石井聰亙「狂い咲きサンダーロード」

 

 
最近、近所のレンタルビデオ屋が石井聰亙監督のDVDを大量に入荷してくれました。 
「高校大パニック」「アジアの逆襲」「突撃!博多愚連隊」「シャッフル」…と未見の作品が一杯で、一昨年に発売されたDVD BOXを買う金銭的余裕がない自分には有難いとしか言いようがないです。崎陽軒のお弁当に入っているシュウマイを白米とのバランスを考えながら味わうが如く、一本ずつゆっくりと楽しみたいと思います。
 
とりあえず、今回レンタルしたのは「狂い咲きサンダーロード」。
学生の頃に見て物凄く衝撃を受けた自分の想い出の中でも大切な映画です。今年になって初めて劇場で観ることができ、大きなスクリーンと良い音響で想い出と対面を果たせて嬉しかったのですが、またDVDで見返しちゃいました。
好きなんですよ「狂い咲きサンダーロード」。
 
以下、大いにネタバレありの感想文です。
 

無軌道な若者達による暴走行為が日々繰り返される架空の街「サンダーロード」。暴走族の連合組織化が進む中、暴走チーム「マボロシ」の特攻隊長であるジンは、馴れ合いを拒否し中間たちと抵抗を続ける。
暴力と暴走に塗れた日々の中で、暴走族の連合軍と政治団体「スーパー右翼」を同時に敵に回すこととなったジンは、片手と片足を失ってしまう。周囲にいた仲間たちも、ある者は抗争の中で生命を落とし、ある者はジンの元から去っていき、またある者は敵対する立場となる。バイクと仲間を失い、自暴自棄になるジン。
荒んだ生活の中で、ブラックマーケットの少年と出会い銃器を手に入れたジンは決意をする。「街中のヤツラ、ぶっ殺してやる」と。
こうして、暴走族連合とスーパー右翼対たった一人の最終抗争が幕を開けた。

 
青春のどうしようもない苛立ちと焦燥、そしてそこから生まれる暴力衝動が画面一杯にぶちまけられているこの映画。
初めて観た時には、それはもう衝撃を受けました。
スーパー右翼の幹部を演じる小林稔侍さんの怪演や、「デスマッチ工場跡」「バトルロイヤル広場」といった痺れる言語感覚と突拍子もない演出。それから、監督と同郷である私には劇中に時折登場する福岡の街並みも非常に楽しいです。
 
ただ、今回、劇場で、そしてDVDで久々に見返してみたら、昔観た時とはまた感じ方が随分変わっていました。
勿論、映画自体は素晴らしく、ジンの孤独と焦燥に共感はするのですが…。観ている間中ずっと、彼の元から去っていった人間たちにも思いを馳せてしまいました。
抗争に恐れをなし逃げ出したマボロシの特攻隊員や、ジンを見捨ててバイクで彼の元を去っていった「チュウ」。学生の頃観た時には彼らに対して、それこそ「百姓! 田んぼの真ん中行って耕運機でも乗ってろよ!!」(←劇中でジンが使う罵り言葉です)と思ったものですが、大人になった今観てみると彼らの「その後」が妙に気になるのです。
 
彼らは、果してキチンと大人になれたのか? 幸せになれたのか? と。
 
「サンダーロード」の男たちは、皆恐ろしいまでに不器用な生き方でしか自己を貫けません。映画のラストで、女はそれなりに器用に生きていく姿が描かれますが、男たちは皆、再起不能なまでに傷つくか、生命を落としてしまいます。
では、物語の途中で「サンダーロード」を捨てた半端物の暴走族たちは最後どうなったのか? と、やっぱり半端な大人の立場になってしまった自分なんかは思うのです。で、そういう見方ができるようになった自分が、ほんのちょっとだけ誇らしくもあり、とても寂しくもある。
 
スピーディーでド派手なアクションシーンとビジュアルイメージの数々も素晴らしいのですが、それ以上に観る者に何かセンチメンタルな感情を与える何かがあって、それがこの映画の一番素晴らしいところなのではないかと思いました。名画です。やっぱり。