「鉄腕バーディー DECODE」は青春恋愛ストーリーの傑作だ!

 
7月から始まったアニメが最終回を迎え、10月からは新番組が…っていう時期ですね。
 
今期は、おもしろい作品がたくさんあったんですけど、特にググッと引っ張られたのが、赤根和樹監督の「鉄腕バーディー DECODE」でした。 
 
僕は、赤根和樹監督の「ノエイン もうひとりの君へ」が本当に大好きで。
 
重厚な人間ドラマ、ケレン味の効いた、かつハイ・クオリティーなバトル・シーン、劇中に散りばめられた魅力的な謎の数々、そんなハードな作風にも関わらず、決して萌え要素を忘れないサービス精神、そしていくつもの伏線をものの見事に回収した上で、劇的なラストを迎えた最終回…。
最期に、「僕の大切な人を奪いにきたのは、僕だった」という番組放送開始時からのキャッチコピーの本当の意味が分かった時は全身に鳥肌が立ちました!
 
赤根監督の新作が、ゆうきまさみのSFアクションの古典(リメイクされてますけど)「鉄腕バーディー」のアニメ版だと聞いた時は、本当に飛び上がるくらい嬉しかった。
 
で、期待通りにアクション・シーンはバーディーさんが動きまくるし、何故か「地球上では『有田しおん』というアイドルとして潜入捜査をしている」という設定が追加され(笑)。
 

 
さすが赤根監督! ファンが見たいものを分かっていらっしゃる! などと嬉々として「バーディー」を見続けていたんですね。
 
ところがアニメの中盤辺りから何だか様子が違ってくる。
 
アクション・シーンや大立ち回りはどんどん減っていき、アニメ版オリジナル・キャラクターである中杉さんとつとむの恋愛描写にストーリーの主軸がどんどんシフトしていくんです。
 
原作だとキャラクターがもっと立ってる須藤や早宮さん、漫画版のキーパーソンである千明(このキャラクターのアニメでの改変は原作読んでると特に「え〜〜!」ってなりますよね^^)がアニメ版では、ただの脇役になってしまっているし、件の「バーディーが地球ではアイドル」って設定も何だかおざなりになってくる。
 
それもそのハズで、「鉄腕バーディーDECODE」は、主人公である千川 つとむと悲劇のヒロイン中杉 小夜香のラブ・ストーリー、「君」と「僕」の物語なので、その物語の中では「君と僕」以外の他者の存在っていうのは(時には、つとむと身体を共有している主人公、バーディー・シフォンですらも)あまり意味をなさないんですね。
アニメ版の、こうした世界観は原作の重要なガジェットである、つとむとバーディーの「身体の共有」という要素すらも終盤で無効化します。
 
そして、そういった「鉄腕バーディー DECODE」の方向性は、最終回に向けて一気に物語が加速する、第11話の「BYE BYE BUDDY」というエピソードに最も強く表れているんです。
 
 
■「BYE BYE BUDDY」の凄さ〜バーディーとつとむの関係の変化を描くAパート〜
 
中杉さんのおじいさんが殺害され、彼女の周囲が激変するのと同時に、彼女が謎の兵器リュンカに寄生されていることを、バーディーが確信するのが第十話のラスト。
つとむの中杉 小夜香への思いを知っているバーディーは、その事実をつとむに伝えられず、時間だけが過ぎていきます。
 

 
大切な人を守ろうと決意したつとむは、自分の中にいるバーディーにお願いをします。
 
「中杉さんを守りたい。力を貸して欲しい!」
 
と。
 
土下座をして頼み込むほど、必死なつとむ。つとむとバーディーは「二心同体」なので、この場面でつとむは何もない空間に向かって土下座をしていることになります。
この時点ではまだ、身体を共有しているという特殊性をギャグのように使っているわけです。そして、こうしたギャグ・センスこそが「鉄腕バーディー」という作品の本来の魅力でもあります。
 



 
このシーンも同様に、ギャグテイストが強い場面です。
つとむの純粋すぎる思いに耐えられなくなったバーディーは、「中杉 小夜香にリュンカが寄生している」という事実を伝えます。ところが、中杉邸の看視の疲れで、つとむは肝心な話を聞くことなく眠ってしまいます。
物語は最悪な方向に向かって進んでいるわけですが、この場面でこうした「笑い」のセンスを持ってくるところが凄まじい。
作り手のセンス…というか、悪意にすら感じるのは僕だけ?
  
 
 
そして、今度こそ本当に、中杉 小夜香の秘密をつとむに伝える重要なシーン。
一つの身体に共存していた為に、決して顔をあわせることがなかった二人が、鏡を介して「対面して」話をします。
鏡を使った演出というのは上手いですね! さらに、バーディーとつとむの人格が衝突しているというのが、視覚的に一発で分かる。
こういう見せ方ができるというのは、映像、絵作りに対しての相当なこだわりを作り手が持っているからこそ、だと思いますね。
 
余りにも過酷な現実を突き付けられ、またバーディーの捜査方法に不信感を抱いたつとむは、思わずバーディーを拒絶します。
 

 

 
直後に、つとむの身体は宇宙連邦によって修復され、つとむの精神はバーディーの身体を離れ、彼自身の身体に帰ってきます。
 
ここまでが、ほぼAパート。
30分アニメの前半だけで、つとむとバーディーの身体の共有→精神の乖離→肉体・精神の分断までを描ききったわけです。と、同時に中杉 小夜香と千川 つとむの物語から、上手いことバーディー・シフォンというキャラクターを退場させました。
しかも、恐らくアニメでそれらを表現するために、最も冴えたやり方、見せ方で。
 
