アニメ作品での作曲家の仕事って? - 音楽と演出の重要性
ポッドキャストで配信をされている「アニメ会の『ヲタめし!』」という番組を愛聴しています。
■アニメ会の『ヲタめし!』
「ヲタめし!」は、アニメや漫画が大好きな芸人さんが集まってやっているトークユニット「アニメ会」が、毎週アニメや漫画の話を面白おかしく、かつ熱く語るという番組です。
アニメ会は、このwebラジオの他にも、定期的にトークライブを行ったり、秋田書店や三才ブックスなんかが出しているオタク系の雑誌でコラムを書いていたり、声優さんやアニメのイベントを司会を行ったりで、オタク界隈で精力的に活躍をされています。
そんなアニメ会がやっているwebラジオ、「ヲタめし!」。
5月19日の配信回のゲストが、アニメ「RIDEBACK」で音楽を担当された作曲家の和田貴史さんでした!
「RIDEBACK」! 私、メチャメチャ好きなアニメなんですよ。本放送を見ている時から、ストーリーの素晴らしさに加えて、劇中のBGMにいつも涙腺を刺激されていたので、その作曲家さんのお話が聞けるなんで、本当に感動モノです。
■第63回 久々のゲスト登場です!(アニメ会の『ヲタめし!』)
上記のリンクにとんでいただければ普通に内容を聞けるのですが、非常に話がおもしろかったので、自分へのメモという意味も含めて、興味深かった点を文字起しします。
ちなみに、聞き手はアニメ会のサンキュータツオさん(オフィス北野所属の漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当)、ピン芸人の国井咲也さん、同じくピンで活動をされている比嘉モエルさんのお三方です。
(以下、敬称略)
■アニメ作品における絵と音楽の合わせ方
アニメを見ているだけでは、なかなか分かりづらい作曲者の仕事。そもそも、アニメ作品における音楽の良し悪しって何? どこに注目をして見ればいいの? その辺りの疑問を、和田さんは非常に分かりやすく解説してくれます。
タツオ「アニメって音楽が占める要素って大きかったりするじゃないですか。でも、俺ら分かんないじゃん、どういう仕組みになっているかとか。(中略)このアニメの音楽スゲエなぁっていうのは、どういうところから感じればいんですか?」
和田「あ〜…あの、二つあって、作曲者が作った音楽が先ず良いってことはあるんですけど」
タツオ「曲そのものが良いと」
和田「えぇ。というのもあって、それともう一つ別に、アニメとかではやっぱり演出ですよね。このシーンでこの音楽をあてるっていう選び方、選曲の仕方…」
タツオ「あぁ、そのシーンに合った曲を」
和田「えぇ、やっぱり演出家さんも凄い重要なポイントなんですよね」
で、聞き手も本業は芸人さんなので、ちょっとくだけた裏話的な話も飛び出します。
タツオ「普通ね、アフレコの時ですら絵が上がってないとかよく聞くじゃないですか」
国井「噂に聞きますな」
和田「(笑)」
タツオ「音楽をつける時なんて、そのシーン上がってきてないでしょ?」
和田「大体、ないですね」
タツオ「大体、ないですよね? どうやって(音楽を)あてるんですか?」
和田「絵コンテが、ちょっとあって…」
タツオ「ちょっとあって(笑)」
国井「ちょっとなんですね(笑)」
和田「四コマ漫画みたいな」
比嘉「言っていいのかな〜コレ〜」
タツオ「これ、『RIDEBACK』の話じゃないです! 別のことですよね、一般論です!」
絵コンテが「ちょっと」って!(笑)
アニメ作るって、やっぱり時間的に大変なことなんですね。それで、あんなに人を楽しませたり、感動させたりできるんだから、本当にアニメの製作者って凄い!
とはいえ、不思議なのは絵もないのに、どうやって音楽を作っているのか、そして作った音楽が何故あそこまで映像とシンクロしているのかです。
和田「絵コンテがあって、脚本があって。まぁ、脚本だけだと文字だけなんで、映像やスピード感とかは分からないんで…」
タツオ「そうですよね、それ一番重要ですよね?」
和田「映像のテンポ感とかは一番重要で、それがズレてしまうと音楽とか全く合わなくなっちゃうんで」
タツオ「ということは、絵コンテと脚本を読んで脳内で映像を構成して、まぁ演出家とかの話を聞きながら『よし、この曲』と思って曲を作るわけですか?」
和田「はい」
タツオ「それが、そのシーンに合ってるって、結構奇跡なんですね、それじゃあ」
和田「そうですね。だから、やっぱり音楽が良いって思えるモノっていうのは、かなり奇跡の積み重ねが」
タツオ「は〜、そうなんだ」
ちょっとの絵コンテと、脚本で映像をイメージして、そのイメージで音楽を作る。それって、物凄く難しいことなんじゃないでしょうか?
