「ガールズ&パンツァー」に出てきたポスターから伝わる地元愛

 

 
今回のエントリでは、ガールズ&パンツァーをネタにして、プロレスの話をアレやコレやと!
 
 

■劇中に登場をしたプロレスのポスター

ガールズ&パンツァー」第4話「隊長、がんばります」。戦車で市街戦→敗北→あんこう踊りで晒し者に→ショッピング→実家から勘当…という異常に濃密な主人公たちの一日を描いたエピソードでしたね。アレくらいの濃度の高さこそが、まさに彼女たちにとっての"青春"ってヤツなのでしょう。テンポの良いシナリオ展開と丁寧に描かれた戦闘シーン、内面描写が同居する「ガルパン」ですが、第4話はその魅力が色濃く出た回だったと思います!
 
ところで、大のプロレスファンである自分がこのエピソードの中で気になったのがコレ!
 

 
劇中に登場をしたショッピング・モールに貼られていたプロレス興行のポスターです。
 
…重箱の隅をつつくような細かい指摘でスイマセン。でも、プロレスファンってヤツは、"プロレス"と名の付くものを見つけたら、思わずピックアップせずにはいられない人種なのですよ…。
 

 
さて、このポスターを見てみると、先ず一番最初に「ビアガーデンプロレス」という興行名が目を惹きます。横には「オーアライダー、只今見参!」のコピー。
 
ちょっと気になったので、調べてみたんですが、このオーアライダーというプロレスラー、何と実在をしているようです! オーアライダーが所属をしているのは、茨城県で活動をしている地域密着インディー団体「ごじゃっぺプロレス」。茨城のローカル新聞でも、そのデビュー戦の様子が報じられていました。
 
■大洗に新ヒーロー登場−ご当地プロレスラー「オーアライダー」デビュー戦飾る
 
<ごじゃっぺプロレス / オーアライダーデビュー戦>



 
オーアライダーは、「ガールズ&パンツァー」の舞台である港町、大洗町の海産物をモチーフしたマスクマン。マスクのモデルになっているのはカジキで、タイツには地元の特産物であるシラスのイラストをプリント。大漁旗をマント変わりに入場をする覆面レスラーだそうです。
 
 

■日本中にあるローカルインディープロレス団体

新日本プロレス全日本プロレスといったメジャー団体、或いは、DDT大日本プロレスDRAGON GATEのような準メジャーのインディー団体の他にも、日本には沢山のローカルインディー団体、地域密着型のアマチュアプロレス団体が存在をしています。
 
例えば、ローカルインディープロレス団体の先駆け的な存在である東北のみちのくプロレスや、そのみちのくから枝分かれをしてできた大阪の大阪プロレス、更にその大阪プロレスを立ち上げたスペル・デルフィンが再度独立をして沖縄で旗揚げをした沖縄プロレス(ただし、こちらは今年に入って団体としての活動を停止)、みちのく出身のTAKAみちのくが千葉県に設立をしたKAIENTAI-DOJOなんかが有名どころ。もうちょっと、マニアックなところになると福岡の九州プロレスプロレスリング華☆激、長野の信州プロレス、愛知県のチームでらなどなど、アマチュアも含めると実は日本中に一杯あるんですよ、プロレス団体って。
 
こういった団体では、趣向を凝らして地元の特産品や名物をモチーフにしたマスクマンをプロデュースすることが多いんです。これまた実名をいくつか挙げさせていただくと、大阪プロレスでは阪神タイガースをモチーフにしたタイガーマスクのパロディーレスラーであるタイガースマスク通天閣の名物であるビリケン様をマスクとコスチュームのデザインに盛り込んだビリーケン・キッドといったレスラーが活躍をしていますし、沖縄プロレスには、シーサー王、怪人・ハブ男(現在のリングネームは"HUB")、ミル・マングース、めんそ〜れ親父…のようなリングネームからして地元色いっぱいのマスクマンが所属していました。
 

<それぞれ、シーサーとハブをモデルにした沖縄プロレスの覆面レスラー、シーサー王と怪人・ハブ男。地方のインディー団体には、こうした個性豊かなマスクマンが大勢います。>
 
