アニメのオープニングは本編ほどに物を言う - 「RIDEBACK」のOPを考える

 
アニメの「RIDEBACK」が、もう本当に素晴らしくてですね。

ビデオに録画した本編を頭から、ず〜っと見返しているんですけど、劇中で描かれるライドバックの疾走感や高揚感と、主人公である尾形琳が歩むドラマティックな運命が見事にシンクロしていて、何度見ても興奮と感動で涙が出てしまいます。
 
春からの新番組も、もちろん見てはいるんですが、当分の間「RIDEBACK」熱は自分の中で冷めそうにないです!*1
そこで、今回は、自分が「RIDEBACK」を見返していて気づいた、オープニングの演出について書いてみたいと思います。
画像が多いのと、アニメ本編のネタバレもあるので、本文は隠しておきますね。
 
 

■アニメ作品におけるオープニングの役割

いや、「RIDEBACK」のOPって変なんですよ。
 
そもそも、アニメ作品におけるオープニングの役割って、キャラクターの顔見せにあると私は思うんです。
オープニングの楽曲に合わせて、メイン&サブのキャラクターを効果的に配置することによって、視聴者にキャラクターを見せて、その性格や魅力なんかのニュアンスを伝える。キャラクターがそのままアニメ本編の人気に直結することも多い、いわゆる「萌えアニメ」なんかで、こうした見せ方っていうのは非常に巧みに盛り込まれます。
 
■Youtube - 「明日のよいち!」OP meg rock / 笑顔の理由
 
RIDEBACK」と同じ時期にTBSで放送されていたアニメ「明日のよいち!」のOPなんですが、各キャラクターが過不足なく配置されていて、見る者の本編への期待を高めます。オーソドックスな構成ながらも、「これぞ、アニメのオープニング!」と言いたくなるような明快なOPですよね。
 
一方、「RIDEBACK」のオープニングは、どうかというと…。
 
■Youtube - 「RIDEBACK」OP MELL / RIDEBACK
 
1分と30秒間。アニメのOPは、愛機フェーゴに乗ってハイウェイを走る主人公、尾形琳の姿を描き続けます。この間、主人公以外のキャラクターは登場しません。
 
もちろん、OP曲であるMELLさんのデジタルビートを駆使した楽曲と、ハイクオリティーなアニメーションで疾走する「RIDEBACK」のスピード感に満ちたOPはそれだけでも十分に素晴らしく、他のキャラクターが登場しないからといって、そこに物足りなさみたいなものは感じられないわけですが、アニメ本編の導入部であるOPで、敢えて主人公の姿しか描かないというのは、やはりそこにある趣の意匠というか、特別な描きたい「何か」が存在していると思うんです。
 
 

■「RIDEBACK」が描いた「絶望」と「再生」

その「何か」を考える上で、重要になってくるのが、アニメ本編のテーマです。
RIDEBACK」のテーマは、挫折や恐怖や喪失といった「絶望」からの「再生」だと私は思います。
 
主人公の琳は、物語が始まる以前…愛機となるライドバック、フェーゴに出会う前に、自身の全てだったバレエの世界で、大きな挫折を経験しているというキャラクターです。
フェーゴとの邂逅を果たすことによって、彼女は新たな希望を見出しますが、彼女にとって新たな「光」となるはずだったフェーゴとの出会いは、彼女を過酷な運命へと巻き込み、結果的に深い絶望と喪失感を与えることになってしまいます。
 
RIDEBACK」は、「絶望」と「再生」を主人公に反復させることによって、単純な成長物語にとどまらない深い奥行きを物語に与えています。そして、そこからの「再生」の過程こそが「RIDEBACK」という作品の大きな魅力でもあります。
 
 

■「RIDEBACK」オープニングのストーリー性

この「絶望」と「再生」を最も象徴的に表現しているのが、OPの90秒間のアニメーションなんです。
RIDEBACK」のオープニングは、非常にストーリー性に満ちています。というか、アニメ本編そのものを90秒間に凝縮している、といっても過言ではないと思います。
 
具体的に、どのような描き方が行われ、それらが何を表現しているかを見ていきましょう。
 

 
まずは、イントロ。ハイウェイの暗闇の中、フェーゴのヘッドライトが目の前を照らします。
アニメ本編でも、「光」は琳の希望や、新たな運命の暗喩、あるいは重要なキーワードとして、劇中で象徴的に描かれていました。ですので、このオープニングの「光」の表現は、そのまま、フェーゴとの出会いによって生まれた、主人公の新たな希望を表現していると考えてよいと思います。
そして、「光」は、主人公がフェーゴと出会う前に抱えていた絶望感の象徴である「闇」を照らしていきます。
 

