アニメ作品における映画音楽のパロディについて - 「夏のあらし!」と「サスペリア」

 
大正野球娘。」「うみものがたり〜あなたがいてくれたコト〜」「かなめも」「青い花」「狼と香辛料II」…と夏アニメがどれもおもしろくて幸せです。
アチコチのBlogでも新番組の話題で盛り上がっていることと思いますが、今回は自分自身への覚え書きという面も含めて前期のアニメ作品である夏のあらし!で気になった部分を書き残しておこうと思います。
 

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「戦争」や「歴史」という重いテーマを扱いつつも、作品全体に流れる人生を前向きに肯定するような明るい雰囲気に加え、新房昭之監督のお家芸である独特な演出の数々も映え、とても楽しい作品に仕上がっていた「夏のあらし!」。
 
ストーリーや絵の部分だけではなく、OP曲を歌っているのが面影ラッキーホール(!)とミドリの後藤まりこさんで、劇中では出演声優さんによる昭和の歌謡曲のカヴァーが数多く使用されるなど、音楽的にも非常に楽しいアニメだったわけですが、歌モノだけでなくBGMでも結構おもしろい試みが行われているんですよね。
 
 

■映画のパロディBGM - 加奈子とやよゐのテーマと「サスペリア

というのが、後半の主要キャラである加奈子とやよゐが登場する時のBGM(直ぐに削除されてしまうと思いますが、一応■参考動画です。始まって、2分40秒くらいから流れ始めるヤツですね)が、ダリオ・アルジェント監督によるイタリアのホラー映画サスペリア」のメインテーマにソックリなんですよ。
 
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このサスペリアのテーマは「GOBLIN」というイタリアのプログレッシヴ・バンドによるスコアなのですが、その曲を絶妙に換骨奪胎してアニメのBGMに使用しています。
ちなみに、原曲はこんな感じです。時々TVのバラエティ番組なんかでも使用されているので、映画を観たことがない人でも聴いたことがある人は結構いらっしゃるんじゃないでしょうか?
 
■GOBLIN / SUSPIRIA(Main Theme)
 
で、またこの「サスペリア」っぽい音楽というのが、劇中での加奈子とやよゐのミステリアスな雰囲気に非常に合っているんですよね。
かなり印象的な曲調で楽曲自体にパワーと説得力がかなりあるので、元ネタとなった映画やスコアを知らなくてもアニメを見ていると加奈子とやよゐのキャラクターや作品の情感は伝わってくるのですが、「サスペリア」を知っている人間が見ると、あの映画の不気味でミステリアスなイメージが想起されて加奈子とやよゐのキャラクターがより分かりやすく、強固なものとして伝わってきます。
 
夏のあらし!」でBGMを担当されたのはken satoさんという作曲家の方で、アニメ関連の仕事だと以前に「ギャラクシーエンジェル2」のキャラソンや、声優の堀江由衣さんの楽曲のアレンジを担当されたことがあるようです。新房昭之監督は自身の作品において頻繁に映画作品のパロディを使用しますが、この辺は監督のセンスによるものだったりするのでしょうか? 「さよなら絶望先生」でも「サイコ」のパロディシーンでは、ちゃんと「サイコ」っぽい音楽をかけていましたし…。
 
作曲家さんの作家性によるものなのか監督の意匠なのかは分かりませんが、「夏のあらし!」における「サスペリア」っぽい楽曲には映画の持つイメージと、加奈子とやよゐのキャラクター性が同時に託されていたように思うのです。
 
 

■映画のパロディBGM。もっとアニメで使えばおもしろいかも…

個人的に非常におもしろいと思った「夏のあらし!」BGMにおけるこの試み。他のアニメでも、こういう遊びを入れていったら、結構おもしろいのではないかなと思うのです。
というのも、アニメ作品の中で映画のパロディを目にすることはよくありますが、映画のBGMなんかを使った音楽的なパロディってそれに比べると少ない気がします。ただ単に自分の目が行き届いてないだけかもしれないんですが…。
 
優れた映画のスコアは沢山ありますし、アニメもそれらの楽曲が持っているイメージとか意味合いっていうものを取り込むことで、作品やキャラクターを立てるのに役立てることができる気がするのです。
 
例えば、小林治監督の「魔法遣いに大切なこと〜夏のソラ〜」では、ロードムーヴィー的な映画のイメージに合わせてか劇中のBGMに「チョイ〜〜〜ン…」という哀愁の響きに満ちたスライドギターが使用されています。
  
これなんかは映画が好きな人たちにとっては、瞬間的にライ・クーダーのスライドギターの音色と彼がスコアを担当した映画作品の数々(例えば、ヴィム・ヴェンダースの映画とか)なんかを連想させ、アニメを見ているときの情感を凄く広げてくれると共に、作者や作品の背景にあるものなんかが見えてきて凄く奥行きを与えてくれるんですよね。
 
 
単純に著作権の問題とかが色々あるのかもしれませんが…映画好きでアニメ好きの自分からすると、「夏のあらし!」で見られたようなBGMの「遊び」はなかなかに興味深い演出であるように思います。
秋から始まるという第二期でも、果してこういった音楽的な遊びや演出は行われるのでしょうか? 今から非常に楽しみです!