テレビアニメ「かなめも」は、音楽による演出がおもしろい!

 
今期から始まったテレビアニメかなめもが、とってもおもしろいです。
 
キャラクターが可愛くて、絵が綺麗でよく動いてて…という視覚面でのおもしろさっていうのも勿論大きいのですが、個人的には劇中でのBGMの使い方など聴覚へ働きかける演出の数々にもセンスを感じています。
特に、第3話「はじめての、スマイル」では、そういったおもしろい演出が色々と行われていたので、その辺についてちょっと書いてみたいと思います。
 
 

■ストップ&ゴーなBGMの使い方

かなめも」は、音楽的にとても賑やかで楽しいアニメです。
個性豊かで可愛い女性キャラクターが多数登場するのに加えて、劇中では様々なBGMがドラマに合わせて常に流れ続け、明るい作品のイメージを形作っています。
他作品に比べると使用されている種類も多いBGMのほとんどは、テンポの良い明るい楽曲で構成されており、とにかく楽しくてかしましい。
 
一方で、主人公の中町かなは、一緒に暮らしていた祖母を亡くし、身寄りがないまま新聞の販売所に住み込みで働き始める、というキャラクターであり、主人公の孤独感や喪失感、悲しみなんかも劇中ではキチンと描かれています。
そして、そうした場面では、それまで劇中でかしましく使用されていたBGMを消しさり、意図的に音の空白を作ることによって、日常パートの楽しいイメージとの間に差を作るという演出が行われているのです。
 
例えば、第3話「はじめての、スマイル」では、「かなが祖母を亡くして後、初めて学校に行き、クラスメイトと会話をするシーン」や「上手に笑うことができなくて落ち込むシーン」等で、それまで常に流れていた明るいBGMが消え去り、キャラクターの会話や所作のみでドラマ作りが行われます。
 

天涯孤独の身となった主人公と、そんな彼女を気遣うクラスメイト。こういったシリアスな場面ではBGMが使用されないのです。
 
BGMをふんだんに使用した日常パートとのギャップが、観る側に寂寥感や悲しい雰囲気を伝える、これらの演出。
 
ここで私が「上手い」と思うのが、こういう悲しい場面で、暗い曲調のBGMや悲しい曲を敢えて使用しない、というスタッフのセンスです。恐らく、こういった場面でそのまま暗い曲を使用してしまうと、悲愴感が強く出過ぎてしまうか、あるいはストレート過ぎて観ている側はシラけてしまうと思うのです。
その辺を分かっているから、日常パートではBGMをふんだんに使用して作品の楽しく明るい雰囲気を構成し、寂しさや悲しみを描く場面では敢えて無音にし、観る側に伝わるエモーションに差を作っておく。
 
はしゃぐ時は徹底的にはしゃいで、かつ締めるトコロはキッチリと締めるという音楽的演出は、そのまま「かなめも」という作品を体現しているようでもあります。
 
この他にも、作り手側のセンスや、作曲者の豊富な音楽的語彙が見え隠れする場面が色々とあります。
 
 

■第3話に出てきた映画音楽のパロディ

以前、アニメ版の「夏のあらし!」で、映画「サスペリア」のBGMがパロディにされていたことについてエントリを書かせていただきました。
 
■アニメ作品における映画音楽のパロディについて - 「夏のあらし!」と「サスペリア」
 
夏のあらし!」では、ホラー映画「サスペリア」のテーマを用いることによって、劇中に登場するキャラクターのミステリアスなイメージを演出していたのですが、「かなめも」の第3話でも同じようなパロディによる演出技法が使用されていたのです。
 
意図して笑顔を作ろうとすると、上手に笑うことができず、怖くて不気味な顔になってしまう主人公。なんとか、新聞の勧誘を行おうとするのですが、その不気味な営業スマイルのせいで出向いた家の住人を戦慄させてしまいます。
その場面で、アルフレッド・ヒッチコックの映画「サイコ」と、アメリカの怪奇SFドラマトワイライトゾーンの音楽がパロディ的に使用されているのです。
 
■Youtube - Psycho / The Murder
 
■Youtube - Twilight Zone / Opening Theme
 
一軒目と二件目、外国人の方と女性の家を訪問した際に、ほんの一瞬BGMというか効果音的に使用されており、原曲を見事に換骨奪胎してパロディ…というか、ほとんどそのままなのですが…に仕立てています。
 

映像面での演出の数々に加えて、ホラー映画的なBGMを使用することで「恐怖」を表現。
 
この場面では、主人公の不気味な笑顔を、相手のリアクションと身体から出ている邪悪なオーラという視覚的な演出で表現すると共に、そこに加えて「サイコ」「トワイライトゾーン」という映画作品のスコアを使用することで、元ネタとなった映画作品が持つ「恐怖」や「戦慄」「怪奇」のイメージを取り込み、より「怖い」イメージを強固にしようとしているのです。
作品内のキャラクターのイメージを守るためには、主人公の顔を直接的に怖く描くことはできないわけで、それをアニメ的な視覚表現と音楽によって見事に表現している。元ネタとなった映画作品のファンとして、思わずニヤリとしてしまうと共に、見ていて感心させられた場面でした。
 
 

■まとめみたいなもの

このように、BGMや音が使える「アニメ」だからこそできる演出の数々を、テレビアニメ「かなめも」は非常に上手く使用しているように思うのです。
 
かなめも」の音楽を担当されているのは、アニメ版の「とらドラ!」も手掛けられた、作曲家の橋本由香利さん。Wikipediaで関わった作品や楽曲のリストを見てみても分かるのですが、本当にスゴイ経歴の方です。ちなみに、アニメのOP曲「君へとつなぐココロ」を作られたのも橋本さんですね。
 
この辺りの音楽的なおもしろさっていうのは、各回の演出や脚本によっても少しずつ変わっていくものなのでしょうが、作曲家やスタッフのセンスが見えて、とても興味深く感じます。
勿論、映像的な演出の数々も見ていておもしろいですし、何というか非常に丁寧で、ある意味ではとても凝った作品だと思いますね。「かなめも」というアニメは。
 
 
<関連エントリ>
■アニメ作品での作曲家の仕事って? - 音楽と演出の重要性
 
<関連URL>
■かなめも第01話が面白かった パンツブラインドと背景の演出の解説(karimikarimi様)
 
 
 
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エントリ内で、「トワイライトゾーン」について触れましたが、世代的にドラマ版を観る機会がなかった自分にとって「トワイライトゾーン」といえば、スピルバーグによる映画版。「トワイライトゾーン/超次元の体験」だったりします。
 
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スピルバーグに加えて「サボテン・ブラザーズ」やマイケル・ジャクソンの「スリラー」のPVを撮ったジョン・ランディス、「ハウリング」「マチネー 土曜の午後はキッスで始まる」のジョー・ダンテ、そして「マッドマックス」シリーズのジョージ・ミラーと、今考えたらメチャクチャ豪華な面子によるホラーオムニバス映画。
飛行機恐怖症の男が嵐に巻き込まれた航空機の中でモンスターと戦う、ジョージ・ミラーの作品が私は好きですね。
初めて観たのが子どもの頃だったので、もう怖くて怖くて…。半ばトラウマ的に想い出に残っている作品です(笑)。
 
こういうオムニバスのホラー映画、また誰か作らないですかねぇ?