で、そこで作った音楽っていうのが、映像に本当に合うか合わないかっていうのは、アニメーションができてからじゃないと分からないわけで…。
「ARIA」の藍華ちゃんが、その場にいたら「恥ずかしい台詞、禁止!!」って怒られそうですが、音楽が良いと思える作品が「奇跡の積み重ね」で出来ている、という表現も決して大袈裟じゃないですよね。
うわ〜、もうこの話聞いた後だと、アニメの作曲されている方に足向けて寝れないですよ。
で、その出来上がった曲を映像に合わせる時に重要になるのが、演出家さんのセンスだそうです。
■アニメ作品の演出と音楽
アニメの音楽を作る上での一般的な話から、具体的に「RIDEBACK」という作品についての話になります。タツオ「じゃあ、『RIDEBACK』の話になりますけど、実際終わってみて感想はどうでしたか?」
和田「素晴らしかったですね」
タツオ「素晴らしかった。勿論、絵も素晴らしかったんですけど、僕らからしたら音楽もスピード感があってカッコ良かったんですけど、何か気を使われたこととかってありますか?」
和田「気を付けた点という意味では、やっぱり絵がないんで分かんなかったんですけど、演出家さんに凄い助けられたなって感じが」
タツオ「あぁ〜。それは、ここはこういうイメージでとか、コミュニケーションをとって…」
和田「そうですね、それは勿論。作った音楽をあてる時ですよね。このシーンでこの音楽を使うっていう」
タツオ「はいはいはい。成る程ね〜」
和田「それを上手くやってくれたんで、良かったなっていう。結構、ここで失敗しちゃうことあるんですよ(笑)」
タツオ「あ、そうなんですか、やっぱりそういうのはある?」
和田「ありますね〜。ダサくなっちゃう」
タツオ、国井、比嘉「は〜〜〜」
タツオ「ダサいっていうのは、どういう時なんですか、例えば?」
和田「もう、明らかに『ハイ、始まりました』『ハイ、終わりました』みたいな感じで。怒ってるシーンに怒ってる音楽を単純にあてたりとか。勿論、そういうことも必要なんですけど」
タツオ「説得力があればいいけど」
和田「余りにも、安易だと…全部それだと緊張感がなくなっちゃうんで。やっぱり、『RIDEBACK』でも、最後にジャンプした時に、最後の最後でピアノのソロの曲を流すっていう。やっぱり、ああいうセンス」
国井「緊張感のあるシーンで、逆にゆったりとした曲をかける演出ってことですよね」
和田「そうですね」
スコアを作っても、どのシーンでどの音楽をあてるかっていうのは、演出家さんのセンスに依るトコロが大きいみたいです。
私は、恥ずかしながら「演出家」という仕事を映像方面での仕事ばかりしている人なんだと漠然と捉えていて、BGMを付けるとかっていうのは、他の人がやられているもんだと勝手に思っていました。
そう言われてみればそうですよね。BGMにしろ劇中歌みたいな音楽にしろ、映像を盛り上げるために使うんだから、「どう、使うか」は演出家さんの仕事になるんですね。
う〜ん、目から鱗。
で、その使い方も安易過ぎるとダサくなるっていうのがおもしろいな、と。
「RIDEBACK」の最後のジャンプっていうのは、最終回で淋がフェーゴに載って踊るシーンのことかな?
「全身で群衆の目を捉える、奇跡のジュテアントラッセ!」
アレは、自分も泣きました。だって、アニメーションのエモーショナルな動きと、ピアノ曲が完全にシンクロしてるんだもの!
あれこそ正に、「奇跡の積み重ね」。
■アニメの見方が、ちょっとだけ広がりました
あんまり自分はアニメを見る時に、今までBGMとかっていうのを気にしていなかったんです。勿論、曲を聞いて「いい曲だな」って思うことがあっても、その後は「これ、作曲した人、スゴイな」で止ってしまっていたんです。
でも、本当は「作曲した人と、このシーンでこの音楽を使った人のセンス、スゴイな」なんですよね。
いや、ものっそい勉強になりました。
実写の映画だと、劇中でロックやポップスなんかの既存の曲を使うことが多いですが、アニメだとほぼ全編がオリジナルのスコアですからね。しかも、作曲する時には絵がほとんど無いとなると、コントロールとか難しい気がするんですが、良い作品っていうのはキチンとその辺が出来てるんですよね。(実写の映画でも、オリジナルのスコアとかを使っている場合は、やっぱり似たような手順を踏んでるんでしょうか?)
アニメの「作曲家」なんていうと、どうしても自分は川井憲次さんと菅野よう子さんくらいしか名前が出てこない、知らない世界だったんですが、アニメの情感を支えるとてつもなく重要な部分なのだと知りました。
ちなみに、和田貴史さんはアニメに限らず、ドラマ(今だと、天海祐希さん主演の「BOSS」のBGMを担当)や美少女ゲームの音楽も手掛ける新進気鋭の作曲家さん。ラジオでは、作曲家になった経緯や、同人音楽についてなど、非常に興味深いお話もされています。お時間があれば、ぜひ一聴を。