「にゃんこい!」 テンポの良い作劇の中に映える、もどかしい二人の距離
「にゃんこい!」第5話「四角関係の刻(タイムズ・スクウェア)」。
遊園地での恋愛模様を中心に、そこから学校での日常パートになだれ込み、千鶴さんの出番もシッカリ描いた上で、新キャラを出して「引き」で終わらせる。ひたすらテンポの良い作劇で非常に楽しめました。
しかも、ただ単に軽快なシナリオというわけではなく、潤平と楓の関係に若干の変化があったことで、恋愛のもどかしさや、各キャラクラーのいじらしさが増してきて、作品のエモーショナルな部分は更に加速。これからも展開も非常に楽しみですね。
で、また、遊園地での潤平と楓。二人の描き方が、非常に巧い! 今回は、その辺りについて自分なりにまとめた感想文です。
■実は、非ハーレムな「にゃんこい!」の構造
「にゃんこい!」という作品を、主人公が猫の呪いによって振り回されるコメディ作品ではなく、もう一つの側面であるラブコメ的な視点から見てみた場合に、おもしろいのがその作品の構造だと思います。一人の男性主人公の周囲に、可愛くて魅力的な女の娘が複数。
「にゃんこい!」の物語の構造は、パッと見はハーレムラブコメに見えますが、その実、物語の主軸として存在するのは、主人公潤平の楓に対する純粋な、ブレのない恋愛感情です。
それは、この第5話で描かれた、ヒロインの一人である凪からの告白に対する潤平の答えを見ても明らか。
「すんません! 俺、やっぱり水野が…。先輩の気持ちは嬉しいんですが、自分の気持ちは自分で伝えたいんです」
自分には「水野楓」という大事な人がいるから、その気持ちは受け取ることができない。
その誠実さと人の良さ、そしてそれに付随する鈍感さのせいで、次々と現れるヒロインたちに好意を持たれては、恋愛の選択肢を増やし続けているように見える潤平ですが、その実初めから芯は一本。水野楓というメインヒロインしか見えていないわけです。
ですから、見ている人は、一般的なハーレム作品のように、男性主人公がどのヒロインに転ぶのかをドキドキしながら見るのではなく、潤平の想いが楓に伝わるかどうか、果して二人は結ばれるのかという過程に注目をして楽しむことになります。
とはいえ、周りにいる女性たちのせいで楓が誤解をしてしまったり、潤平は呪いを受けていたりと、なかなかその恋の行方は安定しません。
誠実で何だか応援したくなる主人公、潤平と、純情少女の楓。この二人の、どうしょうもないもどかしさこそが「にゃんこい!」におけるラブコメ要素の最大の魅力だと私は思います。
■遊園地における、潤平と楓、二人の描写
そんな二人の関係が"ちょっとだけ"進展をした第5話では、そんな二人の距離感が遊園地という舞台装置を巧みに使うことによって、非常に上手く描かれていたように思います。凪のバックアップを受け手、やたらとツーショットの機会を与えられる潤平と凪。
前半では、メリーゴーラウンドやアイスを一緒に食べている姿を短いカットで次々に映していき、四人の中でも特別な二人という印象を作ります。
そして、中盤以降の物語において、重要な意味を持ちえていたのがお化け屋敷と観覧車。
オバケ屋敷の中では、オバケが怖い楓が恐怖の余り潤平に抱きついてしまい、二人が身体的に接触します。続く、観覧車のシーンでは、密室での二人きりの空間が作られ、楓から潤平へのプレゼントが渡されます。
先ず、四人の中から潤平と楓がセパレートされ、次に身体の接触、そして二人きりの空間の中で贈り物が贈られたことで、楓にとって潤平が特別な存在になる。テンポの早いカット割りや、ドタバタギャグを交えながらも、凄く段階的に描かれていると思うんですよね。
結局は、加奈子に邪魔をされてしまい、決定的な恋の発展までには至らないわけですが、見ていて実に初々しく胸がトキメクような描写の数々。私は、これらのシークエンスを見て、二人の関係が徐々に進んでいく様が、遊園地の遊具や遊戯施設といったガジェットを用いながら、非常に丁寧に描かれているなぁという印象を受けました。
中でも、特に巧いと思ったのが、夕焼けの中を皆で帰る場面。
夕闇の中を、凪、加奈子、潤平、楓の順番に4人を等間隔で歩かせて、
次に、カメラをグッと寄らせて、潤平と楓、それぞれのアップとモノローグ。
そして、最後は「でも…楽しかったな」という二人のモノローグに合わせて、ワンフレームに二人の姿を一緒に収める。
この四人の中で、潤平と楓の関係がやはり特別なものであることを印象付ける非常に上手い見せ方だなと思いました。
結局、遊園地での一日を通して、4人の関係が大きく変わるような、そんな劇的な出来事はなかったかもしれませんが、この後の楓の潤平に対する態度の変化も、この辺りの見せ方が冴えているので、非常に説得力を持ってくる。
また、夕焼けのロケーションも最高で、これが後半の引きにも活きてきます。
第5話のラスト。放課後、潤平の後を追いかける楓ですが、なかなか彼に追いつけない。ようやく、潤平の背中に追いつくも、その前には見知らぬ少女が立っていて…という新キャラ登場の「引き」が、同じ夕焼けのシチュエーションで描かれることによって、二人の仲を近づけてくれた遊園地での描写との間に対比が生まれ、これからの一波乱を予感させる見事な余韻を残し、「四角関係の刻」というエピソードは幕を閉じます。
まぁ、何ていうかこの辺の「あ、次も見なきゃ! あ、次も見なきゃ!」と思わせてくれる見せ方の上手さ、テンポとリズムの良さは本当に「にゃんこい!」というアニメ作品の大きな魅力になっていると思いますね。
■まとめ
潤平と楓との間に、ほんの少しだけど確かな進展が見られた第5話。その描写も、見ていて非常にもどかしいながらも、冴えた演出が光っていたと思います。そして、そのもどかしさっていうのが、スピーディーでテンポの良い「にゃんこい!」のシナリオにおいて、逆に強い印象を観る人に与えているように思います。
あと、可愛かったのが、ヤキモキしながら二人の姿を見ている加奈子のブータレ顔。
私は、「にゃんこい!」の中では一番、加奈子が好きなんですけど、基本的には楓以外の女性キャラクターって、恋愛要因というよりは、潤平と楓との関係にうねりを加えるっていう要素が強いんですよね。…報われないなぁ…。
<関連URL>
■これぞ王道、直球ラブコメ!楓の魅力炸裂!『にゃんこい!』 第5話(まごプログレッシブ:Part2〜Scenes From A Memory〜)