オーアライダーも、こうした地方色の強い、ローカルインディー団体ならではのご当地マスクマンと言えるでしょう。
 
また、ごじゃっぺプロレスには、DDTの選手やフリーの選手も多数参戦をしていて、団体の代表でもある吉田充宏選手は他団体とも積極的に交流、DDT茨城大会のプロモーター、廃墟や富士山頂などの様々なスポットでプロレスを行う"路上プロレス"のプロデューサーとしても活動をされているようです。
 
■2011年7月2日 資材置き場プロレス 観戦記
 
上記のリンク先には、吉田選手が手掛けた資材置き場でのプロレス興行の観戦記が。もう何て言うか、ハチャメチャですね(笑)。でも、こういう地元密着のプロレス興行や破天荒な試合をできるのが、インディー団体の強さであり、魅力なんです。
 
ごじゃっぺプロレスでは、飲食を楽しみながらプロレスを観ることができる「ビアガーデンプロレス」も行っているそうで、つまりは、あの「ガルパン」のショッピングモールに出てきたポスターというのはフィクションのものではなくて、このごじゃっぺプロレスを作品世界の中で正確にトレースしたもの…ということになるのでしょう。実際、第4話のエンディングでは、ロケ地となった大洗リゾートアウトレットや旅館に並んで、ごじゃっぺプロレスの名前が"スペシャルサンクス"としてクレジットをされていました。
 
 

■「ガールズ&パンツァー」とごじゃっぺプロレス

プロレスネタが出てくるアニメは数あれど、ローカルインディー団体がアニメに登場をするなんて、これはなかなかのできごとです。
 
とはいえ、大洗町という「ガルパン」のモデルになっている町の地方色を出す為の演出術として、地元のプロレス団体をピックアップするというのは、なかなかにユニークなアイデア、視点だと思います。こういう地元密着のインディー団体って、ホント、地域色が強く出ていますからね。
 
ガールズ&パンツァー」では、背景に大洗の町並みや観光スポットが再現をされ、街の特産物である鮟鱇が度々フィーチャーをされていますが、このごじゃっぺプロレスとオーアライダーの抜擢も、ガルパン」という作品の大洗町への愛…地元愛が生み出した描写だと言えると思います。ロケハンや特産品に加えて、プロレスで地域色を出そうという試みは如何にもユニークでおもしろい。
 
背景に描かれたポスター一枚からも、地元愛や作品世界へのイマジネーションが膨らんでくる。"戦車"というメインモチーフに注目が集まりがちな「ガールズ&パンツァー」ではありますが、こうした細部にも様々な魅力が詰まっている、そんな作品と言えるのではないでしょうか?
 
 

■おまけ

完全に蛇足なんですが、最後にもう一点だけ! プロレスファンとしては、この作品世界の中で"プロレス"という文化が存在をしているという事実にも注目をしておきたいと思います。
 
ガルパン」は、"戦車道"というキーワードを軸にストーリーが展開し、女の娘が戦車に乗り込んで試合をするという、ややぶっ飛んだ世界設定のアニメ作品ですが、そんな作品世界の中で現実の世界と同じく、プロレスが大衆娯楽として存在をしている。第4話では、戦車の市街戦に熱狂する町の人々の様子が描かれていましたが、あのオジサン達も昔は長州と藤波の名勝負数え歌に熱狂し、タイガーマスクの華麗な四次元殺法に胸を熱くしていたタイプの人たちなんでしょう。
 
つまり、戦車が街の中を走ったり、やたらとミリタリー関連のショップがある以外は、我々と同じ文化、感覚の中で生きているハズなんですよね、あの作品の中の人たちって。
 
そりゃ、家族のことで悩んだりもするし、友達ができれば嬉しいし、女の娘なんだから戦車に乗っていても甘いものは食べたい。「ガルパン」では少女たちの青春、若者としての人間ドラマの部分を描くことにもエネルギーと情熱が向けられていますが、こういう細かい部分も作品としての魅力に繋がっていっているのかな、と。