こんな時代だからこそ読もう! 熱いプロレス漫画!! - 週刊少年チャンピオン「任侠姫レイラ」

 

<週刊少年チャンピオン 2010年21+22号 P.111>
 
今週から週刊少年チャンピオンで始まった梶研吾・米井さとし両先生によるプロレス漫画「任侠姫レイラ」が、プロレスファンとして見逃すことのできない凄まじい熱量を持った作品だったので、今回はこの漫画について「対戦相手のレスラーが入場している時に、角材片手に花道で急襲する後藤達俊小原道由」くらいの勢いで感想文を書いてみたいと思います!
 
かなりネタバレ気味な感想文なので、未見の方はどうかおさがりください! おさがりくださ〜い!!(←外国人レスラーが、場外で大暴れを始めた時のリングアナのテンションで)
 
 

■プロレスに熱を取り戻せ!! 「任侠姫レイラ」登場



 
「任侠姫レイラ」の物語は、地方のプロレス会場から幕を開けます。
客の入りは厳しく体育館の外の厳寒と同様に、プロレスに対する熱が完全に冷え切ってしまっている会場。
 


 
暇だったんで何となく観にきちゃったお婆ちゃん、行楽気分の家族連れ、ただ単にヤジを飛ばして騒ぎたいだけの酔っ払い、やる気のない専門誌の記者…凄く生々しいインディー団体の地方興行の風景が漫画の中で描かれます。
 
自分も色々な団体の興行に足を運んでいるんですが、幸いながらここまで酷い客の入りで観ていて寂しい思いをしたことはないです。ないですけども、プロレス人気の低下が叫ばれて久しい昨今の情勢の中で、所謂「メジャー」と呼ばれるプロレス団体ですら集客に苦戦する時代です。このうら寂しい光景は、私たちプロレスファンの危機意識がそのまま具現化した間違いなくリアルな「今」だと言えます。
 


 
そして、そんな怠惰で弛緩した現状を一発で吹き飛ばすようなレイラの登場シーン!
プロレスにおける、最もエキサイティングなイベントの一つである「乱入」が、リングの上でのストーリーと主人公のキャラクター性…つまりは、プロレスラーとしてのカッコ良さ! の両方を強調するという素晴らしい展開には、この漫画が少年漫画的なプロット・世界観の中で、プロレスのエキサイティングなおもしろさを最大限に引き出し描こうとする哲学が非常に強く現れているように思います。
 

「観客がたとえ たったの一人でも………………………」
「心に真剣呑んで戦いな………!」

 
序盤に冷め切った寂しい描写を置くことで、こんな力強い啖呵を切るレイラの魅力が輝き、彼女の乱入によってリングに熱が持たされていくというストーリーに強烈なカタルシスと少年漫画らしいドライブ感が出てくるという、まさにプロレスのような逆転劇! この啖呵は、本当にカッコ良いな〜。
 
 

■レイラが描く、レスラーの「中」の強さ

「任侠姫レイラ」は、今の少年誌には珍しい、熱いプロレス漫画です。
当然、試合のシーンは躍動感と力強さを携えており、漫画の中でプロレスラーたちが闘う姿には相当な熱量が込められています。これだけでも、プロレスが好きな人ならば、胸に込み上げるものがあるでしょう。
 


 
そして、「レイラ」が素晴らしいのはフィジカルの強さや規格外の存在感のみならず、プロレスラーの内面…試合を組み立てる駆け引きであるとか、観客を熱狂させる哲学といった、「外」の強さだけではない「中」の強さを描いていることです。
プロレスは他のスポーツに比べて、観る側もやる側も様々なイデオロギーが交錯するエンターテイメントです。
それは、良く言えば深淵なロマンに満ち溢れており、悪く言えば小難しく理屈っぽいということになると思うのですが、そういったプロレスファンの中でも一際熱心な連中の心を掴んで放さない「プロレスの魅力」がエッセンスとして作品の中に加えられている。
 
それは、作者が考える「グッドレスラーの条件」が漫画の中で主人公のレイラに託されて描いてあることからも良く分かります。
その「グッドレスラーの条件」が何なのかは是非本誌を手にとって確かめていただきたいのですが、プロレスの「虚」と「実」のギリギリのラインにまで踏み込みつつ、決して「少年漫画」の王道は踏み外さないパワーにイチ漫画ファン、イチプロレスファンして胸を熱くさせていただきました。
 
 

■そして、少年漫画らしい熱いバトル!!

そんなプロレスLOVEに満ちた作者の視線とペンによって生まれた、新世代のプロレスヒロイン、レイラ。
何だかんだ言いつつも、その最大の魅力は試合がおもしろい! そのシンプルな一言に尽きると思います。
 


 
自分的に、最も興奮させられた一場面であり今回のクライマックス。レイラの試合を通じて、観客に、会場に、そして相手のレスラーにまで「熱」が戻ってくるという、そんなプロレスの試合に不意に訪れるパワフルな瞬間を切り抜いた一コマ。
 
プロレスは勝ち負けだけではありません。でも、それは決して勝ち負けの勝負論が軽んじられているわけではありません。
相手に勝つ気がないレスラーを一体誰が応援したいと思うでしょうか? ファンは、お気に入りのレスラーが相手に勝つところを、ベルトを腰に巻くところを見たくて、チケットを買い会場に足を運ぶのに、そんな人たちの前で勝負論が蔑ろにされて良いわけがない。
 
そして、そんな熱いハートを対戦相手に呼び起こさせ、相手の全てを受けきり、そして観る者を熱狂させる…レイラは漫画の中でプロレスラーにとって最も大事なこと…つまり、相手と自分と観客と、リングの上と周囲にある全ての者と闘い、そして勝利するという姿を見せてくれます。
 
レスラーは頑張っている! リングの上で優れたフィジカルを駆使して、誰も真似できないようなトンデモなく凄いことをやっている! でも、それが一部のファン以外には届かず、決して大多数の人々の目には触れることのない現状、このもどかしさ。
そんなプロレスファンのジレンマとコンプレックスを全て吹き飛ばすパワーと熱が「レイラ」にあると思います。
劇中で語られるプロレスの魅力…それは、恐ろしくシンプルでストレートで、故に核心を突いた以下の一言で表現されています。
 


 
これからも、レイラの試合から目が離せそうにないですよ。
 
 

■まとめ

今の世の中で、こんなにもプロレスLOVEに満ちた作品が出てきてくれたことが嬉しいと同時に正直、驚きでもあります。
何というか、この辺のテーマのチョイスも如何にも「チャンピオン」らしいなぁ、と。
「任侠姫レイラ」注目の漫画です! オススメ!!
 
 

■おまけ

週刊少年チャンピオン」といえば、プロレス技で相手をバッタバッタとなぎ倒す様が痛快な不良漫画シュガーレスもオススメです。
 

<週刊少年チャンピオン 2010年20号 P.380>
 
喧嘩でパワーボムを使って不良を倒す漫画を読めるのは、秋田書店週刊少年チャンピオンだけ!
 
 
 
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