が、これがまだエピソードの前半にしか過ぎないのです。
鉄腕バーディーDECODE」が描こうとしているのは、中杉さんとつとむのラブ・ストーリーです。Aパートで描かれた、つとむとバーディーの関係の変化と対比を成すように、Bパートでは中杉さんとつとむの関係が描かれます。
 
 
■「アニメだから」で観ないは勿体ない! 切なすぎるラブ・ストーリー
 
自分の身体に戻ったつとむの前に、突然の来訪者が現れます。
 

 
中杉 小夜香
 


 
中杉さんを守るため。
つとむは、「遠くへ逃げよう!」と中杉さんとの逃避行を試みます。
バーディーの身体を離れた今、つとむはもはや超人ではありません。
どこにでもいるごく普通の、一介の男子高校生に戻ってしまっているにも関わらず、純粋な気持から、大切な人のために後先省みない行動に出たのです。
 

 
まるで、ロード・ムーヴィーの如く、行き先も決めないまま地下鉄に乗り込んだ二人。
 
「なんだか、逃亡者って感じね、どこへ逃げようか?」
 


 
悪戯っぽく尋ねる中杉さんと、現実に引き戻されて困惑するつとむ。
 




 
「逃げる練習」のために、車内で追いかけっこをする二人。束の間の笑顔が切ない…。
 
ところで、この後、中杉さんの口から「ボニー&クライドみたいね」というセリフが出ます。
「ボニー&クライド」とは、アメリカン・ニューシネマの傑作「俺たちに明日はない」に登場するカップルの名前です。

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ここでアニメのキャラクターの口を通して、実写映画のキーワードが語られたのは非常に重要だと思います。
先ほど、つとむと中杉さんの逃避行を「ロード・ムーヴィーの如く」と書きましたが、恐らくスタッフもその辺りは意識してやっている、というのが分かるセリフですね。
ちなみに「俺たちに明日はない」は実話を元に制作された映画。ボニーとクライドのカップルが行く先々で銀行強盗を重ねがら旅をするものの、ラストで警官隊の一斉射撃を浴び蜂の巣にされて死んでしまう、という果てしなくやるせない映画です。
(まぁ、アメリカン・ニューシネマと呼ばれる映画自体が、ベトナム戦争などの時代の閉塞感を反映した、やるせない映画ばっかりなのですが…)
 
もう、そんな映画のタイトルとか出されたら…。二人の境遇と思わず重ねてしまって…。
これは、もう「泣くな!」って言う方が無理でしょう。「スタッフ、ズルいな〜」とか思いながら、僕はしっかり泣きました。
パステル・カラーのような明るい色彩の作品世界とは、ほぼ真逆に位置する「俺たちに明日はない」のキーワードが出てくるのも意外性があって良いです。
 

 
でも、現実は映画のようには行きません。
高校生にできることなんてたかが知れています。
中杉さんは、つとむよりもずっと大人でした。自分の運命を受け入れた彼女は結局、つとむの手の届かない場所に行ってしまいます。
 

 
このBパートにおける、つとむの青臭くも、ひたむきな行動、そして過酷な運命すらも克服しようとする中杉さんの健気さは、本当に見ていて切ないです。
 
いや、正直これがアニメという表現ジャンル故に、この作品で描かれるラブ・ストーリーが届かない層がどうしてもでてきてしまうのだ、という事実が僕は惜しくて仕方がないです。
 
「アニメだから」っていう理由で「鉄腕バーディー DECODE」を見ないのは勿体ないですよ!
 
この11話は、Aパートはアニメ、漫画っぽく、Bパートは実写映画のように撮ろうとしている感じがするんですよね。
それがチグハグにならずに、結果非常に物悲しい純愛ストーリーとなっているところに、この作品の魅力を、ひいては赤根和樹というアニメ監督の凄味を感じます。
 
ちなみに、この「BYE BYE BUDDY」というエピソードでは、バーディーのアクション・シーンはありません。
 
鉄腕バーディー DECODE」の最大の魅力であり、物語の核となるのは、派手なアクションや戦闘シーンじゃなくて、…ましてや有田しおんの萌え要素でもなく、主人公である千川 つとむと、兵器と化してしまった悲劇のヒロイン中杉 小夜香の切ないラブ・ストーリーなんですよ。
 
始まる前は前途したように、赤根監督らしいド派手なSF活劇が繰り広げられるものだとばかり思っていたのに…。
考えてみれば「天空のエスカフローネ」も「ノエイン」も、物語の根幹を成すのは、ラブ・ストーリーなんですよね。
 
その手の話は敬遠しがちなアニメ・ファンをここまで熱狂させるとは、赤根監督恐るべしですね…。
 
原作のおもしろさとは異なる魅力で勝負をし、そしてそれがことごとく成功したという点で、やはり「鉄腕バーディーDECODE」というアニメは間違いなく傑作であると思います。
こりゃ、来年から始まる2期も楽しみだ!
 
ちなみに、つとむと中杉さんの恋の行方ですが、アニメ未見の方は、これは最終回を見てのお楽しみで。
僕は、凄く好きな最終回でした。