「K」のクラブ・フィーリングに満ちた音楽と渋谷の風景描写について

 

 
テレビアニメ「K」の音楽が大変に素晴らしいのですよ!
 
そんなこんなで、これについて何かを書き残しておかねば! という謎の使命感に駆られて、本作の音楽にまつわるアレやコレを!!
 
 

■「K」を彩る"お洒落"なクラブ・ミュージック

「K」の劇中で流れるBGM…は、ヒップホップ、ハウス、アシッドジャズといったクラブ・ミュージック。どの曲もメロディーとビートが流麗で、非常に美しい…端的に言えば"お洒落"感に満ちたサウンドである。
シックで落ち着いた音楽に比べると、「K」という作品はギャグやアクションの要素も多いアニメ作品らしいアニメ作品だけど、不思議と画面と音楽がマッチングをしていて、観ていて何とも心地よい。
 
本作の音楽を手掛けているのは、遠藤幹雄さんという作曲家さんで、この方は音楽制作に加えて、DJやリミキサーとしても活動。United Future OrganizationやAKAKAGEといったクラブ・ミュージック界のクリエイター達とも交流のある方らしい。劇伴の作曲家さんの履歴をググってみれば、UFOなんてキーワードが飛び出してくる。こういった"音楽"の縦横無尽なクロースオーバーやユニークなピープルズ・ツリーを垣間見ることができるのも、今のアニメ音楽の醍醐味の一つということになるのでしょう。ロックやテクノ、クラブ・ミュージックといったポピュラー・ミュージックとアニメ音楽の距離は、僕らが10年前に捉えていたそれよりもずっとずっと密接で近いものになっている。
 

 
クラブ・ミュージックをアニメに絶妙に取り込んだ「K」だけれど、その音楽の"お洒落"さに加えて、画面やアクションのセンスの良さにも注目をしてみたい。
 
"クラブ・ミュージック"を意識して観てみれば、主人公の部屋の壁に浮かび上がる不思議なデザインのイルミネーションなんかも如何にも"クラブ"的であるし、「赤の王」に付く吠舞羅メンバーのプロスケーターのビデオをアニメーション化したようなスケボーシーンやファッションの数々も目を引く。
 
これらの要素は、一言で言えば"クール"。少し砕けた言い方をすれば、とにかく"シャレオツ"だ。こういった描写の数々が、音楽とも上手くマッチをしていて、おかげで、そのどちらかが浮いてしまうということがないのだろう。"絵"と"音"の非常に優れたバランス感覚である。
 
ストーリー面ではまだまだ謎の多い「K」だけど、音楽を聴き、画面を観ているだけでも何だか楽しめてしまう。本作のメインターゲット&ファン層になっているのは恐らく女性のアニメファンなのだけれど、そこから外れた自分でも毎回楽しく観ることができるのは、つまりはこういったセンスの良さに惹かれているのだろうなぁ、と思う。
 
 

■「K」が描いた音楽の街、渋谷

「K」というアニメの音楽…について考える上で、もう一点。第1話の後半〜第2話の冒頭で描かれた渋谷の街についても言及をしておきたい。
 
「K」の舞台は、高性能(?)のルンバ的な自動掃除機が登場をし、IDによる管理システムが発展を遂げ、ディスプレイやモニターなどの電子機器も高度な発達をしている、そんなほんの少しだけ"近未来"的な光景やガジェットが描かれる世界である。
 

 
そうした中で、渋谷の風景の中に、かつて、この街のシンボルの一つだったHMVの看板が登場をしたことは、書き記しておきたい。「K」の景色は、近未来的ではあるけれど、ここで背景として描かれた渋谷の資料は、外資系の大型レコードショップの一角を担っていたHMV 渋谷店」が存在をしていた90年代〜2000年代のそれということになるのだろう。
 
それっていうのは、つまりネットの発達によって音楽への接し方とマーケティングが大きく変わる以前の時代の渋谷ということだ。
 
iPodなんて無くて、音楽のメディアがCDとレコードだった時代。タワーレコードHMVが、ハウスやヒップホップなどのクラブ・ミュージックをメインにした「音楽の街、渋谷」のランドマークとしてデンと構え、宇田川の坂を上れば通好みのレコードショップが沢山ある。そうしたセレクトショップ的なレコード屋さんは、音楽販売のスタイルが変化したことで数年前から随分減ってしまったけれども…でも、HMVの看板がまだ残っている90年代的な光景を残したままの「K」の渋谷では、そうしたお店もまだ頑張っているんじゃないか…そんな気にさせられる。
 
この街のクラブ文化を支えた「CISCO」もこの光景ならば、きっとまだ残っているハズだ。そして、道玄坂のラブホテル街に行けば、クラブとライブハウスが沢山あるだろう。そんな音楽好きにとっての"渋谷"の深みと奥行きについてイマジネーションを広げてくれる「K」の風景描写。
 
深読みをするならば、「K」の"音楽"に対するこだわりというのは、こうした場面にも表れているのかなぁ、などと思う。
 
例えば、1話ラストのクロがシロに刀を向けるシーンで、BGMに背景の大型モニターから暢気な歌謡曲が流れる場面とか本当に見事でしたよね。アレは、要するに緊迫した場面に、ポップなものを並走させるというコントラストを狙った演出だったんでしょう。であると同時に、アチコチに新譜や音楽イベントのプロモーションが流れていて、しかも、そのジャンルが多岐に渡っているという如何にも渋谷らしい風景も再現をされていた。
 
ももいろクローバーZ」の巨大なポスターの横にあるモニターから、ディープなハウスイベントの告知スポットが大音量で流れている、渋谷という街の節操のなさ。クラブ・ミュージックとギャグやお色気が同時に存在する「K」という作品にも通じるフィーリングがあって、あのビルの屋上の場面は、大変におもしろかったです。
 
 

■最後に一言

今まで自分が触れる機会のなかった女性向けの作品(白泉社の少女漫画原作のアニメとはまた違うカルチャーの)で、こういった素晴らしい音楽に出会えたのは自分にとっても非常に新鮮かつ驚きの体験でした。絵の流麗さに加えて、サウンドトラックのリリースも楽しみな作品ですね、「K」は。