 
タイトルでは、琳とフェーゴの行く末に、光が見え始めます。
主人公が進むべき、新たな可能性としての「光」。そこまでの、道のりを照らし、闇に光を灯しているのはフェーゴのヘッドライトです。
 

 
淋のヘルメットに、向かうべき方向から放たれる光が反射します。その光に向かって、更に加速をする琳。
 

 
フェーゴのヘッドランプは、更に力強く暗闇を切り裂きます。
これは、フェーゴと出会うことで新たな希望を見出した主人公の心理と、頼るべき相棒としてのフェーゴの強さの表現だと思います。
 


 
過去を断ち切るかのように、光に向かって一直線に向かっていく、琳とフェーゴ。
 



 
少しずつ段階的に画面に光が差していき、やがて琳とフェーゴを光が包み始めます。
 

 
フェーゴの力を借りて、新たな光…希望に到達しようとしている淋。ここで、フェーゴが二足形体に変形をして停止、琳の視線は更に遠くに向けられます。
自分の考え過ぎなのかもしれませんが、フェーゴの停車、背を伸ばし真っ直ぐに視線を送る琳、そして何より「STANDING FORM」っていう液晶盤の表示が、そのまま琳の自立を表しているような気がするんですよ。ロボットの変形のギミックを見せつつ、そこまで計算してやってるんじゃないかって。
 

 
フェーゴの力を借りて、暗闇を脱し、新しい希望、「光」に到達したかに見える琳。しかし、その瞳に、映るものは…。
 

 
自身の「未練」であるバレエ。ステージを照らす、強烈なスポットライトは、かつての自分が目指していた栄光や夢や希望を表現しているのだと思います。
 

 
そして、目の前から大切な人を奪うことになる武力、権力…。再び、主人公を絶望の暗闇に陥れるがごとく、それらは夕焼けを背景に描かれています。
 

 
アニメ本編で琳は、フェーゴの力を借りて、一度は新たな希望を掴んだかに見えました。ところが、実際はそこから再び、絶望の淵に陥れられ、深い喪失感を味わうことになりました。
その脅威が、琳のヘルメットに映り込みます。
淋の目に注目です。このシーンでは、ヘルメットを被っているので、顔や表情での感情表現って限られているはずなんですよ。それでも、大きく見開いた眼だけで、恐怖や狼狽、迷いを見事に描いています。
 

 
そして、その瞳は、次の瞬間には、過去を振り切り、何かを決意したかのような、力強い目つきへと変わります。
 

 

 
ラスト。ヘルメットを外し、遠くに見える朝日の輝きを、真っ直ぐな瞳で見据える琳。未練や恐怖を断ち切った少女の、力強い目線。
街を、フェーゴを、そして淋自身を照らす光は、物語のラストで彼女が掴んだ本当の「光」なのか…。
この僅か90秒間のオープニングの描き方だけで、見る者に非常に力強いエモーションが伝わってきます。
 
 

■エモーションに満ちた「RIDEBACK」という作品に相応しいOP

RIDEBACK」という作品は、ロボット、SFアニメにも関わらず、非常にエモーショナルな作品だったと思います。
 
ライドバックのスピーディーな走行シーンや、中盤以降のハードなミリタリー展開を用いながらも、「RIDEBACK」の本質であり最大の魅力は、主人公、尾形淋の「再生」の物語です。
 
そして、その中でキーワードとなった「光」の表現を用いながら、90秒間のオープニングにすら、その本編の魅力と物語の眼目を描ききる「RIDEBACK」というアニメの表現の巧みさに、自分は嘆息する以外ないです。
 
フォーマットが限られているオープニングのアニメーションでさえも、物語性を持たせて、人間のエモーションに働きかけるモノを作ることができる。
私は、何度見ても、「RIDEBACK」のオープニングのアニメーションを、MELLさんの歌を聴く度に、私は眼とハートに熱いものが込み上げてきます。
 
普段何気なく見ているOPのアニメーションにも、そこにはやはり、アニメの可能性や魅力の一つが存在しているように思います。本当に、アニメって凄いですよね…。
 
 
 
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