「格闘ゲーム」と「総合格闘技」の出発点としての1991年 - スト2、餓狼伝説、RINGS、ヴォルク・ハン

 

 
格闘ゲームって、実際の格闘技の流行や歴史から多大な影響を受けているものだと思うんです。
 
90年代に大ブームを巻き起こし、現在に至るまでに数々の名作を生み出した格闘ゲームなんですが、当時の格闘技やプロレスの歴史を照らし合わせてみると色々とおもしろいものが透けて見えてくる。
というわけで、今回のエントリでは"格闘ゲーム"と"格闘技"について、ちょっとアレやコレやと書いてみたいと思います!
 
 

■1991年の格闘ゲーム

格ゲーと格闘技の歴史をリンクさせて振り返ってみる…という視点を持つ際に、最も重要な年代となるのが1991年でしょう。1991年といえば、格ゲーブームの始点であり、その代表的なタイトルであるカプコンストリートファイター2SNK餓狼伝説がリリースされた年です。
 
そして、その1991年は、格闘技色を全面に押し出していたプロレス団体"UWF"から派生をした3つの新興プロレス団体、前田日明"RINGS"高田延彦"UWFインターナショナル"、藤原嘉明の"藤原組"が誕生をした年でもあります。
 
この3つの"プロレス"団体は、新日本プロレス全日本プロレス…といった、従来のプロレス団体とはそのディティールやニュアンスをやや異にした団体です。どういうことかというと、この3つの団体は、後に"総合格闘技"と呼ばれるムーブメントに身を投じていくことになるんですね。
 
RINGSは、ブラジルやロシア、オランダからアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、エメリヤー・エンコ・ヒョードルアリスター・オーフレイムといった優秀な格闘家を数多く発掘、これらのファイターが総合格闘技イベント「PRIDE」で活躍をしたことにより、日本でも格闘技の大ブームを巻き起こします。そのPRIDEの歴史は、高田延彦ヒクソン・グレイシーの一騎打ちに始まり、藤原組の船木誠勝や鈴木実(現:鈴木みのる)は、日本初の"完全実力主義のプロレス団体"として藤原組を"PANCRASE"へと発展させ、これまた日本の格闘技に大きな影響を及ぼした。
 
世界初の総合格闘技の大会(であると同時に、現在の総合格闘技界を総括するトップ・イベントとなった)、アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ…"UFC"アメリカで開催をされたのが93年ですから、その2年前に日本ではプロレスから派生した先鋭的な団体、選手によって総合格闘技を受け入れる地盤が作られていたことになります。
 
1991年というのは、格ゲーのヒストリーの始まりであると同時に、日本における総合格闘技のヒストリーの始まりの年であったんです。
 
 

■1995年のヴォルク・ハン


 
そして、現実世界の格闘技の歴史と始点を同じくする格ゲーは、そこから様々な影響を受けていくわけです。とりえあず、具体的なサンプルを一つ挙げさせていただくと、95年に「餓狼伝説」の続編である餓狼伝説3からシリーズに初登場をしたブルー・マリーというキャラクターがいるんですが、このキャラクターなんかは当時のRINGSで活躍をしていたロシアのヴォルク・ハンにリンクをしている。
 
<ヴォルク・ハン vs. レオン・フライ>

 
これは、当時のヴォルク・ハンの試合なんですが、この選手の代名詞といえば、やっぱり脚関節!
 
ソ連軍隊格闘術であった"コマンドサンボ"なる格闘技をマスターし、その複雑な関節技のテクニック、トリッキーな動きの数々から"関節技の魔術師"と称されたヴォルク・ハンですが、膝や足首の関節を破壊する脚関節は、その中でも特に強い印象をファンの間に残した一撃必殺の技。そして、このアクションを格ゲーに取り入れて生まれたのが、ブルー・マリーです。スライディングやジャンプで相手に絡み付き、一気に足や腕の関節を捻じ曲げる。
それまで、格闘ゲームといえば、打撃と投げ技が中心になっていましたが、そこに"関節技"という新しいエッセンスを加えたのがブルー・マリーというキャラクター。そして、そのブルー・マリーが習得していたコマンドサンボという格闘技を日本に知らしめたのがヴォルク・ハンであり、RINGSだった。
 
そして、95年というのは、ヴォルク・ハンがRINGSで行われた大規模なトーナメント「メガバトルトーナメント」で同団体の創始者であり、エースであった前田日明を下し優勝を果たした年。戦績としても、イメージとしても、コマンドサンボという格闘術が格闘技界で頂点を極めた年です。そして、その95年にコマンド・サンボのサブミッションをゲームの世界観に取り入れた「餓狼伝説3」がリリースされた…。
 
このように、実際の格闘技史と格ゲーのヒストリーは複雑に絡み合い、その影響を様々なポイントで見出すことができます。格ゲーを考える際に、こういった格闘技の歴史を参照してみると、また色々な発見があると思うのです。
 
 

■まとめ

このような形で"格ゲー"と"格闘技"。その2つのヒストリーをクロスオーヴァーして、格ゲーを考えることに最近ハマっています。
今回のエントリではその取っ掛かりとして、ホントのホントに触りの部分だけになってしまいましたが、更に踏み込んだ内容のエントリをコチラでいくつか書いてみたいと思っています。
 
ちなみに、冒頭で「スト2」や「餓狼伝説」と同じ年に生まれた、RINGS、UWFインターナショナル、藤原組(PANCRASE)ですが、その象徴であったキーアイテムの"キックレガース"を着けたキャラクターが現在大人気の「ストリートファイター4」に登場をしています。
 
■「ストリートファイター4」アベルのキャラクターデザインに見る総合格闘技の今昔
 
同じ年に世に生まれ、そして、21世紀に入っても格闘ゲームの世界に影響を与え続けているんですよね、これらの団体って。