テレビアニメの中で描かれるライヴシーンにおける「視点」のあり方について考えてみる

 

 
■アニメにおけるダンス・ライブの振り付け/見せ方を考えよう(subculic)
 
「subculic」さんが書かれたアニメ作品におけるダンス・ライブについてのエントリがとってもおもしろかったので、これに刺激をいただいて自分も以前からボンヤリ考えていた感想をちょっとテキストにしてみようかと。
「テーマ」というと如何にも大袈裟ですが、「アニメ作品のライブシーンにおける視点」について、自分なりにアレやコレやと書かせていただこうと思います。
 
 

■アニメ作品におけるライブシーンの視点について

昨今、アニメ作品において歌やダンス、バンドなど、ライブシーンが描かれることが増えましたが、これらの描写がどのような視点から描かれているかについて、ちょっと考えてみたいと思います。
 
ここでサンプルとして挙げたいのが、けいおん!第一期、本編の最終話である「軽音!」のライブシーン。楽器演奏の動きの再現度や楽曲の良さは勿論のこと、おもしろいのがカメラの位置・視点の描かれ方です。
 

 
上記の画像は、あずにゃんとさわちゃん先生がツインギターでメロディを奏でるシークエンスですが、こうして並べてみると同じギターという楽器を担当しながら梓は下からの煽りで、さわ子先生は上からのカメラでそれぞれのアクションが描かれているのが分かります。
細かなことですが、こうしたカメラ位置の変化が画面の中に作り出すリズムが作品内に与える効果というのは非常に大きいように思います。端的に言って、単調さを観るものに感じさせず飽きさせない、そして、絵の動きや情感にダイナミズムと説得力が加わる。
 
こうした視点の変化、カメラ位置の変化によるアニメーションのアクセントは、「けいおん!」各キャラクターの動きの中で見ることができます。劇中に登場をするバンド、放課後ティータイムのヴォーカリストである唯が歌うシーンなんかもそうですね。
 

 
横顔を捉えたショットや正面からのショット、また上からのカメラで撮ったショットなんかが混在しています。
それがアニメーションの魅力そのものにも繋がっているわけですが、ここでちょっと考えてみたいのが、こうしたシークエンスの数々が誰の視点から描かれているか? ということです。
 
例えば、お客さんとしてライブを観に行ったとしましょう。その場合、ステージ上の演者を見る目線は客席からの視点に限定されます。
ですから、こうした多様な方向からの目線から捉えたキャラクターの動き、音楽の描かれ方というのは、通常の音楽ライブでは体験できないヴィジュアルイメージの数々であるということになります。
 

 
ライブパフォーマンスを行うキャラクターの背中や、ステージ後方からパフォーマーとオーディエンスを撮ったカット。これなんかも、客席からは絶対に体験できないポジショニングからの目線が生む「絵」ですよね。
 
どうして、このような絵が出てくるのか? 要は、観客席ではなくステージ上にカメラがあるわけです。つまり、アニメ作品の中で描かれるライブシーンの多くは、客席からの視点ではなく、ステージからの視点で描かれている。
ですから、こうしたアニメ作品で描かれる音楽のシークエンスを受け取る我々の私たちの目線というのは、会場で客席から観ているというよりは、ライヴビデオやテレビの音楽番組で歌うミュージシャンの姿を観るような…プロによるカメラで切り取られた演奏や歌唱、ダンスを観るという感覚に近いのだと思います。
 
これは単純かつ当たり前。改めて文章にするほどのことではないのかもしれませんが、こうした視点の描かれ方というのを意識して見てみると、また作品内に込められた様々なニュアンスとディティールが見えてくるように思うのです。
例えば、「けいおん!」と同じく劇中の音楽描写が大きなヒットとなったマクロスFにおけるランカ=リーのライブシーンも、やはりステージ上からの複数のカメラによる音楽・キャラクターの描かれ方が大きな魅力となっていましたよね。
 

