で度々描かれ、用いられる対比は、主人公であるつとむとバーディーの対比を、そのまま物語に持ち込んだと言えるのではないでしょうか。
 
一期の「鉄腕バーディー DECODE」では、男子高校生の甘酸っぱい一夏の恋が描かれます。
二期の「鉄腕バーディー DECODE:02」では、大人の女性であるが故の、現実の厳しさや、激しい感情が描かれます。「:02」で描かれた激しいアクション・シーンや感情描写、物悲しい雰囲気が流れるOPアニメーションは、この辺りを表現しているように思うのです。
 
鉄腕バーディー DECODE」と「鉄腕バーディー DECODE:02」は、同じシリーズ作品であるにも関わらず、作品の印象は随分異なります。そして、それは非常に意図的であり、「一期」と「二期」という製作体制すらも非常に有効に使って、ドラマ作りを行っているようにすら感じられます。
 
 
鉄腕バーディー DECODE」と「鉄腕バーディー DECODE:02」…。
間に三ヶ月の空白こそありましたが、都合半年間、本当に楽しませてもらった作品で、また一つ自分の中の大切なアニメが増えました。
欲を言えば…今度はつとむとバーディー、それぞれが活躍をする「第三期」の「鉄腕バーディー」を、私は見てみたいのですが…どんなもんでしょ?
 
 
 
<関連URL>
■鉄腕バーディー DECODE:02 第7話の作画について知っておくべきこと(WebLab.ota様)
id:n_euler666様の作画から見る「鉄腕バーディー DECODE:02」。
私は、赤根監督の「ノエイン もうひとりの君へ」の大ファンなので、
  
ノエイン」で見られた激しい作画を使っての感情描写や、個性的なアクション・シーンの数々が、「バーディー」の一期では余り見られなかったので、二期での本領発揮は結構衝撃的でした…。