女の娘優位でグイグイ引っ張るエロ漫画 - 士土大介「Not only 暴君」「But also 暴君」

 

<「COMIC MUJIN」 2010年2月号 (ティーアイネット) P.375>
 
ティーアイネットの「MUJIN」2009年12月号と、今月号に掲載をされた士土大介先生の「Not only 暴君」「But also 暴君」という連作が大変おもしろかったです。
で、単行本収録がいつの日になるか分からないので、一先ずコチラで簡単な感想文を書いてみたいと思います。
 
 

■女の娘優位のエロ漫画


<2009年12月号 P.316>
 
本作のストーリーを一言で説明するならば、同級生でオタクの美々子さん(通称「地味子」)にフとしてことから弱みを握られてしまった主人公、高崎くんが彼女に振り回され、散々な目に合いながらも、最終的にはなし崩し的に恋愛関係に進展をしていくというお話です。そして、この連作で一番面白く、チャーミングな部分は徹底的にヒロイン優位で話が進んでいく所だと思います。
 
士土先生といえば単行本「恋するニーソ」に収録されたいくつかの短編でも顕著なように、女性優位のエロ漫画を描かせると抜群に上手い作家さんです。
二人の女子高生が同じ男性教諭を好きになり、彼の意思をほとんど無視したところで自分たちの恋愛感情と性欲、そしてお互いの友情を充足させ、ラストで物騒な台詞を彼女たちに笑いながら語らせて物語の幕が閉じる「少女戦線」といった作品には、この作家さんの個性とエロに対する視点が色濃く出ているように思います。
 
そんな士土先生の久しぶりの新作成年漫画である「Not only 暴君」と「But also 暴君」ですが、やはりここでもそうした女性中心のエロの面白さが強く表現をされています。
物語の序盤は「脅す」側と「脅される」側に男女が別れているわけですが、前述の通り、この作品の中では前者が女性で、後者が男性になっているわけです。つまり、エロ漫画でよく見られるフォーマットの逆転劇が起こっている。
勿論、そういった男女の優位性の逆転劇というのは成年漫画の演出、ストーリー展開として現在では様々な作家さんが作品内に持ち込んでいるわけですが、本作ではちょっと変わったヒロインを主役に持ってくることにより、劇中でそうした作品のプロットを、より魅力的に輝かせているように思うのです。
 
 

■ちょっと変わったヒロイン像

目隠れで、戯画化されたオタク特有の妙なテンション、更に巨乳というヒロイン、美々子さんのユニークなキャラ造詣は、本作において非常に印象的な効果を挙げています。
ヒロインが「オタク」という設定は、本作のシナリオに独特のドライブ感と魅力を加味しているのです。高崎くんの弱みを握った地味子ちゃんが彼を脅し、徐々に調子に乗って要求がエスカレートいく様は独特のおもしろさと可愛らしさを作品内にもたらしていますし、それが二人の力関係やエロのシチュエーションにまで繋がっていきます。
で、その見せ方も非常に上手いんですね。
 

<2009年12月号 P.318>
 
このコマは、二人がカラオケに行ったところを描いたシーンなのですが、たった一コマに詰め込まれた会話劇だけで、「オタク」と「そうじゃない人」とのテンションとキャラクターの違いが表現されている面白いシーンだと思います。
J-POPをテレビアニメのタイアップで知っているアニメファンと、一般音楽リスナーの音楽に対する接し方の違いとか、アニメの話題でテンションが急激に上昇したかと思ったら、次の瞬間には自虐に走る美々子ちゃんの言動であるとか、勿論漫画なので多分に誇張はされていますが、読み手としては「あるある」という感じではないでしょうか?
 
何というか、この辺りにも作者である士土先生の上手さが良く出ているなぁ〜っと。
 
 

■まとめ

女性上位のストーリー展開と、ヒロインの個性。
非常に個人的な好みを前提にした話ですが、「キャラクターの魅力が活きたエロ漫画」として、ここ最近読んだ中で特に印象に残った作品でした。
 
一般誌での漫画連載が活動の中心になっていた士土先生ですが、同年に単行本デビューを果たした中山哲学先生が、コンスタントかつパーマネントな新作の発表と圧倒的な描画のスピードで、作品の官能性を急激に向上させていったように、今後は成年漫画の世界でバリバリと新作を発表して欲しいなと願う次第です。
凄くおもしろい才能を持った漫画家さんだと思うんですよね〜。