 
ランカちゃんの正面、横顔、バックショット、顔のアップ…様々な角度・距離から観る超時空シンデレラの歌とダンス。
客席から肉眼で見える一方向からの視点では捉えきれない、各方向からのキャラクターのヴィジュアルとアクションの魅力がギュッと詰まっていて、何というか贅沢な出来になっているな、と。実際にアイドルのライブビデオとかを何度も何度も見返して、研究して作ったんだろうなぁ、というのが伝わってきます。
 
勿論、実際の音楽ライブで客席から熱狂しながら見るライブは最高なわけですが、こうしたアニメという映像表現の特性・強みを活かした音楽ライブの描写にも、また特別な魅力が存在しているのが感じられます。
 
 

■プロショットとオーディエンスショット

一方で、ライヴ会場で客席からステージを観るような視点、オーディエンスの目線から観た世界というのは余り描かれることがない気がします。
 
ライブビデオや音楽ドキュメンタリー、テレビライブ…音楽を映像化する際に、先ほど「けいおん!」や「マクロスF」の中で使われていたような、ステージ上から複数のカメラによってステージを収めた映像は音楽ファンの間では「プロショット」と呼ばれています。世の中にあるライヴ映像の大多数は、このプロショットによって作られています。
 
しかしながら、プロショットとは違い、観客席から直接ライブの様子をビデオに収めた映像も中には存在します。これは、プロショットとは逆に「オーディエンスショット」と呼ばれています。オーディエンスショットによるライブ映像というのは、実際にはこんな感じです。
 


 
延々、一方向からのショット。カメラは一つだけで他のカメラとの切り替えはなし、手ブレは酷いし、音質も最悪。映像的なアクションといえば、たまにズームアップがあるくらい…と、高い完成度を誇る「けいおん!」や「マクロスF」のライブシーンと比べたら(比べるもんでもないですが…)、格段に粗くて洗練されているとは言い難い映像です。しかしながら、ライブの臨場感とリアリティは、前述した作品群とはまた違う位相で強烈に伝わってくるものがあります。
 
このプロショットとオーディエンスショットという用語。どのような場で使われているかというと、ブートビデオの世界です。「ブート」なんて横文字を使っていますが、早い話がアンオフィシャルなビデオ、海賊版裏ビデオのことですね。ブートビデオは違法ではありますが、ネット上の動画サイトやmyspaceが一般的になる前は、こういった海賊版のビデオでしか伝説のバンドや海外の未だメジャーとは言えないバンドの動いている姿を観る機会はなかったわけで…まぁ、その存在の是非はここでは置いておいて。
 
思えば、こういう観客席からの一人称視点からの「絵」ってアニメのライブシーンではなかなか見ないな、と。
 

 
けいおん!」では、アクセントとしてオーディエンスショット、観客の目線から観たステージが時折レイアウトされていて良いアクセントになっていましたが、こういうオーディエンスの視点を意識したカットを挿むと、またリアリティーと説得力がグッと増すように思います。
延々、オーディエンスショットで撮ったライヴシーンなんかがアニメに出てきてもおもしろそうですよね。
 
 

■まとめ

ステージを客席から観る生のライヴのビジュアルと、アニメの中で描かれるようなカメラを通して体験するライヴのビジュアル。私たちが音楽を映像で捉える場合、そこには大きく分けて二つの視点が存在しているわけですが、アニメという「映像」の表現分野が後者に特に力を入れて音楽を描いているのは、そのジャンルの特性と長所を考えるとやはり興味深く思います。
 
…と、まぁ、アニメにおけるライブシーンをどう描くか? について、ブートビデオとの比較なんかも行いながらツラツラ書いてみましたが、本当はそんなことどうでも良くて、放課後ティータイムのライヴを普通に客席から観たいので、誰か私を「けいおん!」の世界に入れるようにしてください。
 
 
 
<関連エントリ>
■「けいおん!」のキャラクター名について考えてみる - 名前に託されたキャラクター性