シドニー・ルメット「セルピコ」

 
アル・パチーノが好きです。
 
ゴッドファーザー」で、父親の仇を討つために敵対するマフィアと悪徳警官を射殺する。今までの平穏な生活を捨て、マフィアの仕事に手を染める瞬間の覚悟の表情が好きです。
スケアクロウ」での純真すぎるが故に、つらい現実に打ちのめされ、ラストで悲劇的な結末を迎えてしまう。そんな悲哀のある男「ライオン」を演じる姿が好きです。
スカーフェイス」の豪邸の中でロケットランチャーとマシンガンをぶっ放す姿が好きです。
「ヒート」で、デ・ニーロと絡んでる所を観るのが好きです。
 
そんなアル・パチーノ主演の「セルピコ」をDVDで観ました。
 

 

ある夜、重症を負った警官が病院に搬送されてくる。
ストレッチャーに乗せられ顔面から血を流すその男は、ニューヨークの警察署内に蔓延る汚職を告発し、仲間内の警察官から疎まれていた、麻薬課の私服警官フランク・セルピコだった。
場面は、彼のこれまでの人生を振り返る回想シーンへと移り変わる。
警察学校を卒業し、希望に満ちた表情で警察官としての道を歩み始めたセルピコの姿。
しかし、この時から彼の苦闘の歴史は幕を開けていたのだった…。

 
警察内部の汚職や腐敗と闘い続けた警察官の実話を基にした映画。
 
体制に盲従することを良しとせず、警察官でありながら髭を蓄えヒッピーの様な出で立ちで、犯罪と対峙をするセルピコ。正義感が強く、どこまでも真っ直ぐで誠実な警察官。アル・パチーノ演じるフランク・セルピコの姿は、理想のヒーロー像そのものです。
しかしながら、組織の一員となったセルピコは、汚職と腐敗に塗れた警察内部の姿を目撃してしまいます。
自身の正義と誠実を貫き汚職と闘うセルピコですが、そのせいで組織から疎まれ、孤立をしてしまう。そして、不安と報復による死の恐怖と、現実に対する失望とが、やがて彼を人を寄せ付けない孤独な男へと変貌させてしまうのです。
 
物語の中で描かれるセルピコの「理想」と「現実」、「個人の正義」と「組織」といった対比の数々は、観ていて辛くなるほど冷徹でシビアです。正しい行いをしているハズなのに、その正義が次々にセルピコから大事なモノを奪っていってしまう。ひたすら不条理な現実の姿は、それ故に観るものに強い印象を与えます。
 
悩み、傷つきながらも、そんな不条理に闘いを挑んだフランク・セルピコと、スクリーンの中で彼を演じたアル・パチーノ。カッコいいです。凄く。
 
 

 
作品が持つドラマ性とは別の部分で、本作で強く印象に残ったのがオープニングのシークエンスです。
サイレンの音とセルピコのうめき声をバックに、黒一色の背景に白抜きでタイトルやスタッフのクレジットが浮かび上がります。ひたすらクールで、寡黙な幕開け。
この後に待つセルピコのハードな苦闘との対比に、思わずグッときてしまいました。
 

セルピコ [DVD]

セルピコ [DVD]