「魔法遣いに大切なこと〜夏のソラ〜」は極上のロードムービー



今期から始まったテレビアニメ「魔法遣いに大切なこと〜夏のソラ〜」が素晴らしいです。


「魔法遣いに大切なこと〜夏のソラ〜」オフィシャルHP


この感動を他の人とも分かち合うと、ネットで色々と検索をしてみたのですが、評価が極端に二分されているような印象を受けました。え〜、あんなにおもしろいアニメなのに…。
作品を観た感想は人それぞれ。百人いれば百人の感想があるわけで、そこで評価がばらけるのは当然のことなのですが、ちょっと気になったのは、否定派の人たちの意見の中で「背景」に対するコメントばかりが目につく点です。
例えば、以下の様な…。


魔法遣いに大切なことの作画がすごすぎwwww


う〜ん、そこばかりじゃなくて、内容をぜひ見て欲しいのに〜>_<
…と、自分の好きなものを必要以上に人に進めたがる自分のようなおたく気質の人間は思うわけです。このアンチの人たちの「演出や技法ばかりを評価の対象にして、内容をなかなか評価しない」という感じは、非常にもどかしいですね。
僕は、「魔法遣いに大切なこと〜夏のソラ〜」は、良くできた極上のロードムービーだと思います。




ロードムービーとは何か?
早い話が、主人公が劇中で長距離の旅をする映画ですね。
魔法遣いに大切なこと〜夏のソラ〜」では第一話で、主人公が地元の北海道を離れるまでが、第二話では東京に辿りつき、瑞々しい感性で下北沢の街並みを散策する様子が描かれていました。
こうした描写がジム・ジャームッシュヴィム・ヴェンダースの作品を好む自分には、見ていて非常に気持ちが良いのです。

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ロードムービーの魅力って何だろう?
まぁ、ロードムービーと一口に言っても、前途したジャームッシュヴェンダースのような作家の作品から、バイオレンスを全面に押し出したデヴィッド・リンチの「ワイルド・アット・ハート」、リドリー・スコットの「テルマ&ルイーズ」「トゥルー・ロマンス」(後者の脚本は、クエンティン・タランティーノ)、近年の傑作「リトル・ミス・サンシャイン」のようなコメディーもの(でも、泣ける!)など、作風は様々です。「男はつらいよ」の寅さんだって、年がら年中日本全国を旅しているわけですから、ロードムービーっちゃあロードムービーかもしれませんね。


ロードムービー―wikipedia


魔法遣いに大切なこと〜夏のソラ〜」は、その中でもジャームッシュヴェンダースの諸作品に近いエモーションを感じます。
ロードムービーの魅力は何と言っても、道中の風景描写です。「パリ、テキサス」で異邦人である監督がフィルムに切り取ったアメリカの風景の美しさを観ていただければ、これは納得していただけると思います。小林治監督も、その辺を分かっていて、「ああいう」背景作画を行っているのかもしれませんね。ちなみに、個人的に第一話で大きなインパクトがあったのはこのシーン。





東京へ旅立つ前日、主人公の鈴木ソラが親友と話をするシーンです。このシーンでは、一瞬主人公達がどの位置にいるの分かりません。視聴者には延々声優さんの声だけが聞こえてくる、というアニメとしてはビザールな空間が生まれます。実は、橋の下で話をしているんですが…。





これじゃ、なんだか分かりませんよね^^;
ただ、小林治監督はこういう演出を行う、作家性の強いアニメ監督であるということを頭に入れておかないと、この作品の本質を見抜くことはできないと思います。
ジム・ジャームッシュの名作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」が日本で初公開された際に、いわゆる売れ線の映画とは異なる映像描写や、演出の数々に賛否両論だったと聞きます。ん〜、この辺に本作との共通項を感じてしまうといったらいい過ぎでしょうか?




ロードムービーはロックとの相性がいい。
ロードムービーとロックは何故か相性が良いです。それこそ、「イージー・ライダー」の「ぼ〜〜〜んとぅ〜び〜わ〜〜〜〜いど」に始まり、「ダウン・バイ・ロー」で主演をこなしたトム・ウェイツに至るまで。何故か、ロックとロードムービーは切っても切れない関係にあります。きっと旅の郷愁と、ロック・ミュージックのエモーショナルが、人の心を掴んで離さないのです。
魔法遣いに大切なこと」でも、舞台が下北沢ということもあり、作品にはロック、ロック的なものが溢れています。
「初台WALL」でのライブ告知のフライヤー、駅前でムーン・ライダースを唄うストリートミュージシャン、雑貨屋の店頭に置いてある椅子に貼られたPublic Image Limitedのステッカー、壁に飾られたThe DamnedルースターズのLP…。
こうしたアイテムの一つ一つが、ロック好き、映画好きの心を掴んで離さないのですよ。
そういえば、ロマンポルシェ。掟ポルシェさんが、「BECK」に引き続き声優として参加されていますが、ミュージシャンの様にプロのアクターを作品に使わないっていうのは、ジム・ジャームッシュの初期〜中期の作品で、よく使用していた手法ですね。




■で、旅の過程で人はどうなるの?
作品的にはきっと、これから東京の街に出てきた主人公の成長が描かれていくことと思います。見知らぬ土地で見知らぬ人と出会うこと。これは大きな旅の醍醐味です。「魔法遣いに大切なこと〜夏のソラ〜」という作品の中で主人公がどのような成長を遂げるのか?
皆さん、温かい目で見守っていこうじゃないですか。