浪打際のむろみさん - #5「水の母(海の月)とむろみさん」#6「人気者とむろみさん」

 
週刊少年マガジンでの期待の新連載、名島啓二先生の「浪打際のむろみさん」
作者さんと同郷ということもあり、私はこの漫画を応援しています。最早、一週間に一度のお楽しみです。そんなわけで、今週も感想文を書いておきますよ。
 
今週号(36号)は「大人気御礼」ということで一挙に二本立て。ショートのギャグ漫画なので、こうやってまとめて読めるのは嬉しい限りです。更には、連載開始以降3週連続で表紙に登場という何気に快進撃を見せています。
 
先週は、いきなりシンガポールに泳ぎ着いていた、むろみさん。果して、今週はどんな登場の仕方をするのかと思いきや…。
 

<週刊少年マガジン 2009年36号 (講談社) P.304>
 
毒クラゲに刺されて痺れていました…。
 
 

■何気にスケールがデカいぜ、むろみさん!

2本立ての一本目、「水の母(海の月)とむろみさん」では、むろみさんにしばしばちょっかいを掛けられる男の子、たっくんとのやり取りを、そして2本目の「人気者とむろみさん」では、水族館の人気者イルカ君との会話劇を中心として話は進みます。
 
どうでもいいですけど、2本目の「人気者とむろみさん」で舞台になっている水族館は、イルカショーの水槽の形を見るに、福岡市にあるマリンワールドですね!
福岡という街は、九州の中では割と大きなツラをしていますが、その昔、この地に左遷された菅原道真がショックの余り病死した挙句に、自分をこんな辺境の地に飛ばした報復として都に天変地異を巻き起こして祟ったというぐらいに基本的にはド田舎なわけなんですが、どういうわけかこのマリンワールドルー大柴が横から出てきて「♪Nai Nai Nai Nai Nai Nai もったいないよ〜♪」と歌い出しそうなくらい、身分不相応に設備と展示規模が充実した水族館なのです。
福岡にお越しの際は、是非一度立ち寄られることをオススメしますよ。
目玉の一つである、ラッコの水槽の可愛いらしさは尋常じゃないです。あと、日本では珍しいメガマウスの標本もありますよ*1
 
■マリンワールド公式ホームページ
 
…いきなり話が横道に逸れましたが、今回の「波打ち際のむろみさん」で大きくスポットが当てられているのは、むろみさんの年齢です。
天真爛漫で好奇心旺盛な、むろみさん。たっくんを始めとする人間とも気軽に接しているむろみさんですが、本当は人知を超えた存在である人魚なんですよね。
人間や地球上に存在するその他の動物のほとんどが、長い地球の歴史の中から見ると点にも満たない時間を紡ぎ、儚く命を散らしていくのと違って、人魚だから何千年も何万年も何千万年も生きることができる。
自然の営みと、その中で脈々と行われてきた生命の変遷を目撃してきたむろみさんの視点は、それ故にひたすらスケールがでかくダイナミックです。
 


 
一方で、むろみさんの人格もその経験に比例してスケールの大きさを持っているかというと、全然そんなことはないわけです。むしろ、やたらと過去(しかも、数千万年前)にこだわったり、ちょっぴり気難しいところもあって、人間同様に嫉妬だってします。
その辺のギャップが本作の笑いドコロになっているわけですが、この辺の描き方、超自然的な存在としての人魚の描き方と、程よい脱力感のバランスが読んでいて本当に気持ちがいいんですよね。
 
 

■今回も方言は絶好調でした。

で、そんなむろみさんのキャラクターに、大きな魅力を与えているのがやはりその話し方。バリバリの博多弁でしょう。
個人的にツボに入った#6「人気者とむろみさん」のタイトルイラスト。
 


 
キャップに描かれた「おきうと」って!
 
「おきうと」というのは、博多のローカルな食べ物で…寒天と蒟蒻を足して割ったような…海草で作った蒟蒻みたいな食品なんですけど、若い人はもうアンマリ食べないですからね。
人知を超えた存在である人魚の生活に、そういう非常にローカルな文化がちょいちょい顔を出す、この辺も一つのギャップですよね、ギャップによる笑い。
そして、そこには作者さんの郷土愛もあるのでしょう。ただ単にローカルな情報を作品内に練り込むだけではなく、それらが持つニュアンスをなるべく読み手にも伝わるようにしようっていう意思が見えるんですよね。
例えば、むろみさんが劇中で放った「しゃーしい」という台詞。
 


 
コレには、解説が付いていてそこには、
 

しゃーしい =「うるさい」「面倒臭い」「うっとおしい」「ウザったい」全てを含んだ一言

 
と書かれています。
地方出身者の方なら分かってもらえると思うのですが、方言って標準語に訳せないんですよね。
近い言葉を選んでも、どうしても元の言葉が持つニュアンスを100%表現することはできません。後から充て付けられた言葉には収まりきれない、方言が持つ言葉本来の意味や雰囲気というものが存在しているからです。
 
作品内に出てきた「しゃーしい」も、標準語では「うるさい」と訳すのが妥当だと思います。ただ、先ほども書いたように、どうしても標準語に直しただけでは収まりきれない言葉本来の力がある、「面倒臭い」とか「うっとおしい」とか、そういった沢山の言葉のニュアンスを多分に含んで、でもそれらの言葉とは微妙に異なる言葉、それが「しゃーしい」なわけです。
そういう方言が持つ独特な力を作品内では上手く活用していますし、なかなかに的を射た方言の解説によって、そうした言葉の力を知らない人にも伝えようとしている努力が垣間見えます。
 
で、そんな方言を何千年、何万年と生きて、地球の営みを見守ってきたハズの人魚が使う。スケールの大きな、ダイナミックな視点を持つ超自然的な存在に、いきなり地方色が注入される、そのことによって親しみやすさやギャップによる笑いが生まれてくるわけです。
 
で、同郷出身者としては、当然そんなむろみさんに強い親近感を感じてしまうわけで…。
やっぱり、いいよなーむろみさん。本当に、博多湾にいないかしらん…。
 

*1:メガマウスとは…深海にいる、すんごいデカさの鮫。子どもの頃に見ると軽くトラウマになります。