「WORKING!!」と「スケッチブック」 - 平池芳正監督が見せてくれた新しい景色と変わらない景色
好評の内に放送を終了したテレビアニメ「WORKING!!」。…といっても、自分の住んでいる地域では7月から再放送をやってくれているので全く「終わった感」がしないのですが、本当に良いアニメでしたね。
そんなわけで、二期に期待をしつつ、今回のエントリでは「WORKING!!」の感想文をアレやコレやと。
笑えてキュンときて、見ていて温かな気持ちになれて…という作品なので、単純に「おもしろかった!」という一言で締めても良いと思うのですが、平池芳正監督の前作である「スケッチブック 〜full color's〜」の大ファンである自分は、「スケッチブック」との作風の違いに大きなインパクトを受けたので、その辺りにフォーカスしてエントリを書かせていただきたいと思います。
■「WORKING!!」の圧倒的なポップ感に驚愕
監督作としては「スケッチブック」以来となる、平池芳正の待望の新作アニメ。「スケッチブック」と同じく4コマ原作ということで、ワクワクしながら第一話を見たのですが…いやぁ、ビックリしました。というのも、自然主義的な演出と独特のカメラワークによって、オーガニックなコメディ感覚とエモーションを作品全体に漂わせていた「スケッチブック」と、明快なエフェクトや明るい色彩を使用した「WORKING!!」の圧倒的なポップ感覚とのギャップが、単純に大きな驚きだったのです。
例えば、場面転換一つとっても、こんな感じでポップで目を引く演出が使用されていますし、
キャラクターの感情表現やアクションには漫符や派手なエフェクトが多用され、作品内に独特の効果をもたらしています。
この辺りのビジュアルイメージや演出は、「スケッチブック」(や、監督デビュー作である「SoltyRei」)ではほとんど見られなかった要素なので、平池監督のファンである自分は非常に新鮮な気持ちで楽しませていただきました。
中でも、こういったポップなフィーリングとカラフルな色彩が最も印象的に使われていたのが背景ですよね。
まるで壁紙のような色とりどりの背景の中を個性的なキャラクターたちがチアフルに駆け回る姿は、とりわけインパクト大。
他作品と比べるものでもないのかもしれませんが、新房昭之監督の「ひだまりスケッチ」なんかに近いイメージと色彩の使い方。平池監督らしい日常描写でのリアルな背景とのコントラストも鮮烈で、これも楽しかった!
同じ4コマ漫画原作で、監督は平池芳正という同一のクリエイター。それでも、ここまで印象や見せ方が異なってくるというおもしろさ。
どこまでもナチュラルで優しい「スケッチブック」と、底抜けにポップで明るい「WORKING!!」。両者の差異を音楽に例えるならば、それまでアンビエントなインストの楽曲を作っていたポストロックのバンドが、最新作で突如としてポップ・ミュージックに接近し、ヴォーカリストを大々的にフィーチャーした優れた歌モノのアルバムを創り出してしまったような…そんなインパクトがあります。
音楽…といえば、村松健さんのノスタルジックでセンチメンタルなピアノ曲がメインになっていた「スケッチブック」に対して、「WORKING!!」では神前暁さんがBGMと主題歌にレイアウトされていて、この辺りのコントラストも非常に鮮やか。
とにかく、ポップな感覚と色彩が画面いっぱいに溢れていて、その中でキャラクターの個性やギャグ感覚がより活きてくる。
こういた大袈裟な表現を行っても全く違和感がありませんし、監督のファンならばその新たな試みに思わず胸が踊ってしまうような楽しい演出。
「WORKING!!」で見せてくれた平池監督の新しい景色。平池芳正よ! こうくるか! という新鮮な驚きですよね。その表現の幅に、ますます同監督のファンになった次第です。
■それでも変わらない、平池監督の風景
このように、比較してみると両者のイメージの差がクッキリと出てくる二つの作品。それでも、変わらない肌触りが根底に流れている辺り、流石は平池監督という感じです。例えば、同監督のファンならば誰しもが強く惹かれ、作家性を強く感じる風景描写。淡い色彩を使った感傷的な空の色や、独特のエモーションを孕んだ「景色」の数々は、「スケッチブック」と「WORKING!!」二つの作品に共通したチャームポイントだと言えると思います。
また、原作遵守による偶然とはいえ、前者は九州の福岡県、後者は北海道と、これまた両者の差異が極端なくらいクッキリと出たロケーションになっているのも興味深いところです。
それでも、舞台となっている地域の風景をコラージュし、ある程度のデフォルメを加えながら、アニメの中で再現をするという手法は同じ。
■札幌あちらこちら、舞台探訪。「WORKING!!第8話」その3 (たまごまごごはん)
原作の「四コマ漫画」という表現の特性上、コマの中では表現し切れなかった地域性が、アニメになることで浮かび上がってくるというおもしろさも両者共通の魅力ですよね。
そして、平池監督といえばこの人たち! な斎藤桃子さんと中田譲治さんの起用!
平池監督(と音響監督の鶴岡陽太さん)は、声優さんの起用に関しても独特のセンスをもっている方*1だと思うんですが、監督作での参加メンバーの顔が大きく変わった「WORKING!!」でもこのお二方は出演をされていて、ファンならば思わず嬉しくなるところ。
時に主役になり、時にワキを固める、作品のマスコット的な存在の声優さんというか、そういう存在なんでしょうね。
そして、何よりも、「WORKING!!」の中で平池芳正監督らしさを感じたのが…コレはネタバレになってしまうんですが…最終回で男性恐怖症のヒロイン、美波ちゃんの成長を描いていたことです。
高校の美術部員の部活動とファミレスでのアルバイト。何気ない日常の中にコメディ感覚やエモーションを描いた両作品は、その何気ない毎日を送る中で、様々な人たちとの出会いを通じて最後の最後に、ほんの少しでほんのチョッピリの…でも、確かで力強いヒロインの「成長」が描かれ、物語が幕を閉じます。
そのささやかな…でも、確かな「一歩」を描く平池監督の目線は、とても優しい。そして、それは胸を締め付けられるようなセンチメンタルをも含んだ優しさです。
この様々な情感を含んだ優しい目線は、やはり平池芳正作品の大きな魅力であり、作品の醍醐味だと私は思います。そういった点でも、「WORKING!!」。平池監督のファンとして堪能をさせていただきました。
■まとめ
夏アニメが盛り上がっているところで、やや時期はずれかもしれませんが「WORKING!!」まだまだ熱いぜ! ということで、前期のアニメの感想文を書かせていただきました。平池監督は、今期だと「アマガミSS」の監督をやられていて、そちらでもまた新たな試みを見せてくれていますよね(平池監督がクリエイトするサービス・シーンが見れるなんて…何だか、不思議な感じです…)。こちらも見逃せないです。
「WORKING!!」は二期あるといいなぁ〜。勿論、「スケッチブック 〜full color's〜」の二期もずっとずっと待ってます!
■おまけ
「WORKING!!」は、OPで店長が平池監督のクレジットを蹴っ飛ばすシーンが好き過ぎます!
この店長のキャラクターを活かしつつの、洒脱で自虐的(?)なユーモア…誰のアイデアなんでしょうね?
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